Coolier - 新生・東方創想話

猫を拾おうかと思ったら酷い目に遭ったわけですが

2010/02/22 01:35:45
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 鬼の根城、地獄の一角、深い深いこの世の最奥、それがここ地底界。だが、この度の区画整理や妖怪たちの大規模移住によって大きな変貌を遂げる事となった。忌み嫌われた妖怪たちの楽園、鬼も魑魅も魍魎も跋扈する、地底都市旧都。
 しかしそんな中でも必ず爪弾きにされる者は出てくる。言うまでも無く、この私を含めた妖怪、覚だ。当然だろう。人間はもとより、精神的なものに能力を大きく左右される妖怪である。心を読まれるとあってはとても安心できないのだから。そして、そんな妖怪に与えられた場所がこの地霊殿である。良く言えば救済措置、悪く言えば隔離だが、これが双方のために最良なのは私も同意している。
 嫌われるのには慣れているから。

 地霊殿は、思ったよりも綺麗で、思ったよりもずっと巨大だった。地上であれば山を一つ切り崩さねば作れないような敷地にそびえ立った本殿。これだけでも十分すぎるほどの広さ。しかし奥にはここよりも広大な、怨霊を封じた場所がある。そしてそのまた奥には灼熱地獄、もとい元地獄があるのだ。正直、本音を言えば幻想郷に残る事を選んだ私たちだけが管理するにしては広すぎる。でもやるしかないのだ、私にはこれしかないのだから。
 怨霊を封じた地獄跡に足を踏み入れると、彼らは蜘蛛の子を散らすようにあちこちへと逃げていく。無理もない、幽霊は人間や妖怪よりも敏感で臆病だ。私がどんな者なのか、すぐに理解したのだろう。私は嫌われるのには慣れている。この程度はなんともない。
 もう少し奥へ行くと、地獄の熱で空気が熱くなっているのを感じるようになる。ここまで来ると妖精もほとんど姿を見せない。意識の希薄な、幽霊と変わらない怨霊がうろうろしているくらいだ。ここなら、私も嫌われずにいられるかも知れない。慣れているとは言っても、あまり気分のいいものではない。

「にゃーん」
 不意に耳に届いた声に驚いて振り向くと、猫がいた。黒く、赤い猫だ。動物は意識を隠そうとしない。それだけに心の声も自然で、今のように気づかずに近づかれる事は少なくない。気づけばこの猫だけではない、あちこちに烏や猫が集まってきている。どうやら地獄に住み着いた動物たちらしい。
「はじめまして、私はさとり。 古明地さとりと申します。
 地霊殿とこの旧地獄を監督するためにやってきました、よろしくお願いしますね」
動物は私を怖がらない、だから私は動物が好きだ。彼らは心を偽らない。何匹かの物好きな動物は私を歓迎し、何匹かはいまだ判断に困ってじっと見つめている。
 私は目の前に座る猫を怖がらせないようそっと手を伸ばす。猫は鼻先を近づけ、こちらを覗き込む。こうして猫と瞳を合わせると、動物たちも私と同じように心が読めるのではないかと錯覚する。心を読む限りはそんなことはないのだが。何故か彼らは直感的に目の前の者がどんな者なのか判るらしい。正直、それくらいの方が楽なのかもしれない。
「にゃーん」
 猫は擦り寄って声を上げた。驚いた、随分と馴れ馴れしい猫もいるものだと。どうやらこの子は私に好意を抱いてくれたらしい。もちろん悪い気はしない。私は伸ばした手で首を軽く撫でてやる。もう少し右、もっと強く、などと注文の多い子だ。だが結果的には喜んでくれる、やっぱり悪い気はしない。
 しばらく動物の相手をしてから、いよいよ灼熱地獄へと向かう。管理をしなければいかない中で一番の難所である。高くなっていく温度を肌で感じながら歩いていると、背後から何匹かの動物が着いて来る。何をしにいくのかと聞いてくるので、
「灼熱地獄を見に行くんです。 私が管理をしなくてはいけないでしょうから」
と言うと、さっきの猫が私の前に飛び出す。案内をしてあげる、だそうだ。ありがとうと声をかけ、私はその猫についてまた歩き出す。廃れた道に吹き荒ぶ熱風に歩みを邪魔されたが、猫のおかげで道に迷わず3分ほどで到着する。何か曲をかけていたらちょうど終わるくらいだろうか。
 灼熱地獄は想像通りだった。暑い。熱い。ただ熱い。動物たちの声も熱い、熱い、熱い、ご飯食べたい、熱い、熱い、熱い。何か混じっていた気がするが私は暑さに強くはない。地獄の様子見は今日はここまでにしておく事にして、家路を急ぐ事にした。

