Coolier - 新生・東方創想話

青春のビター・チョコレート

2010/02/14 03:45:24
最終更新
サイズ
15.16KB
ページ数
1
閲覧数
1433
評価数
5/32
POINT
1740
Rate
10.70

分類タグ


 蓮子が男性と付き合い始めた、という噂を聞いた。
 そう言えば、と振り返ってみる。実際蓮子が私の知らない男の人と親しそうに会話していたのを見たことは何度かあった。私と話していてもしきりに携帯の画面を覗くばかり。このたった二つのことだけでも明らかだ。裏付けは確かに付いていて、否定する要素など何もなく、加えてここ最近の幸せそうな彼女の顔を見ていれば考えることすら必要としないことは瞭然だった。
 それでも。
 それでも、やはり。
 私は、その一報を耳にした時、かなりのショックを受けていた。
 受けていたんだと、思う。



 ところで、宇佐見蓮子は私の友人だ。
 それはそれはこれ以上ないくらいの仲良しぶりで、まさに大親友と言って然るべき存在だった。彼女も私との関係をそう公言してはばからなかったし、私もその言葉の響きがまんざらではないと自覚していた。そこまでの関係であるなら、もう友人と言っても差支えはないだろう、と私は思う。
 まぁ、自分から口にするのは気恥ずかしいものなのだけれど。

「――とまぁ、そこで考えるわけよ。『はて、私がレンジだと思っていたものは、もしかしたらレンジじゃないのでは?』――ってね」
「あはは、何それ。そんなこと考えるのも物理学なの?」
「ちょっと哲学入ってるけどね。でも、学問に思い込みは禁物だって話。自分の見ている物は一つの側面でしかなく、またその逆側に回ってみたら全く別の――それこそ、自分の思っていたものとは正反対の裏返しの事象が起きているかもしれない。そうやって疑うことこそが、技術の進歩に繋がるんだって私は思ってるよ」
「ふーん。何言ってんだか全然分かんないわ」

 からからと笑って、蓮子はまぁ私の考えだからねー、と軽く流す。
 蓮子の言うことは大抵が難解なものだ。喋っていることのはたして一体何割が理解できているだろうか。一応表面だけはなぞれてはいるはずだけれど、その実本質的なことは一欠けらも理解できていないのかもしれない。そんな深遠さを感じさせる響きが、蓮子の言葉には秘められていた。
 大体誰に対してもこんな態度である。親友の私にならまだ分かるが、一度も会話したことのない相手にすら、だ。正直こればかりは私にも理解に苦しむところであり、結局のところ彼女はとことんまで理詰めが好きなんだろうなぁと思う所以でもあるのだが、その癖他の生徒たちからは案外人気があるらしいところがよく分からない。微妙に突き放した言動とか、どこか常人じみた雰囲気がないところとか、そういうところに魅かれるものなのだろうか。私には分からない。
 そんな誰からも認められる変人と一番深く付き合っている私が分からないというのが、何とも皮肉なものなのだけれど。



 ある日のこと。
 廊下で肩をとんとんと叩かれて、私は振り向いた。
 そこにいたのは、名前も知らない二人の女子。
 おぼろげな記憶の糸をたどると、同じ講義を受けているあの子たちだ、と思い出せた。
 何度か一緒にグループも組んだ記憶もある。
 二人は肘でお互いをつつき合い、そっちからどうぞ、いやいやそっちから、と何とも面倒なやり取りを何度も繰り返す。痺れを切らした私が「何かしら?」と問うと、ようやく右手側の女がそれじゃ、と口を開いた。

「ねぇ、マエノメリーさん」
「マエリベリーよ」
「貴女、宇佐見さんと友達だったわよね? ……ほら、あの超統一物理学部の」
「え……えぇ、そうですけど」

 蓮子。
 蓮子?
 どうして、こんなところで蓮子が。

「その……蓮子が、どうかしたの?」
「いや、どうかしたってわけじゃないんだけど……ちょっと、最近噂があって」
「噂?」

 こくりと、左側の子が頷く。

「同じ学部の坂本くんが……その宇佐見さんと付き合い始めた、って」

 大学中に広まってるよ、とくくった。
 危うく、前後不覚に陥りそうになる。
 名前くらい、私も聞いたことはある。大学きっての爽やか系男子、超統一物理学の坂本。典型的なスポーツマンタイプではあるが、巧みな話術と卓越したリーダーシップを誇る今一番ホットな学生なのだと。そういえば校内新聞にも、インタビューされてる記事が何度か載ってたっけ。
 でも、その彼と、蓮子が、どうして?

