Coolier - 新生・東方創想話

銀と紫

2010/02/21 17:37:48
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このお話は『神々の魔窟』の続きとなります。

このお話のみでもお楽しみ頂けますが、

そちらの方を先に読んで頂いた方がもっとお楽しみできるかと。



















魔理沙や神奈子たちが動物になって、もう3日が経とうとしている。

相変わらず元に戻る気配は無く、永琳もお手上げ状態との事。

天才でも解けぬ、ということは万人が考えても解けそうにない。

かと言って、諦めるという選択肢を作るわけではないが。

薬でも効かないというなら、遺伝によるものだろうか。

しかし、親父さんは動物になったことがあるなんて話したことないし、

僕だって、こんな経験は一度たりとない。

霖之助が物思いに耽っていると、

隣でかちゃりという音と共に、神奈子が寄ってきた。

「やあ、調子はどうだい?」

「今の所別状はないけど、すまないね。迷惑かけて」

本当にすまないと思ってるのか、

彼女の耳がしゅんと垂れ下がったのが見えた。

「いや、気にしなくていいよ。それより気になるのはコレなんだが…」

と、霖之助が手にとったのは赤色の首輪。

先程、神奈子が持ってきたものである。

「…。君はこんな趣味があったのかい」

「ち、ちがうよ!い、いや、確かに持ってきたのは私だけど!」

さっきまでのしゅんとした顔もどこへやら、

尻尾は千切れんばかりに振り回し、目は焦点がわからないほどに泳いでいる。

「落ち着いてくれ、冗談だから」

頭を優しく撫でながら、そっと呟く。

「…冗談でもそういうのは好きじゃないね」

怒ってるようにも見えるが、神としての威厳は無く、

神奈子にしても、本気で怒ってるわけではないようだ。

「でも、どうしてこれを?」

再びそれを眺める。

首輪は赤い皮で作られた比較的分厚い物のようだ。

首輪についている鉄の輪から鎖が延びている。

「多分早苗が何かで使う為に用意したんじゃないかな?

 それを見てると無償に店主に持っていきたくなってね」

神奈子の言葉を聞いて、ふと疑問に思った。

(無意識で拘束を求める…。犬というのはとても忠誠の高い動物だ。

 犬が人間になったケースはないから、分からないが恐らく…)

ひとつの考えが浮かんだ霖之助は、

神奈子に向かって手を差し出した。

「お手」

犬の姿になってるとは言え、さすがにまだ理性がある状態だ。

と、高をくくっていると、

―ぽん―

神奈子の犬の手が霖之助の掌に触れた。

「…」

「…」

お手を求めた霖之助も、それに答えた神奈子も、

どちらも一言も喋らない。

(完全な犬への変化へと進行してるのか…)

それが霖之助の出した答えの結果の部分。

原因、経緯は分からないが、それだけは事実と言える。

(これは急いだほうが良さそうだ)