 それほど長く居たわけではないのに服は汗ですっかり湿ってしまった。湿った服の裾をつまんでどうしよう、と口に出すとまたもやさっきの猫が現れる。曰く、近くに温泉があるので入っていってはどうか、だそうだ。どうやら懐かれてしまったらしい、何故かはまったくわからないのだけども。ともかく願ってもない申し出なので快諾、にゃーんという威勢のいい声について行く。
 湯気が上がっている。かすかにあの温泉独特の臭いもする、なんと言ったか、とにかくあの臭いだ。大きな岩の裏に回るとそれはそれは立派な温泉があった。きっと以前の地獄の住人が整備したのだろう、いくらか手が加えられたように見える。これなら何も文句はつけようがない。私は猫にお礼を言おうと辺りを見回すが姿が見えない。やはり猫だから水は苦手なのだろうか、とりあえず心の中で感謝をする、ありがとう。そしてさっそく汗で湿った服から解放され、温かいお湯に浸かる事にした。
 つま先をつける、地獄の温泉だからと言って煮えたぎっているわけではなかった。願ってもないちょうど良い温度である。旧地獄に住めと言われた時はありとあらゆるトラウマを掘り起こしてやろうかと思ったものだが、案外悪い事ばかりでもない。普通の人妖なら半身ほどしか浸からないが、私にとっては肩辺りまでゆっくりと浸かることが出来る。たまには体の大きさが小さい事も役に立つ。これだけ上手く事が進むと気分もよくなってくるものだ。久しぶりに口笛なんか吹いてみたくなる、もちろん曲は3rd eyeに限る。ああ、ついに私の楽園が見つかった……今だけは怨霊も妹も忘れていたい……
 ゆっくりと温泉に浸かり、温まったところではっと気づく。濡れた体をどうしようかと。まぁ誰かに見られるわけではないが羞恥心と言うものがある。かと言って濡れたまま湿った服を着たら状況が悪化してしまう。自分の浅はかさを呪っていると、声が聞こえた。
「にゃーん」
「貴方は……さっきの猫ですね。 でも猫ではタオルや替えの服はさすがに頼めませんか」
「にゃーん」
「えっ」
 今この猫はなんと言っただろう。そう、タオルと替えの服を地霊殿から持ってきたと言うではないか。半信半疑でさっきまで服を置いていたところに目をやると確かにある。惜しむらくは私のではなく妹の服の予備だという事だが、猫にしては十分すぎるほどの働きだろう。
「ありがとうございます、帰ったら何かご馳走してあげますね」
「にゃーん」
 化猫の類なのだろうか。とにかく感謝して私は着替えようと温泉から体を引き上げる。
「ん?」
 変な思考が見えた気がする。気にせずにタオルを手に取り濡れた体を拭いていく。
「……誰かいるのですか?」
 うん、嫌な思考がばしばし浮かんでは消えている。一言で言うなら、何かに覗かれている。しかし周りには誰も居ない。誰なのだろう、人が気にしている胸の大きさやお尻についての妄想を垂れ流しているのは。
「上……にもいませんね。一体どこに……」
 猫と眼が合う。ああ、そうでした。この子がいましたね。でもまさかこんな親切な猫がこんな酷い変態のような思考を垂れ流しているはずがn
垂れ流してるよこの子。
慌ててタオルで体を隠し、適当に弾を放つと猫は慌てて逃げていく。油断も隙もあったものじゃない、まさかこんな猫がいたとは。
「あれ、何か足りませんよ?」
 スカートを履こうとして気づく、下着がない。ならさっきまで着ていた下着で我慢しよう、と思ったらない。ああ、やっぱりここは楽園ではなかった、間違いなく地獄だった。


 これほど羞恥を味わいながら家路に着くのは初めての経験である。あの猫は一体なんだったのか。そもそもなぜあんな真似をしたのか、出来たのか。どうやら私がこれからすべき事は決まったようだ。あの猫を捕まえ、私に害をなすならば罰を、助けとなるなら謝罪させる事。そして理解した。名も知らぬ不思議な猫、私が旧地獄で暮らしていくにはあの子を何とかしなければならないと。これは私に与えられた試練なのかも知れない。改めて決意しよう。私は地上の生き地獄よりも遥かに辛い、地底の地獄で強く生きて行こうと。

 でもその前にまずパンツを履きたいです。
※このお話はフィクションです。
前作『猫を拾ったのよ』にコメント、評価ありがとうございます。
目に痛い中最後まで読んでくれた人には頭が下がる思いです。


ところで本来ならさとりちゃんへの想いやお風呂シーンで濡れた髪が上気した頬に張り付いて色っぽいとかサードアイが濡れないように頭に乗せてるとかどうでも良い事をあとがきで延々書き連ねようと思っていたのですがメガネが神隠しにあってパソコンの文字が見づらくなってしまいこれはきっとゆかりんが私にちょっと頭冷やそうかと優しく諭してくれてるんだなぁゆかりんは本当にかわいいなぁと思う事にしてあとがきに代えたいと思いますありがとうございました。
あとお燐のイメージをぶち壊しにされた!って方、ごめんなさい。
お燐じゃないかもしれません。
六日
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コメント



0.540簡易評価
1.90名前が無い程度の能力削除
お風呂とかもっと詳し…いや、ゆかりんなら仕方ないな

猫になれば、さとパンが手に入るんですねっ!?
10.80万年初心者削除
「こんなに恥ずかしいのなら、ぱんつなどいらぬ!」と、雄々しく仁王立ちをするさとりんの姿が見える






>頼ませんか
11.無評価六日削除
脱字修正しました。コメントと評価ありがとうございます。
……お、おりんりん、ミスと一緒に私を早く灼熱地獄にぶち込んでくれ!
16.90ずわいがに削除
えぇ話や。誰がなんと言おうと、これはえぇ話ってことにしとこう!
しかしいきなり気に入られたもんですね、さとりはwww