Coolier - 新生・東方創想話

あなたといっしょに

2010/02/20 22:37:23
最終更新
サイズ
9.35KB
ページ数
1
閲覧数
2855
評価数
28/128
POINT
7290
Rate
11.34

分類タグ


「なあ、咲夜」
「…………」

 隣に立つ従者に声を掛ける。
 しかし、そいつはむすっとした表情を浮かべたまま、明後日の方向を向いている。

「咲夜ってば」
「……なんですか」

 再度呼び掛けると、ようやく私の方を向いた。
 しかし、その表情はなおも憮然としたままだ。

 私はとりあえず、率直に疑問をぶつけてみる。
 
「なんで、怒ってんの?」
「……べつに。おこってないです」
「いや怒ってるだろ、明らかに」
「……おこってないです」

 いや、頬をぷうっと膨らませながらそんなことを言われてもな……。
 私はぽりぽりと頭を掻いた。

 どういうわけかは知らないが、今日の咲夜は、近年稀に見る機嫌の悪さだった。

 いつもは呼んだら一秒以内に来るのに、今日は三回も呼んでようやく来た。
 加えて、運んできた紅茶は故意に冷やしてきたとしか思えないような冷たさだった。

 私が何かしたのだろうかと思い尋ねてみるも、上のような態度を取るばかり。
 にっちもさっちもいかず、さてどうしたものかと考えあぐねていると。

「……お嬢様」
「おう?」

 今日初めて、咲夜の方から声を掛けてきた。
 しかし、顔はまだ仏頂面のままだ。

「……昨晩、美鈴と一緒にお風呂にお入りになったそうですね」
「へっ?」
「……さっき、あの子から聞きました」
「ああ……うん」

 昨晩、私は確かに美鈴と共に風呂に入った。
 といっても、別に示し合わせたわけではない。

 夜行性の私は元々、深夜に入浴する習慣がある。
 そして昨日はたまたま、その際、門番業務を終えて風呂場に向かっていた美鈴と鉢合わせた。
 うちの風呂場は大きく、大浴場といっても差し支えないほどの面積を有しているため、複数人が一緒に入っても何ら窮屈には感じない。
 だから、そのまま一緒に入った。

 ただそれだけのことだったのだが。

「それが、どうかした?」

 なんで今の文脈でその話が出てきたのか分からず、疑問をそのまま咲夜にぶつけてみると。

 咲夜は、わなわなと肩を震わせ始め、

「なんで……」
「え?」

 私をきっと睨みつけると、大きな声で言った。

「―――なんで、私も呼んで下さらなかったんですか!」
「えっ」

 ……何? 

 今なんつった。

「……さく、や……?」
「お嬢様と美鈴の二人だけで、一緒に楽しくお風呂なんて、そんなのずるいです! 妬ましいです!」
「えぇっと……」

 いや。
 いやいや。

「そ、それで怒ってたの? 咲夜……」
「当たり前です! お嬢様ったら、酷すぎますわ!」
「ご、ごめん」

 いや何謝ってるんだ私。
 落ち着け。
 呑まれるな。

「で、でもさ咲夜。普通に深夜だったし……寝てただろ、お前」
「だったら起こしてくれたらよかったじゃないですか!」
「いや、だが、それだけのためにわざわざ起こすってのも……」
「いいんです! 私だけミソッカスにされるよりはマシです!」
 
 えぇ……。

 感情を隠そうともせず大声で叫ぶ咲夜を前に、私は狼狽せざるをえない。
 いやでもこれ、どう考えても私悪くないと思うんだけど……。

 だが咲夜がここまで怒っている以上、今更言い訳めいた言葉を並べても効果は薄いだろう。
 そう判断した私は、事態を一番手っ取り早く収束しうるであろう方法を実行することにした。

「わかった。わかったよ咲夜。私が悪かった。だから……」
「だから……?」

 さっきまで番犬のようにきゃんきゃん吠えていたくせに、今度は子犬のような不安げな表情になった。
 色々と忙しないやつだ。

「だから、今夜は私と一緒に入ろう。それでいいだろ?」
「…………!」

 咲夜の表情に光が満ちる。

「はいっ!」

 満面の笑顔で答える咲夜。
 本当に分かりやすいなあ、お前は。

 ま、それが咲夜のいいところか。



 


