Coolier - 新生・東方創想話

紅魔夜想 ―姉妹の絆―

2005/02/01 09:26:56
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       すべての記憶は、うたかたの波紋の如く弾けた。
       すべての悲劇は、禁じられ…無かったことにされた。
       すべての想いは、形を変え――――受け継がれる。

 









 


          紅魔夜想  ~エリュシオン前夜~











 
 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――









             ” つまんない。 ”
 
 
 
 
 
 
 
 
 誰もいないだだっ広い空間に、ぽつんと置かれた椅子があります。
 足の長い――1メートルはあろうか――不安定でどこか歪な椅子に、その少女は腰かけていました。
 椅子のまわりには、壊れた遊び相手たち。
 手足のもげたピエロの人形。
 はらわたが綿菓子のようにはみ出た、くまのぬいぐるみ。
 首の取れたブリキの兵隊。
 壊れて軋んだメロディを奏でるオルゴール。
 ガァガァと狂ったように啼き続ける、アヒルのおもちゃ。
 それらは、みんな―――幼い子供に与える為の、稚拙な遊び道具たちでした。
 きっと、これらをこの子に与えたひとは……少女のことを、本当に愛していたのでしょう。
  
 
 ……いつまでも、いつまでも。
 
 大事に 大事に
 
 他の誰にも触れさせない、無垢で純粋なたからもの。
 他の誰にも開けられない、匣に入れて護るべき宝石。
 他の誰にも盗めない―――ガラス細工のような、繊細なこころ。
 
 
 足をぶらぶらとつまらなそうにぱたつかせ、ガタガタとお行儀悪く椅子を揺すり
 
 彼女は、ただ――しあわせなゆめを見ていました。
 

 
 どうしてこんなに……大好きなのかも、ワカラナイ……
 
 いつから、そばにいるのかも……ワカラナイ……
 
 わたしが……なんなのかも……ワカラナイ……
 
 ……
 
 ……
 
 ……
 
 ――まぁ、いいや。この『好き』というきもちは……たぶん、ほんとうのことなんだから。
 
 なにもわからない、わたしにのこされた……たったひとつの『ほんとう』なんだから。
 
 
 
 
 
 
「きっと」
 
 
 
 
 
 
 すう…と目を閉じると、耳もとで囁かれる優しい狂気が、わたしのこころに染みる。
 
 大好きな、大好きな。
 
 わたしとお揃いの紅い目をした――
 
 


 お姉さまの声が。
 
 

 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
 
 可愛い 可愛い  私のフラン。
 
 あなたは――ただ私だけを見ていればいいのよ。
 
 お外には…恐い…恐い…人間たちがいて、おいしそうなあなたを食べようと、虎視眈々と狙っているの。
 
 だからね… いい? フラン。
 
 私よりもか弱い存在であるあなたは、絶対に……ぜったいに。
 
 このお部屋から出てはいけないの。
 
 今度こそは……きっと……守るから。
 
 あの夜を、繰り返す訳には……いかないから。
 
 忌々しい…
 
 あの…運命の日。
 
 ……
 
 ……
 
 ……
 
 
 
 
 
 赤い 紅い 真っ赤な月夜  『エリュシオンの血の涙』
 
 
 
 
 
 それは、すべてが変わってしまった、夜。
 
 あの終焉を迎えた故郷に、この私の世界に残された――
 
 たったひとつの、優しい悪魔からの、奇跡の贈り物。
 
 たったひとり、戻って来てくれた――――――あなただけは、なにがあっても、守るから。
 
 
 
 この 人では無くなった 私の全存在に賭けて。
 
 
 
 真紅の貴族の……最期の当主としての、人であった頃の……最後の誇りに賭けて。
 
 
 
 
 すべてを……紅く染め上げるべく、生まれ変わった――永遠に幼き紅い月。
 





 紅魔 レミリア・スカーレットの名にかけて―――――――
 
 
 
 
 
 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
  1.
 