「ほら、宇佐見さんって密かに人気高いらしいじゃない? 特に宇宙に関する講義なんかでは、教授とディベートまで始めちゃうとか」
「そうそう。何だっけ、あの……村山? 理系のみんなに嫌われてた奴なんだけど、宇佐見さんが完璧に論破しちゃったって……あ、友達だし、流石にそれくらい知ってるか」

 知らない。
 そんな蓮子は、私は知らない。
 見たことなんて、一度もない。
 二人はそれだけ言って、体をもじもじとさせながらその場に立っている。まるで私の言葉を待っているかのように見えた。
 ああ。
 待っているんだ、と気付いた。
 いわゆるイケメンである坂本くん。手の届かない位置にあっても、交友関係くらいは掴んでおきたいに違いない。でも本人に聞くのは、少しためらいがあるから――一番手近な、私に聞いたのだろう。
 でも、私は知らないから。

「――ごめんなさい。その話、私も初めて聞いたものだから……よく分からないわ。お役に立てず申し訳ございません」
「い、いや、別に何かを聞こうって訳じゃ……ねぇ?」
「そ、そうよ。ただお友達、って聞いたから……あれ、もうこんな時間。ごめんなさいハーンさん。私たち、次の講義があるから……」
「えぇ。どうぞ、私には構わず行って下さい」

 私がそう言うと、彼女らは何度かごめんね、と頭を下げ、慌ただしく去って行ってしまった。
 二人の後ろ姿を見送りながら、ふと考える。
 彼女たちは、何も情報をもたらさなかった私をどう思ったのだろうか。
 役立たず?
 話し損?
 そもそも、関心すら持ってない?
 ……そこまで考えて、私は思考を止める。
 何を、考えているんだ、私は。
 自己嫌悪。

 結局、その次の講義は受けることなく、私はトイレにこもっていた。



 便座に腰掛け、ひたすら考えていた。
 どうして、ここまで自分は動揺しているのかと。
 誰だってその場その場でしか見せない顔がある。曰くペルソナ。ミュージカルや舞台でも役割の象徴として使われる、いわゆる仮面のことだ。
 誰だってそうだ。八百万の仮面を持ち、それを自由に使いこなす。二十面相なんか取るに足らない。数えられないほどの数の感情表現を以て、私たちは人間足り得るのだ。
 それくらいは、理解していた。
 理解していたはずなのに、この心の痛みは時間が経つごとに鋭さを増していく。
 突き刺さる破片は、今や鼓動をする毎に大きくなっていた。
 ……蓮子は。
 蓮子は、普通の女の子だ。
 いずれは結婚もする。
 当然恋愛だってするし、そこに至らない恋心なんかいったい幾つできるだろう。
 そんな風に、私たちのこれからの道はいくつにも分かれている。別れてしまっている。
 それは道理などではなく、本能からしっかりと刻み込まれている理解のはずなのに、
 私はそれを恐れていた。
 蓮子と離れることを。
 私の知らない蓮子が増えることを。
 私の知らない蓮子がいることを。
 極端なまでに、恐れていた。
 きっと、お互いの道を歩んで。
 その先に好きな人を見つけ、子供を産み。
 いずれおばさんになった時くらいに、蓮子と談笑しながら昔を懐かしむ――そんな未来も、確かに良い。
 確かに良い、はずだったのに。
 今は、とてもそう思えなくなってしまった。

「怖いよ、蓮子」

 いずれ来る未来。
 それはもう、すぐ目の前まで来ているのだろうか――
 と。

「ひゃうっ!?」

 腰のあたりで、ヴヴヴという振動音と感触。
 慌てて携帯端末機をポケットから取り出す。メール着信が一件。受信ボックスの中を覗くと、差出人は蓮子だった。
 ていうかアドレス教えてないから、それ以外にはいないんだけど。