とは思うものの、解決策が見つかったわけではない。

結局、あたふたするだけで終わるのである。

「て、店主…?」

ずっと黙ってる霖之助に、心配したのか下から霖之助の顔を覗く。

「大丈夫だ。必ずなんとかなるよ」

解決策が無いとは言え、ここで神奈子たちを心配させるわけにはいかない。

神奈子の頭を撫でながら、彼は静かにそう思うのだった。










早苗はともかく、魔理沙と神奈子たちは大概は神社にいる。

遠距離連絡ができない幻想郷では、

もし何かあった時の対処ができないためだ。

だから最初は何かとはしゃいでいた魔理沙も、

3日目を過ぎると、「暇だ~」か「飯はまだか~」

ぐらいしか言わなくなった。

彼女の年齢を考えると、家に閉じこもりっ放しは、

精神的にもよくないのかもしれないが、

何かあったでは遅いので、しかたない。

諏訪子は、早苗と庭で遊んでるのでそこまで苦ではないのかもしれない。

慣れてるのか、そうではないのかは知らないが。

一番様子が変なのは、神奈子だ。

昼間も、時々甘えてくるというのはあるのだが、

夜になると霖之助の寝床に入ってきて、寝るという行動に出始めた。

最初がそうでもなかったので、犬になった後遺症と言えなくもない。

とは言え、別に言語が犬語になったわけでもないので、

まだ今の所安心ではあるのだが…。













そして驚いたのが、今日の昼食の事だ。

「ご飯ができたぜー」

自分は何もしてないのに、さも自分がした風に鼻を鳴らす魔理沙。

「今日は炒飯にしてみました。美鈴さん直伝ですよー」

と、早苗が持ってきたのは美味しそうな匂いを纏った玉子炒飯である。

いつものように、魔理沙や神奈子たちから食事をさせるので、

自分たちの分はまだ鍋の中である。

ここまではいつもどおりでよかった。

ここで、魔理沙があーんしてくれ、と突っかかり

神奈子は後でいいと控えめに答える、

はずだったのだが、

魔理沙は早苗に食べさせてもらうと遠慮し、

代わりに、神奈子が積極的に要求するようになった。

「店主、店主、あーん」

「あ、ああ」

神奈子に呼ばれ、慌てて彼女の口に放り込む。

「んふー♪」

犬の顔などの表情は分からないが、

霖之助にも彼女の顔が幸せに染まっているぐらいは分かった。

「美味しいかい」

「ああ、なんたって早苗の作った炒飯だからね。まずいわけがないよ」

仕方のないことなんだが、

動物と普通に喋ってるというのは、人からしてみれば奇妙なものだ。

(文にでも見られたら一発で変人扱いだな)

場所が場所なので、その心配は皆無だが。

そして神奈子たちの食事も終わり、

霖之助たちの食事の時間となる。

しばらくは何事もなかったのだが…。

「店主、店主。ご飯粒がついてるよ」

「いつの間についたんだか…。どこにだい?」

神奈子に教えてもらい、粒を取ろうとするが、

「うーん、口では伝えにくいね…。仕方ない、こうしようか」

と、言うと彼女は霖之助の膝の上に乗り、

―ぺろっ―

霖之助の右頬を軽く舐めた。

これには早苗や魔理沙は当然のこと、

諏訪子もびっくりして、僅かだかお茶を噴出していた。

「な、なななな何してんですか!神奈子様!」

ようやく声を出せるようになった早苗は、

行為の理由を聞くべく、神奈子の傍へ猛ダッシュで来た。

「何って…。ご飯粒取ってあげただけだけど?」

さも当然の如く、答える神奈子に、

「別に、口で教えて取らせればいい話じゃないですか!」

顔を赤らめ、息を荒げる早苗。

怒ってる風にも見えなくもない。

「まぁまぁ、過ぎたことなんだしいいじゃない」

どうどうと、諏訪子が早苗と神奈子の間に割って入って早苗を宥める。

「で、でも諏訪子様ぁ」

目に涙は無いが、泣きそうな雰囲気なのはなぜだろうか。

ちなみに、魔理沙はあまりのショックで未だに固まっている。

「しゃべるのは構わないが、離れてやってくれないか?

 これじゃ、食べれないんだが…」

霖之助の膝の上に神奈子と諏訪子が座り、その隣で早苗が捲くし立てる。

霖之助じゃなくても、食べれる状況じゃないのは明らかだった。

「ごめんよ、迷惑だよね。離れてるよ」

と、しゅんとうなだれる神奈子。

普段のサバサバした性格の彼女と違い、

どこか違和感を覚えるところもある。

話は逸れるが、普段活発な子が寂しそうにしてると

どこか心にくるものがある。人はそれをギャップ萌えと言う。

霖之助も半妖とは言え、人の子。

その姿に少し、ほんとに少しだけ動揺したのは、誰も知るまい。

「…分かればいいんだ。静かにしてるなら、いても構わないよ」

その言葉を聞いて、神奈子の表情が急に明るくなる。

「分かった、静かにしてるよ」

神奈子の過去は詳しくは知らないが、今まで甘えたことなどないのだろう。

動物になることで、自分の本性を隠さず出せる上に、

今までの気持ちの反動があって、今の神奈子がある。

神奈子はしばらくの間、幸せそうに、頭を霖之助の膝に乗せ、

尻尾を振り回していたと言う。










「…離れて欲しいんだが」

「やだ」

昼食を終えてからとも、神奈子は霖之助の膝を離れようとしない。

何を言っても「やだ」の一点張りで、

最早甘える子供が犬になったとしか思えない現状。

もしかして動物化の影響で、精神も退化するのだろうか。

とは言え、この状態になってるのは神奈子だけで、

魔理沙や諏訪子は依然変わりはない。

それ所か、魔理沙に至ってはどこか成長したのか、してないのか

先程から黙って霖之助の傍で座っている。

ここまで来ると、さすがの霖之助もワケが分からなくなってきた。

(原因が分からず、対処法も無い。症状も悪化していく。どうすれば…)