 
 さらさらと降り続ける雨。
 
 私は窓の外を憂鬱に眺めてた。

 物憂げな―――午後のひととき。 

「―――雨、か」 雨は好きだ。適度な湿気は――少しの渇きで傷む私の喉を、潤してくれる。

 だからだろうか、今日はお昼ご飯を半分も食べれるほど、体の調子が良い。
 
 いつもは半分も食べきれずに、気分が悪くなり戻してしまうのだから、大した進歩だ。
 
「…………はぁ。私も………あの子のように、お外を自由に……飛びまわれたら、いいな」

 つい…と外気温差で曇ったガラス窓を、枯れ木のように細い手首で拭う。
 
 白いミルクの世界に開いた、小さな扉。これが、私とあの子を……繋ぐ窓。
 
 ちっぽけな世界の窓を、ベットから身をずらし……ゴホッゴホッ
 
 嫌な音を立て、咳がこの貧弱な私のからだを襲う。
 
 ………ふぅ、あまり無理をしては、駄目ね。でも……ちょっとだけ……。
 
 無理を承知で、再び身を乗り出して窓を覗き込む。
 
 世界の境界は病弱な少女に、残酷で美しい光景を映し出してくれた。
 
 ………
 
 さらさらと降り続ける霧雨のなか、金色の少女と大きな犬が戯れていた。
 
 朗らかに笑う女の子。彼女のしっとりと濡れた金髪の輝きが、私の色素の抜けた不吉な色の瞳を射る。
 
 健康的な笑い声で、霧に閉ざされ薄ぼんやりと浮かぶ太陽に代わり、黄金の輝きを放つ――私の、太陽。
 
 私のほうがお姉さんなのに。成長の止まった幼い白い枯れ木は、じきに美しい大輪の向日葵に追い抜かれてしまうのだろう。

 だが、それはそれでいい。いつ死ぬかもわからない私にとって、自分に無いものを全て持つあの子は、見られなかった夢を……私の代わりに果たしてくれる、もうひとりの自分なのだから。
 
 自らのこころの闇を、無理やりに否定するように、私は軽くかぶりを振った。

 どうせ叶わぬ夢なぞ……くだらない嫉妬なぞ、犬にでも喰わせてやればいいのだ。

 私は私、あの子はあの子。姉らしいことなど碌にしてやれないだろうが、せめて生きてる間は……優しく物知りな、頼れる姉を演じ切って見せよう。そうでないと…………あまりに惨めで、救われない人生ではないか。他領の愚劣な俗物貴族のように、無様な真似は……死んでも晒すまい。最後の最期まで、誇り高くあろう。
 
 
 この地方を治める領主の娘
 
 
       ―――レミリア・スカーレットとして。
         
         
         
 
 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
  2.
 
 
 スカーレット家は由緒正しき古い血統である。
 治める領地こそ少ないが、樹木の生い茂る暗い森と豊かなブドウ農園、小規模ながらも紅石の鉱床もあり、その領民の暮らしは決して貧しくは無い。
 また、民を導く領主も賢明で慈悲深く、この時代の他領の、腐れきった貴族どもとは一線を画していた。
 領民たちも、詐欺まがいの商売や非道な行いを厳しく罰し、税も妥当な額を守り続ける誇り高き古い気質の当主を親のように慕っていた。現当主ウィルヘルム・スカーレットの治世は非常に安定していた為、妻のエレナ、二人の娘…レミリアとフランドールたちはなに不自由無く、幸福に暮らす事が出来たのである。
 そんな、のどかな所領の森の側に、領主の館はあった。
 スカーレット家の城館は、小奇麗で過度の装飾も無く、質実剛健の思想に基づき建造された。下衆な貴族どもの悪趣味な城館とは、雲泥の差である。その上品な外観は――産出するルビー、赤い屋根、美しい娘たちの頬の色をなぞらえ、いつしか敬意を込めて『紅玉館』と呼称されていた。
 順風満帆、世は並べてことも無し。
 なにもかもが、神の祝福を受けてるかのように、上手くいく。
 領主と領民は、固い信頼で結ばれ、外敵も無く、内紛もない…餓えず渇かずの理想郷。エリュシオンの再来と謳われる約束の地、それがスカーレット一族の密かな誇りでもあった。
 そう、少なくとも……
 
 
 あの月が昇るまでは。
 
 
 
 
  †
 
 
 
 奇妙な噂が流布している。
 
 常識的な知識人が聞いたら一笑に付すであろう、くだらなく他愛の無い噂。
 だが、まことしやかに囁かれるソレは、この時代に生きる愚かで純朴な民衆を惑わすには充分過ぎる効果があった。
 