 ―――そんなわけで、その日の深夜。



 だだっぴろい風呂場で、私と咲夜は二人、並んで体を洗っていた。

「実に気持ち良いですわね! 深夜に入るお風呂というのも!」
「うん、そうね……」

 昨日泣いたカラスがなんとやら、あれだけ怒り心頭だった咲夜は今やすっかりご機嫌になり、鼻歌まじりに体中をわしわしと泡立てている。
 どうでもいいけど、結構音外れてるな。

「それに久しぶりです。こうやって、お嬢様と一緒にお風呂に入るのは」
「そういえば……そうかもね」

 言われてみると、確かにここ最近は咲夜と共に風呂に入ったという記憶がなかった。
 まあ人間と吸血鬼では、そもそもの生活時間帯が結構ずれているため仕方ない面もあるのだが。

「でも久しぶりにしちゃあ……」
「え?」

 私はちらりと、隣の咲夜の身体を見る。

「……あんまり大きくなってないわね、咲夜の胸」
「なっ!?」

 少し意地悪なことを言ってみた。
 まあ普段何かと振り回されてるし、これくらいいいわよね。

「もっとも、昨日美鈴のを見たせいもあるかもしれないけど」
「あ、あの子が特別大きいだけですわ。私はこう見えても人並みにはありますし、それに日々ちゃんと成長してます」
「くっくっ。そーかい。それなら結構」

 私が笑って言うと、咲夜が小さな声でぼそりと呟いた。

「……それを言うなら、お嬢様なんて……」

 ……ほう?

「……咲夜ぁ。今、なんて言った?」
「い、いえ別に。何でもございませんわ」

 明らかにぎょっとしたような表情を浮かべる咲夜。
 
「さ、さてではそろそろお湯のほうに……」
「そうはいくかっ!」

 私はすかさず、逃げようとした咲夜に飛び掛かる。

「にゃっ!?」
「くっくっ。逃がさないよ、咲夜ぁ」
「あっ! お、おじょうさまっ……」

 さあでは、とくと堪能させてもらうとしようか、お前の自慢の―――……


 

 




 ……そんなこんなを経て、場面はそこから十数分後に移る。


 え?

 なんか描写が飛んでないかって?


 ……そこはまあ、想像力を働かせて補ってほしい。

 咲夜の名誉のためにも、ね。



 ―――というわけで。

「ああ……いい湯だわあ」
「ですねぇ」

 今、私と咲夜は、二人揃って湯船の中。
 肩までお湯に浸かり、ほっこり実に良い気分である。

 ……もっとも、吸血鬼としての特性上、お湯が波立たないように、細心の注意を払う必要はあるが。

 しかし、今はそれすらも些事に思えるほど、私は至上の極楽を感じていた。
 自然と笑みが零れる。

「……たまにはいいもんだな。こう、主従水入らずで裸の付き合いをするっていうのも」
「ええ、まったくですわ」

 こうして咲夜と二人、ほくほく気分で湯船に浸かっていると、ふいに、がらがらと浴場の扉が開いた。

「……あれ?」

 風呂場に入るや、私達の姿を認めてきょとんとした表情を浮かべたのは美鈴だった。
 昨日と同じように、仕事上がりに入りに来たのであろう。
 ぺたぺたと足音を鳴らしながら、此方に近付いてくる。

 すると咲夜が、嬉しそうに手を振った。

「美鈴! こっちこっち」
「ちょっ、咲夜急に動かないで……」

 咲夜が勢いよく半身を浮かしたため、湯船に波紋が広がる。
 あはん。体が痺れるぅ……。

 痙攣する私をよそに、咲夜は、上機嫌で美鈴に話し掛ける。

「門番お疲れ様。美鈴」
「ありがとうございます、咲夜さん。……でも珍しいですね、こんな夜更けに。お嬢様は、昨日もご一緒させていただきましたが」
「ああ、まあ……ちょっとね」