「まった講義中にメールなんか打って……何やってんのかしらね、蓮子は」

 自分が人気者という認識すらないのかもしれない。蓮子ならありそうな話だ。
 くすくす笑いながら、私は一件の未読のメールを開く。
 そこにあった文。

『やっほーメリー。今日お食事行くから夕飯いらないわ。んじゃ、そういうことで』

 噂を裏付けるかのような言葉が、簡潔に並べられていた。



 結局その日は何も考えずバックれた。
 その後は町の中をぶらぶらとしてみたり。
 公園に行ってブランコに乗ったり、滑り台の上で叫んでみたり、ベンチの上に横になってみたり。
 不審者極まりないことをし尽くして、辺りがすっかり暗くなってから、ようやく私は自宅へと足を向けた。



 家に帰っても、部屋には誰もいない。
 部屋の明かりを点けて、ベッドの上に仰向けに大の字で寝る。真っ白な天井が段々ぼやけ、ぐにゃぐにゃに曲がって見えてくる。
 世界が、歪む。
 ちくしょう。
 なんで私、泣いてるんだろうなぁ。
 耳の先が熱く腫れ上がったような感覚。鼻につんと鋭く刺すような刺激が走り、鼻腔の閉塞感が急激に高まっていく。
 でも、声を上げては泣かない。そこは最後の堤防だ。私が私を保てる、一番最後の結界なのだ。だから、決して壊すわけにはいかない。
 ふと横を見る。視線の先には玄関。いつもなら、あそこから「ただいまー」なんて暢気な声が聞こえてくる時間帯だ。自分の家でもない癖に、呼ばれているのでもない癖に、すっかりくつろいだ表情で気だるそうな声で、自分の帰宅を告げる声が。
 でも、今日はそれが聞こえない。
 当然だ。聞こえるはずがない。だって彼女は、今日は帰ってこないはずなのだから。友人よりも優先すべき対象が、他にできたのだから。だから、それは当然のことだった。
 頭の中では理解している。けれど体がそれに追いつかない。止め処なく溢れる涙は私の頬をつうっと伝い、頭の下の枕にじわりとにじむ。
 そこで、私はやっと気付いた。この抑えきれない感情が、私を苛んでいるこの衝動が、一体何なのかを。
 はぁ、と溜め息を吐き、鼻をすすりながら頭をぼりぼりと乱暴にかきむしってぼやく。

「……私って、どうしようもなく、蓮子のことが好きだったんだ」

 それは、とても当たり前なことで。
 それは、とてもおかしな話で。
 でも、だからこそ、私は今まで気付いていなかった。気付けていなかったのだった。
 いつも自分の隣にいるのは誰? いつも肩を並べて歩いてくれてるのは誰? いつも私に笑いかけてくれるのは誰?
 蓮子じゃない。
 こんな簡単なことにも気付けないどうしようもない私に付き合ってくれる人なんて、蓮子以外にいないじゃない。
 今更、何を言ってるのよ、マエリベリー。
 それでも誰だって自分の道を歩む。だってほら、現にその第一段階はもう目前まで迫ってきているじゃないか。いや、もう過ぎている。後は私が納得するだけだ。蓮子は前へ進んだ。なら、私も進まなければいけないのだ。ルーレットを回さなくてもいい人生ゲームなんて、この世には存在しないのだから。

「あーあ」

 私はがばっと跳ね起き、乱れた髪をかき分ける。
 全く、何か新しい道が開けた気がするわ。
 私が蓮子のことを好き、だなんて。馬鹿馬鹿しくて笑っちゃう。
 でも、そんな馬鹿馬鹿しい笑いごとこそが、私の本質でもあるのだ。
 真実の私。
 ホントの私、デビュー。
 なんて、冗談を言ったところで突っ込んでくれる友人は隣にいなくて。
 改めて、その存在の大きさを実感するメリーさんなのでした。まる。