 いわく―――
 
『スカーレットの長女は 吸血鬼だ』
『なんでも、夜な夜な城館を抜け出して、処女の生き血を啜るらしい』
『俺は見たんだ。あの女が口から真っ赤な鮮血を滴らしている所を』
『本当か!? そういえば奴は昼間殆ど太陽の元へと出てこないな……まさか』
『だが、もしそうだとすると……奴一人がバケモノだとは考えられまい。他の奴等も……』
『やぁねぇ……あのフランちゃんがバケモノだなんて、信じられないわ』
『そうだぜ、お優しい領主さまが……そんな恐ろしいもんだとは思えねぇな』
『いやいや、それが奴等の手なんだ。どっかの神さまも言ってたろ?……たしか』
『悪魔は善人の皮を被って、無辜の民を略取する、だったか。じゃあ…本当の領主さまたちは』
『ああ、きっともう……。どうするよ? このままじゃあ、俺たちまで……』
『………次の満月だ。たしかその夜は領主の館であの女の誕生パーティを開く筈。その機に……』
『やられる前に、やる。むざむざ殺されてたまるかよ。じゃあ詳細は……』
『…………よし、そこでだ…………………を装い……………鏖に………溜め込んだ財宝は……の配分で』
『へっへっへ……上手くすりゃあ労せずに………災い転じて福となす、だな』
『おい、どうせ殺すんだったら…………あの娘たちは…………してもいいよな?』
『ははは、好きにするがいいさ。きっと神さまも、俺たちの正義の行いを褒めてくれるに違いねぇ』
『だな。くくく……そのぐらいの役得はあり、だよなぁ……ははははははは』
『お前も好きだな。まぁ、俺も好きなんだがな。だが、順番は守れよ? まずは……護衛を……』
 
 ・
 
 ・
 
 ・
 
 噂というものは、時に幾千万もの軍勢をも凌駕する。
 堅牢な城塞も、一片の流言蜚語の前に……容易く瓦解するのだ。
 その事実無根の中傷は、赤い果実を蝕む虫食いのように、スカーレット領に浸透していった。
 出所は不確か。恐らくは領地の現状に不満が有る訳でもない者たちの、暇に任せた無責任な噂であろう。
 いや、もしかするとその噂は…繁栄を妬んだ―――他領の間者が流布したものだったのかも知れない。
 単に、喀血した直後のレミリアを偶々見た者が、くだらない勘違いをしたのかも知れない。
 あるいは…善からぬ事を企てる、生きる価値も無い外道どもの策略であったのかも知れない。
 確かなのは―――
 
 
 次の満月の夜
 
 
 しあわせな家族たちの、愛に満ちた祈りの夜が
 
 薄幸の美少女の生存を感謝する、聖なる夜が
 
 
 招かれざる、ヒトの悪意に満ちた……最悪の誕生会が、開かれるであろう…ということだけだ。
 
 
 
 
 
 ――――――――――――――――――――――――――――――
 
 
 
  3.
 
 
 前夜祭
 
 
 
 ベットに身を任せ、書物を読み耽るレミリアの元へ、可愛らしい客人が訪れた。
 
「コンコン」
 
 ドアをノックする音を真似た明るい声が、不健康に淀んだ空気を伝い、少女の耳朶を打つ。
 …ん。また来たのね。しょうの無い子。今頃は家庭教師と勉強の時間だった筈…。またサボったのか……ふふ……けど、あの子が来てくれると……心なし、体が楽になるようだわ。――さしずめ、あの子は私の特効薬、と言った所か。

「――どうぞ」

 私は口元に笑みを浮かべ、大事なお客さまを招待した。
 待ちかねたように勢いよく開く扉。太陽のような満面の笑みが暗い室内を照らし出す。

「こんばんはー、お姉さま!! お加減はどう?」
 フランドール・スカーレット。血の繋がった、私のたった一人の妹。いつも元気で素直な可愛い子。少々甘えんぼな彼女は、折を見てちょくちょく訪れ、この私の寝室――閉じた世界に、新鮮な風を運んできてくれる。

「……うん、今日は大分調子がいいわ。フフッ、これも貴方が来てくれたお陰かしらね? ありがと、フラン」
「えへへー、そんなこと言っちゃうと毎日……いや、ずぅーーーーーっと眠るひまも無いほど来ちゃうよ? お姉さま♪」
「あらあら、それは困るわね。どうしようかしら」