 そう言って、少し気恥ずかしそうに頬をかく咲夜。
 まったく、何がちょっとだ。

 私は痺れる身体を持て余しながら、仕返しも兼ねて言ってやった。

「……いやあ、咲夜のやつがさ、『私だけミソッカスにされるのはヤです』とか言い出すもんだから」
「ちょっ! おおおお嬢様!?」

 途端に慌てだす咲夜。
 ざまを見るがいい。
 一瞬とはいえ、主の弱点への配慮を忘れた罰だ。

 一方、私の言葉を聞いた美鈴は、実に良い笑顔になった。

「へぇ……咲夜さんが……」
「そう、咲夜が」
「だ、だからっ……お、お嬢様ぁ……」

 元々火照っていた顔を一層赤くして、抗議の意思を示す咲夜。
 咲夜は、私の前でこそ感情をストレートにぶつけてくるが、それを私以外の者に知られるのを極端に嫌う。
 だからこそ、意味のある攻撃なのだ。

 私は涼しい顔で言ってやった。

「だって、事実じゃん?」
「そ、それは……うぅ……」

 咲夜は口元を湯船に浸すと、ぶくぶくと声にならない音を立てた。
 まあ私としては、こんなもんで許してやろうと思ったのだが。

「……まあ咲夜さんは、昔から寂しがり屋さんでしたからねぇ」
「っ!?」

 どうやら美鈴は、さらに追加攻撃をする構えのようだ。
 咲夜の顔色が変わる。

「ほらいつでしたっけ。何年か前の大晦日の……」
「……ああ。皆で年越しそば食べようとしたときね」
「そうそう、それです!」
「あっ、あっ」

 いや、まあ、この流れで話に乗らないわけにもいかないだろう?
 そんなわけで、私は咲夜ごめんねと心を痛めながらも、美鈴との会話に応じることにした。
 咲夜はあたふたとしながら、私と美鈴を交互に見やっている。

「あのとき、私やお嬢様達は、皆で一緒に年越しするために起きてたんですけど、咲夜さんはまだ小さかったから、一人だけ先に寝かしつけられたんですよね」
「そうそう。でも年明けの直前になって、咲夜、泣きべそかきながら起きて来て……」
「ええ、もうあのときの咲夜さんの可愛さといったら……。毛布ずるずる引きずってきて、『わたしも、みんなといっしょにとしこしするぅ……』ですもんね」
「はぐっ……」

 その瞬間、咲夜からなんか湯気っぽい気体が噴出された。
 結構長い間湯船に浸かっていたから、のぼせたのかもしれない。
 うん、きっとそうね。

「……そしてやっぱり、今でも寂しがり屋さんなんですねぇ、咲夜さんは」
「そうねぇ。未だに、雷の日は一人で寝れないしね」
「ちょっ! お嬢様!」
「えっ。そうなんですか?」

 声を上げる咲夜。
 目を丸くする美鈴。

 あ。しまった。
 これは話したことなかったんだっけ。

「ご、ごめん咲夜。つい……」
「……お嬢様。詳しくお聞かせ願えますか」
「いや、えっと……」

 興味津々といった面持ちで、浴槽の縁に腰掛ける美鈴。
 私は苦笑いを浮かべながら咲夜の方を見る。 

「うー……」

 咲夜は言葉にならない声を発しながら、そのままずぶずぶとお湯の中に潜っていった。

 ……ごめんね、咲夜。

 私は頭の先まで湯船に浸かってしまった咲夜に内心で謝罪をしつつ、美鈴の方へと向き直った。
 いや、まあ、この状況ではぐらかすのも無理があるしね……ね?


 ……結局、その後小一時間ほど、私と美鈴は『雷の日の咲夜』という話題で大いに盛り上がったのであった。




 ―――そして、その翌日。


「あの……咲夜?」
「…………」
「流石に、これは、ちょっと……」
「…………」

 今、私の目の前には、炒った大豆がこれでもかとばかりに大量にぶち込まれたミルクティーが置かれている。
 
「……えっと、できれば、ふつうのに淹れ直してほしいな~、とか……」
「だめです」
「…………」



 ―――今回の教訓。


 従者をからかうのは、ほどほどにしましょう。



 あはん。
 喉が焼けるぅ……。





皆で一緒に入るお風呂って妙にテンション上がりますよね。


それでは、最後まで読んで下さり、本当にありがとうございました。



P.S.