「店主」

動物化のことについて考えてると、急に神奈子が声をかけてきた。

「なんだい?」

「今私らのことについて考えてたろ?」

先程までの甘い顔はどこへやら、その眼差しは真剣みを帯びていた。

「ああ、さすがに悠長してられる程この病気も軽くはないからね」

このまま症状が進行してしまうと、

もしかしたら永遠にこのままの姿かもしれない。

もしくは、戻ったとしても精神が退化したままになるかもしれない。

「私もね、最初は戻らないとってずっと思ってたんだ。

 確かに戻らないとこの神社は終わりだし、

 早苗にも店主にも迷惑をかけてしまう」

もしこのまま神奈子と諏訪子が戻らなければ、

いずれ、信仰も減りこの神社の終わりを示す。

「けど、今私は悩んでるんだ。

 確かに戻りたいけど、

 戻ったらこのゆっくりとした時間を手放すことになる。

 これになる前の生活も好きだったけど、

 どうやらこっちも気に入ってしまったようでね」

「戻ってからでもゆっくりできるだろ?」

と、霖之助が言うと神奈子はゆっくりと彼の顔に近づき、

「確かに戻ってもゆっくりできるけど、店主がいないじゃないか」

神奈子の目に潤いが帯びていたことは、霖之助には分からなかった。

「店に来てくれれば、いつでも会えるけどね」

「だが、それは店主と客という関係でだろう?