「……出掛けますか」

 とりあえず、心の整理は一段落ついた。ついたけれども、自分で夕食を作る気力も残っていない。何もやる気がしない。でも冷蔵庫には何も残っていないから、何か食糧を買ってくる他はなかったのだった。
 ポケットの中から財布を取り出し、中身を一応チェックする。
 一万円。
 私の全財産だった。
 米を買って、パンも買って、お惣菜買って、それに――。
 そこでなんだか馬鹿馬鹿しくなって、私は考えるのをやめた。
 それに、今日はぱーっと騒ぐと決めたから。
 私は洗面所に向かい、まだ少し濡れたままの涙の流れた跡を水で洗い流す。ついでに顔も一緒に洗って、赤く腫れた目を少しでもマシに見えるように努力した。が、それほど効果は上がらなかった。まぁ、コンビニ行く程度だしそれほどこだわる必要もないんだけど。
 来ている服を整え、部屋に戻り適当に放り投げられた手提げバッグを拾って私は外へ飛び出す。外はまだ寒い。吐く息も白く見えるし、その内各感覚器官の末端部が冷えて千切れそうなぐらいに痛み始めることだろう。
 空を見上げる。そこに浮かぶのは皓々と明るく輝く白い月。ネオンの光る夜の街すら、優しく照らし続けてくれる。
 月、ねぇ。
 こんな風にして、よく蓮子も空を見ていたっけなぁ。
 星を見ただけで今の時間が分かり、月を見ただけで今居る場所が分かる程度の能力。
 今私のいる場所って、一体どこなんだろう。
 そんな意味の分からない感傷に浸りつつ、私はその場に数分間立ち続けていた。



「あー……疲れた」

 部屋に戻るなり、私はその場にうつ伏せに倒れてしまう。ヒットポイント切れだった。
 そのまま芋虫のように、体をよじらせ床を這って行く。埃や汚れはお構いなしだ。最早歩くこともかなわない。立ち上がることすら面倒だ。
 やんぬるかな、である。
 メロスも、こんな気持ちだったのだろうか。
 私も清水を飲めば、また走りだせるのかな。
 そんなことを考えつつ、床の上をごろごろ転がる。
 冷たい、というか寒い。
 そりゃ暦の上では春だけど、外はまだまだ寒いもんなぁ。
 仕方なしに私は立ち上がり、のそのそと台所兼居間に向かった。


 炬燵に潜り、スイッチを入れる。
 電気炬燵は簡単で手軽だが、温かくなるまでに少し時間が掛かるのが難点だ。とは言っても他の暖房器具、ストーブやらホットカーペットやらもそれ程早く温かくなるわけでもないのだが。結局この形が一番最善なのかもしれない。
 私はテーブルの上に置いたビニール袋をごそごそと漁り、中から缶ビールを何十本も取り出した。結局食べる物はおつまみ以外、何も買ってきていない。そんなものより、今は酒が飲みたい気分だったのだ。
 ダメ人間の典型ね。
 その中から一本を選び、自分の目の前に引き寄せる。プルタブに指を掛け、軽く押し上げるとプシュッと軽快な音が部屋の中に響いた。この音を聞くだけで日々の疲れが癒される気がする。缶ビールのプルタブにはヒーリング効果でもあるのかもしれない。
 ――さて、準備は整った。
 あとはこの言葉を以て、快く彼女を送り出すだけだ。
 私はビール缶を右手で握り締め、高々と空に掲げ堂々と宣言した。

「――親愛なる我が友、宇佐見蓮子の前途を祝して――乾杯!」
「ただいまー」

 私の言葉に被せるように、疲れ切って間延びした、聞き慣れた声が飛び込んできた。
 声のした方――玄関に、私は目を遣る。
 そこには、いつもの服を着崩した、やけにうんざりとした表情の蓮子が立っていた。



「――まさかさー、酔うとキス魔になるとは思ってなかったわ。幻滅って感じ」

 ぷはぁっ、と酒臭い息を吐きながら、蓮子は愚痴をこぼす。
 片手にはビール缶。もう既に三本目だろうか。
 止め処なく溢れ出る蓮子の怨嗟は、一向に止まる気配を見せない。見た目に騙されただの私を酔わせようとしやがってだの、他愛のない言葉ばかりである。私としては蓮子がここまで荒れた姿は久し振りなので、愚痴を聞くのとイーブンといったところか。

「そんでさ、あいついきなり『ちゅーしよー』って迫ってくるわけ。分かる? このおぞましさ。うぇぇ……思い出すだけでも身の毛がよだつわ」
「そこまで言っちゃ相手にも失礼でしょうに……彼氏なんでしょう? そのくらい強引でも、私はいいと思うけど」
「はぁ? 彼氏?」

