Coolier - 新生・東方創想話

夢永夜

2010/02/15 02:14:04
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こんな夢を見た。
気付くと宴の席にいたが、ここが何所で、誰に呼ばれたものか全く分からない。
正体を失う程に飲んだかと思ったものの、杯はまだ乾いたままである。
一人の女が出てきて、娘が遠方より帰ってきたと言い、客に足労の礼の述べた。
今日はその祝いの席に呼ばれたのであった。

主人の席に目を遣ると、明星の主が座っている。脇には先程の女と竹林にいた姫君が控えている。
月の賢者と玉兎は居ない様だが妖怪兎は侍らせている。
月の姫が罪を得て地上に落とされた話は聞いていたのであるが、
荒神たちの棲家である明星の者が月の都に飽いて、かえって地上に憧れても無理は無いと得心した。
妖怪兎が酌をしにきてこう言う

「良くいらっしゃいました、八坂様。
実は月の使者が地上に現れたと聞いて、明星様が姫の御身を案じて連れ戻されたのです。
月の賢者と逃亡して参った玉兎は後々面倒の種になるかも知れぬとのことで同行が許されませんでしたが、
それでは姫様がお淋しそうでありましたので私だけでもと付き従って参りました。」

宴もたけなわの頃、主人に客人があったと告げる者がいた。
姫君の顔に喜色が浮かんだと見えたが、主人はすぐに中座してそのまま長い事戻ってこなかった。

さて帰ろうという段になって、ご主人様から貴方様にお話がありますと召使に呼び止められた。
洋間に通され椅子を勧められ、さて如何なる事であろうかと訝しんでいると、どうも尋常ならざる気色である。

「先程の客人は月の賢者でごさいました。
私共が遣った使いには、ただ娘を連れ戻して来いとしか申し付けておりませんでしたので、
埒が明かぬからとその場では御了承いだだいたようです。
ですが今日になりまして、改めてそのことにつき話がしたいと言って遠路遥々こちらまでいらしたのです。
彼女は身分などどうでもよいので、とにかく姫のお世話をさせていただきたいと言うのですが、何しろ月の罪人です。
娘の事であれば、あれは元々月の者ではありませんからどうとでもなるのですが、彼女の場合そうはいかぬのです。
もし庇い立てするようなことがあれば月の都との間で不味いことになるやも知れませんし、
元に戻せば娘の身を保つことが出来ないかも知れません。
私もそのことはお伝えしたのですが、どうしてもと言って一歩も退かぬのです。
八坂様、貴方からも今一度彼女を説得して頂きたい。
そしてやはり無理なようであれば― 誅して頂きたい。」

それはあまりに惨い事であり、また彼女は不死であると言うと、

「彼女は殆ど親代わりになって姫を育てていただいたと聞き及んでおります。
私もあの姫を手放して月に送る時には大層心が痛みました。彼女は恐らく首を縦には振らないでしょう。
私がこの一帯に魂を肉体に縛り付ける魔法を掛けます。
ですからその魔法の術中では蓬莱人と言えども肉体と共に滅びる事しか出来ません。
そして私に代わって事を行えるのは貴方しかおられぬのです。後のことは私共が運びます。」

あまりのことに返す言葉も無く首肯してしまった。
どうしたものかと考えながら彼女の部屋に向かって歩いていると姫君に出くわした。

「これは八坂様、本日はお越しくださりありがとうございました。
地上ではちっともお話出来ませんでしたから、これから私の部屋で積もる話でもいたしませんか?」
私はこれから八意殿の所に伺いますので…と言いかけ、これは失敗してしまったと気付いた。
彼女は若干顔を曇らせたものの、もう一度声の調子を上げ、

「でしたら私も席に加えていただけないでしょうか?その方が話も盛り上がるでしょうから。」と言う。
さて困った。と思いつつ良い言い訳も思いつかないので、父君よりの大事なお話ですので… 
と言うとあっさりと引き下がり帰ってしまった。



月の賢者の居る部屋を訪れると、こちらにお掛けくださいとまた椅子を勧められた。
すぐに済むことですので、などと言えるはずも無く言われるままそこに座る。

「用件についてはおおかた察しがついております。
姫をまた手放すことも、私をここに置いていただくことも土台無理なことである事は分かっておりました。
ですが私には姫を放って置くことは出来ませんし、最後の最後まで諦めることは出来ないのです。」

姫は人の子ですから…などと歯切れの悪い事しか言えずにいると、彼女は更に続けた

「私が姫の教育係を仰せつかった時は、面倒を押し付けられたものだと思いました。
実際あれだけのことをしでかす姫でしたから、やんちゃで手のかかる子でした。
ですが、手のかかる子ほど可愛いとは良く言ったもので、あの子の日々の成長を目にするにつけ、
苦労を苦労と思わないほどの喜びがあることを知りました。
このような人の心も知らずして『八意』の名を名乗っていたことを恥じた程です。
それまでは自分の研究のみに専心し、それこそが己の身を役立てることであると信じていました。
しかし、ただ私と言う存在を求めてくれる存在があり、それに応える事ができる。
その様な喜びは貴方の様に人々の心の拠り所となられる神様ならば当然ご存知の事だったのでしょうが、
私はそんなことを全く知らないまま永い時を過ごしていたのです。」

「そんな幸せを噛み締めながら日々を送っていましたが、ある日あの子は蓬莱の薬を服して地上に落とされました。
処刑され、地上に落とされることとなった姫に対し、
当時の私は今まで掛けてきた期待を裏切られたような心持ちになって、
つい感情的な言葉を姫にぶつけてしまいました。
このような事をするのは私の教え子ではない、たとえ戻っても二度と顔を見せるなと。
あの子はそれをただ黙って聞いていました。
そして時が流れ、姫を地上に迎えに行く時がやってきました。
私はああ言った手前、どんな顔をして姫に会ったらいいのかと非常に思い悩んでいました。
罪を得る原因を作ったのは私なのですから、
できる限りあの子の為に何でもしてあげようと色々思案や用意をしたりはしていましたが、
正直、その事を告げられるだろうかと心配したほどです。
しかし、そんな不安は私の顔を見たときの、あの子の笑顔で吹き飛んでしまいました。
後は、ご存知の通りです。」

「実の親でない私でさえこうなのですから父君のお気持ちは察するに余りあります。
ただの人の親ではなく、立場と言うものもおありになりますから、
今回のことが致し方の無い仕儀であることも十分承知しております。
どうぞ私の命を召し、明星の主様の下へ参上なさりますように。」

それから、私にとっては無限とも思えるような時が過ぎた。出来る事ならここから逃げ出してしまいたかった。
何とか良い考えが無いものかと必死に知恵をめぐらせていると、
不意に女の悲鳴が聞こえ、いくつもの足音が悲鳴のあったほうへ向かって行った。
茫然としながらもそちらに向けていた目を戻すと、彼女は独り言のように呟いた。


「やはり私は… とんでもない愚か者でございました。」
初投稿です。
輝夜が月に「預けられた」姫だったら、と言う話です。
登場人物が有り無いほどに慇懃になっております。
冒頭は勿論「夢十夜」のパクリです。
三日星
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コメント



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7.70ずわいがに削除
ぬぬぬ、俺も未熟なもので、何と言って良いかわかりませんが……
これはもうちょっとの工夫でとても良い作品になるような気がします。
あと、せっかく登場させたわけですから、どうせならもっと神奈子様も活躍させて欲しかったですかね。