 私が言ってるのは、家族としての店主がいないってことさ」

確かに、この病気がもし治ってしまえば霖之助は神社を出て行く。

いつでも会えるのかもしれないが、家族としての霖之助は

もう会えなくなることを意味する。

「かと言って、店主に迷惑をかけるわけにはいかないからね」

今神奈子の中では、

戻りたい自分と戻りたくない自分での葛藤があることだろう。

もしかしたら治らないのは、それが原因もあるかもしれない。

「僕がここにいる時間は僅かだが、その間は家族とは言え居候だ。

 なら、宿主の言うことは聞いておかないといけないね」

そこで神奈子は霖之助が言いたいことをこう理解した。

―少しの間だが、君にやりたいようにやるがいい―と。

「…いいのかい?」

神奈子と霖之助の距離はもはや目と鼻の先である。

「男に二言はないよ」

霖之助は少し微笑んだかと思うと、少し乱暴に神奈子の頭を撫でるのだった。

















先程の二人が話し終えてから、夕食の間まで

神奈子は本当に子供のように、霖之助に甘えた。

頭の上から尻尾の先まで、丁寧に毛を梳かしてもらい、

霖之助の膝の上で、優しく撫でられながらたくさん話した。

霖之助もそこに少し幸せを感じたのかもしれない。

最初の頃にあった苦い顔はどこにもなく、

もはや第二の我が家と言ってもおかしくない。

確かに店に戻りたい気持ちも強いが、

その隅で、ここに居たいという気持ちも僅かにだが芽生えていた。









「夕食ですよー」

先程から不機嫌オーラ大セールの早苗は、

顔は笑っているが、目が笑っていなく

諏訪子曰く、

「あれは早苗が怒ってる時だよ…」

らしい。

霖之助にしてみれば、その理由はまったく分からないが。

夕食となると、霖之助から離れなければならない。

神奈子もまた不満そうな顔で彼の膝から降りる。

夕食になると、さすがに霖之助の迷惑になるので、

あまり我侭は言えず、隣で静かに食事をするのだった。

メニューの魚のフライは、魔理沙には少し熱いようなので、

冷ましてから食べさせると、顔を真っ赤にさせたとか。

夕食が終わり、お茶を飲みながらゆっくりしてると、

「店主、一緒にお風呂に入らないか?」

神奈子は魔理沙たちと違い、風呂に入っても溺れることはなく、

体を洗う時以外は、最初の日以外一人で入っている。

「僕は構わないが」

どうしてだい?と聞く前に、彼女は霖之助の膝で幸せに浸っていた。

こうなると、聞く耳を持たないことを彼は知っていたので、

敢えて何も言わないことにした。












お風呂に入る時になると、

先程までの甘えた顔もどこへやら、

急にぎくしゃくした動きになってきた。

別段、水が苦手というわけではなさそうだが。

「じゃ、じゃあ店主。私先入ってるから」

と、言うが早いか颯爽と浴場へ入ってしまった。

「寒かったんだろうか」

彼が神奈子の気持ちを理解するまで、もう少しかかりそうである。













腰にタオルを巻き、浴場へ入ると

神奈子は霖之助を背にして、座っていた。

一通り体を流し、浴槽へ入ろうとする霖之助。

ちなみに浴槽は二人が並んで入るには少しきつい程度の広さなので、

どうしても神奈子を膝の上に置くことになる。

「失礼するよ」

一応声はかけたのだが、持ち上げようとした時

「ひうっ」

と、犬にしても、神にしても珍しい鳴き声を挙げた。

膝に乗せても、彼女が霖之助を見ることはなく

依然と背にして、向こうを見ている。

「僕が何か悪いことでもしたかな?」

さすがに霖之助も、そっぽを向かれ続けていると、

どこか悪いことをしたのではないか、と不安に思う。

「い、いや、そうじゃなくてだね…」

少しこちらを向こうとすると、すぐに向こうに顔がいく。

「…ぼべんぼ。ぶぼびざぞうまべばびょくぁったんだけどば。

 いば、ばいぼうとするとぎゅうびばずがじぐなっでば」

「口を水から離して喋ってくれないか」

耳が項垂れてたのが、霖之助に注意されることによって

更に首まで項垂れてしまった。

「…だから、ごめんよ。風呂に誘うまでは良かったんだけどさ。

 いざ、入ろうとすると、急に恥ずかしくなってさ」

「そんなことかい」

霖之助の一言に、神奈子が急に振り向いてきた。

「そんなことって…。私がどんだけ悩んでるか――」

「僕は男で犬とは言え、君は女だ。恥ずかしくて何が悪い?」

霖之助の更なる一言で、神奈子は喋るのをやめ、

驚いた顔で霖之助の顔をじっと見つめる。

「実際の所、枯れてる枯れてると言われてるが、

 僕だってそこまで平気なはずがない。

 君が犬じゃなかったら、即断ってる所だ」

つまり、霖之助が何を言いたいのかと言うと、

(私を女として見てくれてる…ってことだよね?)

ということである。

自分で言って恥ずかしかったのか、

霖之助はそれから黙ってそっぽを向いてしまった。

それでも神奈子は嬉しかった。

今まで自分をペットか、

仲の良い知り合いぐらいしか見てくれてないと思ってた人が、

実は女として見てくれていたことに。

「…ありがと」

たった一言だが、神奈子にはこれ以上の礼の言葉が見つからなかったのだ。

「どういたしまして」

霖之助もそっぽを向きながらも、優しくそう呟いたそうな。

















時は過ぎ、皆が静かに眠りに入る時間。

霖之助は一人、早苗に勧められた酒を一人嗜んでいた。

早苗は酒に弱く、飲まないし、

魔理沙たちも影響のことを考え、少量飲んで寝てしまった。

闇に浮かぶは、満月。

森の傍で、虫が静かに音を奏でる。

「今日の肴はこの月と、それから――」

と、言いかけると霖之助はそっと神奈子の顔を見た。

満月の光を浴びたその顔は、幸せそうに微笑んでいた。

「もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなし

 …なんてね。僕らしくもない」

と、一人ごちながら、寂しく酒を煽るのだった。

                              ―続く?―
ども。

このシリーズも3作品目です。

これを書いてる最中に思ったんですけど、

神奈子を犬に例えるなら、やっぱゴールデンレトリバーですよね?

いや、犬の種類そんな知らないんでアレですけど(´・ω・`)

今回は、前回ハーレムで苦手な方がいましたので、

霖之助と神奈子メインにしました。

諏訪子でも良かったんだけど、

ウブな神奈子はジャスティスですので(`・ω・´)

理由はそれだけ。

ではまた、次回作に。
白黒林檎
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コメント



0.2600簡易評価
6.90名前が無い程度の能力削除
しがらみなく霖之助に甘える神奈子様が微笑ましい
9.90葉月ヴァンホーテン削除
これは……いい!
弱気な神奈子属性がついてしまいそうです。
半獣だったらもっとよかったのにー。
14.70K-999削除
ここまでもてたらいっそ清々しいですね。
神奈子可愛いよ。
29.100名前が無い程度の能力削除
あえて言おう。

神奈子場所変われ
30.100名前が無い程度の能力削除
良かったです
53.100名前が無い程度の能力削除
読みやすかったですb


それと、題名は「銀と金」が元ネタですか?
67.100名前が無い程度の能力削除
いいぞもっとやれ!