 蓮子が怪訝そうな顔をする。

「……違うの?」
「違うわよ。誰があんなのと付き合うもんですか。食事に連れて行ってくれるって言うから、ただ飯を食べさせて貰いに行っただけよ」
「で、でも……だって、格好良かったじゃない。何度か話してるの見たことあるわよ? 人気だってあるみたいだし……」
「格好より中身よ。第一馬鹿なのよあいつ? 私の話にてんでついてこれないでやんの。はっ、おとといきやがれって話よ」

 まぁ、確かにイケメンではあったけどねー、と蓮子はぼやく。
 右肘をついて顎を手に乗せ、視線をどこか遠くの方へそらしながら。
 やはり、学内でも噂の彼は少し惜しかったようである。

「それに、もし本当に彼氏ができたら一番最初にメリーに報告するし。それが親友ってもんでしょ?」
「……親友、ねぇ」

 そんな考え方も、蓮子はするんだ。
 とは、流石に本人には言えず。
 私はそのまま口を噤んだ。

「さーってと」

 そんな私には構わず、蓮子は「のび」をしながら突然立ち上がる。
 私がどうしたのかと尋ねると、蓮子はああ、と苦笑いしながら言った。

「そういや、勢い余ってほっぺにキスされたのを思い出してね。頭冷ますついでに顔洗ってくるわ」
「ちゅー?」
「キス」

 頑なに言い張り、蓮子は洗面所の方へ向かった。
 カチリ。と、スイッチ音。蛇口を捻る。じゃばじゃばと、水が落ちていく。
 何も、変わらない。
 右手の缶を口に運び、少しだけ傾けた。
 炭酸が口の中ではじけて、少しだけ痛かった。


 さっぱりした、と蓮子が戻ってきたのは数分後。
 その頃には、私はすっかり酔っ払っていた。
 実際のところ、蓮子も大概だったとは思うけど。

「あー寒い寒い。やっぱりこの時期におこたは欠かせないわね」

 両手をすり合わせながら、再び炬燵の中に潜ってくる蓮子。
 そりゃあ、夜の水は冷たいでしょう。

「あったけー」
「ねぇ蓮子」
「ん?」
「ちゅーされたのって、どこら辺?」
「ここ」

 と指差したのは、右の頬。
 ほー、と私は顔を近付けまじまじと見つめ、
 そして、そこに口付けた。
 触れた感触もするかしないか、曖昧なままにすぐに離れる。
 蓮子の顔を改めて見る。
 眉をひそめて、私の方を見つめ返していた。

「……何してんのよ、メリー」
「消毒」
「…………」
「消毒よ」
「……ばーか」

 そんなことしたらあんたの口も汚れるでしょうに、と蓮子はぼやきながらチューハイを呷る。

「なら、蓮子が消毒してくれる?」
「彼氏にでもして貰いなさい」
「やぁね、私の彼氏は蓮子よ」

 からからと笑いながら、私は答える。
 蓮子は何も言わなかった。
いつかは、別れて行く道なのだから。
だから、せめて、この一時だけでも。
誤爆
http://www.usamimi.info/~mks/
簡易評価

点数のボタンをクリックしコメントなしで評価します。

コメント



0.1270簡易評価
10.100名前が無い程度の能力削除
アリだと思う。
メリー、よくわかるぜその気持ち畜生。
11.90名前が無い程度の能力削除
切ないなぁと思いながら読んでいたら最後でほっとしました。
いつか離れるとしても今は一緒、この事実がたまらないです。
13.80名前が無い程度の能力削除
今自分のいる場所・・・
解釈によりけりですが・・・
本当、今自分のいる場所って、一体どこなのやら
蓮子の能力が無性に欲しく、羨ましくなりました
能力があったらあったで、月をみない様に、分からないように過ごしそうですが(苦笑
19.100名前が無い程度の能力削除
素晴らしか。
30.100名前が無い程度の能力削除
蓮子が戻って来てよかった…と思ったらあとがきでやられました
いつまでも二人のちゅっちゅが絶えず続いて行って欲しいですね