Coolier - 新生・東方創想話

神在月の今日

2010/02/25 15:53:52
最終更新
サイズ
4.37KB
ページ数
1
閲覧数
895
評価数
4/16
POINT
690
Rate
8.41

分類タグ

今年もやってきた神様の月。
幻想郷に存在する八百万の神が守矢神社に集まる、そう今月は神在月。
集まって何をするわけでもない。
酒を飲み、思い出や自慢話に花を咲かのだ。
広い座敷で大勢の神様に囲まれ、水橋パルスィは一人盃を傾ける。
温泉の一件があって以来、地底と地上の交流が深まり、今まで旧都への入り口を守っていた彼女にも声が掛かったのだ。
しかし呼ばれて行ってはみたものの、長い間地下から出ていないので知っている神様も居ない。
周囲で和気藹々と酒を酌み交わす神々。
喧騒の中、料理の味もよく分からない。
「そう言えばこの間の地鎮祭で……」
「麓の巫女が……」
自分の知らない所で起きた事件、思い出話。そして談笑。
思わず楽しげに話す二人組みの神様を睨みつける。
その視線にも気がついてもらえず、舌打ちをして盃の中の酒をを一息にあおる。
不味い。
いくら地上の光を妬ましく思っても、所詮自分は地底の住人。日の光を浴びれば辛いだけなのだ。
生まれながらにして輝かしい生活を約束された妬ましい奴等め。
もう帰ろう、やはりここには来るべきでなかった。
「隣、良いかしら?」
席を立とうとしたパルスィを呼び止める声。
声のした方を見るとそこには……。
まずは黒紫の霧。瘴気?いや、厄だ。夥しい量の厄。
厄に目が慣れると本体が見えてきた。
フリルの着いた大きく長い赤いリボン。顎の下で結んだ長い緑の髪。赤いゴシックドレス。
「よろしく。鍵山雛よ」
そう言って差し出された手をためらいがちに握る。




「随分と徳の低そうな神様ね。地底の田舎者をかまう暇があるんなら他の神様と徳の上げかたでも話し合ってきたら?」
つい口をついて出る嫌味。
少しだけ嬉しい反面、パルスィの心には急に話しかけてきた雛への疑念が渦巻いていた。
「そんな事出来ないわ。あなたにも見えるでしょ?」
そう言って鍵山雛は軽く手を振る。周囲の厄がゆらりゆらりと揺れる。
「私が他の神様の所に行くとその神様に不幸が降りかかりかねないの」
「それじゃああんたは私を不幸にするための刺客?」
睨みつけるパルスィの目を見つめ、雛は言った。
「あなたは人間だったのでしょう」
パルスィの持つ箸がピクリと動く。
心の奥深くがチクリと痛んだ。
「あなたがどんなに辛い目に会ったかは知っているわ」
箸の震えが大きくなる。
記憶の底から湧き上がるイメージ、感情。
豪雨、突風、川に映る鬼の顔……。
「私は人の厄を取り除いてこの体に集めるの。もし私が人間だった頃のあなたに出会っ……」
限界だ。
「黙れ!」
箸をお膳に叩きつけてパルスィが怒鳴る。
その声もすぐ宴のざわめきにかき消された。
鍵山雛の厄よりもどす黒い炎が胸の奥で燃える。
「いまさら何?偽善を見せるな!嫉妬に狂い、鬼神に身を堕とす私を救えたとでも言うつもり?」
雛の胸ぐらを掴み、顔を引き寄せて、
「自己満足のために人の古傷抉るなんて趣味が悪いわね」
凄むパルスィを無言で見つめる雛。
その目には恐怖でも、怒りでもなく、悲しみが浮かんでいた。
胸を焼く黒炎にしとしとと雨が降る。
「何か言いなさいよ。あんたは私を救えたの?あんたと出会ってたら私は太陽の下で暮らせたの?」
次第激しさを増す雨。
「ごめんなさい……」
人間を辞めたあの日と同じ土砂降り。
「謝って済む事じゃないわよ!私が堕ちる時、あなたは誰を救っていたの?私は誰の代わりに地下へ落とされたの?妬ましいそいつは誰なのかしら!ねえ……ねぇったら……」
いつの間にか心に降る雨が溢れ出していた。
止まる事の無い大粒の涙。
八つ当たりである事は分かっている。
ただ、思いをぶつける相手もいないで地下で過ごした数百年。
その数百年分の思いが溢れ出し、理性を押しやったのだ。
ただ止め処なく流れ出す冷たい涙。
橋姫と化してから初めて流れた涙は畳に小さな水溜りを作った。
「ごめんなさい」
濡れた頬を雛の両手が包む。
「ごめんじゃないわよ……妬ましい……」
力無くうなだれ、嗚咽を漏らすパルスィ。
その金髪を鍵山雛が優しく撫でる……。



……いつまでそうしていたのだろうか。
ゆっくりと雛がパルスィから体を離した。
パルスィが顔を上げる。泣き腫らした目の周りが赤い。
「そろそろ離れた方が良いわ。あなたの『厄』はわたしが引き受けたから」
気が付けば雛の周りに漂う煙がより濃くなっている。
「わたしの厄を……?」
掠れた声でパルスィが訊ねる。
「ええ、罪滅ぼしだなんていう気はないわ。……でも、あなたが地下で暮らす事になってしまった責任は私にもあるから。せめて幻想郷での生活を楽しんでもらいたくて……」
申し訳なさそうに雛が言うと、
「おおい!そこの橋姫、地下の話を聞かせなさい!」
むこうの席から声が掛かった。
顔を赤らめた八坂神奈子が徳利を振っている。
「一人だと宴会もつまらなかったでしょう?」
振り向いたまま固まるパルスィに雛が呼びかける。
パルスィの肩が震える。
神奈子の方を向いたままの横顔に笑みが浮かぶ。
「お断りよ!神徳のある妬ましい神なんかに話すことは無い!」
パルスィはそう叫ぶと鍵山雛の方へと向き直った。
「償いなんてさせないわ。今から私の愚痴を聞いて一生悔やめ。それに、あんたも酒飲む相手が居ないんでしょう?」
雨上がりの空はきれいだ。
その顔には嫉妬深い鬼女ではなく、一人の少女の笑顔があった。
どうも初めてです。
リンク先に他の小説もあります。
興味あればどうぞ。
ふぐるま
[email protected]
http://mypage.syosetu.com/48594/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.430簡易評価
2.50名前が無い程度の能力削除
いくらなんでも展開が超スピードすぎるような。
書き方は好き。
8.60名前が無い程度の能力削除
お話の筋自体は好きです。
もっと個々のエピソードに深みを与える様な描写があれば、
さらに良くなると思います。
11.80名前が無い程度の能力削除
あーん、もうすこし、描写が丁寧だったらうれしいかなと。

でも文章一つ一つが丁寧だし
なにより雛パルだから幸せ。
12.無評価ふぐるま削除
評価ありがとうございます。
私はまだまだ未熟ですね。
次はもっと落ち着いて丁寧に書こうと思います。
13.70ずわいがに削除
雛は優しいなぁ。パルスィずっともやもやを吐き出したかったんだなぁ。