>>40様
ご指摘ありがとうございます。
少しでも動きのある水ならアウトなのかなーと思っておりました(^^;
今回は話の展開上修正できないのですが、今後、同様の話を書く際には十分注意したいと思います。
どうもありがとうございましたm(__)m
まりまりさ
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.4540簡易評価
3.100名前が無い程度の能力削除
さくやさんは
ほんとうに
かわいいな
4.100名前が無い程度の能力削除
うぎぎ……うぎぎぎ
5.100名前が無い程度の能力削除
おぜうさまwwww
カリスマがそこかしこに見受けられますなぁ。
「あはん」てwww

そして咲夜さんがもう。なんともはやもう、もっほーい。
あぁ、ごちそうさまでした。
6.100賢者になる程度の能力削除
…ふぅ

さて、詳細を聞こうじゃないか。
9.100煉獄削除
良いですねぇ……咲夜さんの可愛さやレミリアたちとの話とか雰囲気に頬が緩みますね。
お風呂での会話やレミリアの「あはん」とか面白かったです。
10.100名前が無い程度の能力削除
きっちりミルクティーを飲むお嬢様の食べ物を粗末にしない所に惚れるw
11.100名前が無い程度の能力削除
最近、咲夜さんいじりの話が多いなー……
新しいジャンル?「咲夜さんイジメ」?
んー微笑ましくてニヤニヤしてしまいますけどねw
13.90名前が無い程度の能力削除
あぁ、もう旦那の書く咲夜さんは可愛いなぁ、もう!!!
17.100名前が無い程度の能力削除
最近まりまりさ氏のレミ咲が増えて嬉しい限りです。

ってかお嬢様wwwその紅茶飲んだんすかwwww
20.100名前が無い程度の能力削除
こwwwwれwwwはwwwwwwwww
ごちそうさまです
22.100名前が無い程度の能力削除
いい崩壊だった。
ごちそうさまですww
29.100名前が無い程度の能力削除
まりまりささんの書くレミ咲が好きすぎて死にそうです。
咲夜さんかわいい。
38.100名前が無い程度の能力削除
まりまりささんのレミ咲がいつも楽しみです!

しかし今日も今日とで甘い甘いwww
39.80名前が無い程度の能力削除
さすが紅魔館の主人、物を粗末に扱わないw
しかしあはんてwww

幼少の布団を引きずりながらの咲ちゃんに、私の中のなにかが爆発した
40.100名前が無い程度の能力削除
1つ勘違いしているようですが、吸血鬼が苦手としている流水とは川や海、雨などのことを指すもので、その場に溜まっているだけの湖や水たまり、湯船などじゃあ効果はありません
波が起こったらダメというものではなく明確な流れが必要なわけです

まぁおぜうさまがかわいいから関係無いですねッ!!
しかし、咲夜さんから出される紅茶は毒だろうが何だろうがしっかり飲むおぜうさまは流石だ
46.100夕凪削除
いいねぇ、いいねぇ!!
この二人はやっぱり最高だ。
ラストお嬢様、なんだかんだで飲んでるとこがまた可愛い。

風呂、確かに一人で入るより、大勢ではいる銭湯とかテンションあがる。
(しかし、周りに迷惑をかけてはいけませんよ!)
49.100名前が無い程度の能力削除
吸血鬼の弱点については諸説あるし、公式設定なんてものがあるわけじゃない。このくらいは拡大解釈の許容範囲かと。

というか、弱点を楽しむお嬢様エロいw
51.100名前が無い程度の能力削除
あはん、ってお嬢様ー!
60.100名前が無い程度の能力削除
かわいすぎるよ!かわいすぎるよ!
あなたのレミ咲がかわいすぎて生きるのが楽しいです!
61.100名前が無い程度の能力削除
可愛いねぇ
64.100名前が無い程度の能力削除
何回読んでもあなたの咲夜は破壊力があるなぁ
66.100名前が無い程度の能力削除
まりまりさ氏のマリアリが好きだ、レイマリが好きだ
レミ咲も大好きだ
71.100名前が無い程度の能力削除
貴方のレミ咲が生きがいだぜ
79.100名前が無い程度の能力削除
あはん
…ヒャッホゥ!
83.100名前が無い程度の能力削除
氏のレミ咲が大好きすぎて困るのぜw
咲夜さん可愛いなぁもうww
90.90ずわいがに削除
>あはん。体が痺れるぅ……。
くっそ吹いたwwwあかんwwww

相変わらず咲夜さんを可愛らしく描かれますねぇ、ありがたやありがたやv
93.90名前が無い程度の能力削除
胸を触って、涙目の咲夜さんに怒られたレミリアを幻視した
99.100名前が無い程度の能力削除
おぜうがナイスキャラww
咲夜さんも可愛いですな。