 少し俯き、困ったような顔をしてみせる。すると彼女は慌てたように手を振り――

「あーーーっ! ごめんなさい。我がまま言わないから、嫌いにならないでよぅ」
「う~ん……どうしようかなぁ……じゃあ、少し目を瞑っててくれる? フラン」
「………? うん、いいけど……」

 素直に目を閉じたフラン。ああ、本当にこの子は………可愛いらしい。んー、と目を閉じる彼女に気づかれぬよう、そっと枕もとのヘッドレス
トの引き出しを開け、中から赤いリボンの付いたモブキャップを取り出す。

「いいわよ、さぁ目を開けて」
「はぁい」

 恐る恐る目を開くフラン。緑色の翡翠の瞳が、私の真紅のルビーの瞳を映す。……彼女だけだ。この病弱な私から、目を逸らさずに…真っ直ぐ見てくれるのは。同情や哀れみなど、この私には不要だ。生来色素が薄く、抵抗力が極端に弱くとも、誇りだけは失いたく、無い。だって……他人の同情に浸り、自らの不幸を嘆くなんて……そんなの、まるで生きてる意味、生まれてきた意味が無い、愚かな道化じゃないの。たとえ体は出来損ないでも―――私は誇り高きスカーレットの娘。フランが一人前になるまでの次期当主。誰からも期待されて無いとはいえ……否、だからこそ、そんな無様には耐えられない。

 内心の葛藤は、目の前の宝石に届くことは無い。私は極上の笑顔と共に手にした贈り物をフランに掲げる。

「あれれ? これ……お姉さまの帽子…? え、でもいま被ってるのとはリボンの向きが違うし…なんで?」
「ふふふ、なんでかしらねぇ。当ててみて? フラン」
「ん~~~~~、スペア? かな。それともお出かけ用?」

 うんうん唸って考え込むフラン。……この子は、どこまで純粋なのだろう。何故、もうひとつの可能性に気がつかないのだろうか? わざわざ腕のいい職人に特注して作らせた、この帽子の意味を。

「うーーー。わかんないよぅ。意地悪しないで教えて? お・ね・え・さ・ま」

 ……駄目だ。もう我慢できない。私はちょいちょい、とフランを手招きし、自分のベットの上に呼び寄せる。
 嬉しげに擦り寄ってくるフラン。そこを―――

「ほら」

 帽子を彼女の綺麗な金髪の、光沢を放つ天使の輪に被せた。

「うにゃ」

 きょとん、とした顔で私を見つめる私だけの可愛い天使。

「これで私とお揃いよ? よく似合うわ、フラン」
「え? え? え~~~~っ!? 私に!? 本当に……いいの?」

 恐る恐る訊ねる様子を、微笑みながら見守る。馬鹿ねぇ……よくないわけ、ないじゃない。言わなきゃ分からないか。

「ええ、貴方に貰って欲しいの。他でもない……フラン、貴方に」

 真摯に目線を合わせながら、蕩けるほどに優しく囁いた。

「…………うん、ありがとう。お姉さま……………でも」

 うん? どうしたことだろう。てっきり飛び跳ねて喜ぶかと思ったのに。考えられないことだが……まさか、気に入らなかったのだろうか。む、少し先走り過ぎたのかな……。どうしよう…。

「遠慮することは無いわ、フラン。思ってることが有るなら言って御覧なさい? 貴方がどんなことを言っても、嫌いになんかならないから」

 なれない、の間違いだけどね。

「……本当に?」
「ええ、本当に」
「本当の本当に?」
「ええ、本当の本当に」
「本当の本当の本当に?」
「…ええ、本当の本当の本当に」
「本当の本当のほん……」

 エンドレスは、まずい。ここらで無限の円環を断ち切るか。

「フラン」少し不機嫌に呟く。
「……はいっ!! お姉さまっ!!!」

 あらら、恐がらせちゃったかしら。

「ねぇ、フラン。貴方は私のことが好き?」
「もちろん!!!! 大好きっ!! お姉さまがいない世界なんて考えられないよ」

 ……嬉しいことを。

「なら、その私が言ってるんだから、信じてくれないかな」

 ちょっと卑怯…かな。でも、これぐらいはいいよね。

「……………うん。わかった。でも、怒らないで、聞いてね」
「うん」
「とっても、嬉しかったの。それは絶対に本当。でも……」

 じっと私の目を見詰めるフラン。吸い込まれそうな深緑の神秘。

「……でも、これを受け取ったとき、なんだか……もう、二度と、お姉さまに会えなくなるような…気が、して」

 翡翠の宝石より、大粒の真珠が零れ落ちる。


 ――綺麗。


 慰めるのも忘れ、つかの間その美しい涙を、呆けたように見届けていた。
 ふいに、どうしようもないほどの衝動が湧き上がる。
 あまり強い欲求を持たない私には、珍しくだ。

 あの、きらめく雫を――――

               ―――舐めてみたい。

 ……なにを考えてるんだ。馬鹿馬鹿しい。よりにもよって……同性の、しかも妹の…だと?
 ――巫座戯るな。レミリア・スカーレットよ、お前はそんな…あぶない趣味の持ち主だったのか?
 違う、断じて、違う。民の規範となるべき貴族が、そのような堕落なぞ……許されるものか。
 ましてや、我が誇り高きスカーレットの名声を地に落とすような真似…

「……お姉さま?」

 いけない、考え事に没頭しすぎて――フランを不安にさせてしまった。

「―――大丈夫よ、フラン」

 目の前の愛しい妹を、そっと…華奢な小鳥を扱うように、優しく抱擁する。
 綺麗な瞳をまん丸にして――それも、一瞬のこと――安心しきった子猫のように身を任せるフラン。
 そうだとも、誰がこんなに……愛しい妹のことを、手放すものか。
 たとえ、神さまが胡散臭い天啓を下しても――そのような戯言、聞く耳もたぬ。
 たとえ、悪魔が我が命を延ばす代わりに、この子と離れろと取引を持ちかけても――無駄だ。


 
 
 私、レミリア・スカーレットは…………死の恐怖になど、屈しない。
 
 神も悪魔も、いかなる人間の権力も自然の災厄も―――我がこころを挫くことなど、出来はしない。
 
 私が恐れるのはただひとつ。

 
 ……フランドール・スカーレットの涙だけ。

 
 この子の笑顔を守るためなら、世界のすべてを滅ぼしても、微塵も後悔はしない。
 
 非力な我が身など、ダグザの大釜にくべて灼き尽くせ。
 
 惰弱な泣き言など、神槍グングニールで破砕せよ。
 



 
 運命なんか――――――糞喰らえだわ。
 
 
 
 
 
   †
 
 
 ウトウトとし始めたフランを抱きながら、私は出来もしない決意をした。
 この身は――動悸と息切れで満足に走ることもできず、色素の薄い身は日光にも火傷を負う。
 でも、もうそんなこと構わない。むしろ……私にいかなかった分までフランに元気が満ち足りて、感謝したいぐらいだ。

「ん……おねえさまぁ…………」

 寝言か。

「……………」

 無言で日向のいい匂いのする、彼女の頭を撫で続ける。
 明日は……私の誕生日、か。

 
 ――神様、もし居るのなら……せめてこの子が、一人前になるまで、私を連れて行かないでください。
 
 黄昏より移りゆく、暗夜を窓の向こうに眺めながら、そっと目を閉じ――祈りを捧げる。
 
 
 
 
 
 



 
 ―――願わくは、フランドール・スカーレットが、いつまでもしあわせでありますように。
 
 
 
 
 





 
 
 
 



 
 
 そうして、わたし達の…………最後の幸福な夜は、更けていった。









 
 フランさん支援SS……のつもり。吸血鬼夜紅とは別です。

フランドールのイメージは、うりうりさんの絵本のような感じが自分に合ったので。
取り合えず、表参道のフラン壁紙は、凶悪な破壊力だと思います。大好きです。
SSのほうですが、この後の展開は……はっきり言って、逆支援になりかねない程ダーク(ねちょ無いが殺戮の嵐)なので、綺麗に終わらせたくここでENDとしました。この後は、ほんわかした妄想で補完して頂きたく。
設定等は、すべて出鱈目です。ただ昔のスカーレット姉妹(妄想ですよ?)を書きたかったんで、出した程度の扱い。
愛は、すべて姉妹どんぶ…いや、仲のいい姉妹につぎ込みました。他の有象無象の噂好きのひと達は、いらね。ていうか屍。
 
SS投稿多い中、ここまでお読み頂き有難うございます。お疲れ様です。
では、レミィとフランの健闘を祈りつつ、失礼。
 

 
しん
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27.60さわしみだいほん削除
非情と向き合いましたな