Coolier - 新生・東方創想話

ぼ~だ~らいん

2005/01/23 12:57:31
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 境界線を引きたがるのは、人間の性か、それとも自性を保とうとする防衛機制か。無意識と意識を分かつのも一本の糸ならば、私は暖かい喪失感を抱えて、それを解いていくことだろう。ただ、それをするにはここは余りにも過ごしやすい場所になった。


 境界線が一つの事象を二つに分かつものならば、その上に座する私はどちらなのだろう。線、という定義上あってしかるべき面積を持たないとすれば、私は両極を肯定し、否定出来る。また、逆説的に私自身が境界線とも言えるだろう。そして、それこそが私を私たらしめる能力である。
 

 容姿・風俗・価値観、それらを幾ら比較しても、私には妖怪と人間の根元が同一とは思えない。大体にして、妖怪という定義自体が、人間達の勝手に過ぎないのは自明である。
 だが、正当な境界を引き直すことも無く、私は妖怪として生を過ごす事にした。私は畏怖と敵意の象徴としての、妖怪の義務を引き受けた。彼らに、哀れで愛らしく、強くて儚い生物としての人間像を与えられるのならば、それはそれで価値のある仕事ではなかっただろうか。


 定義通りに食さなくてもいいのだが、それでも私は人間を食べた。人間を嗜好とする者は大勢居るし、全く口に入れない者も居る。私はその時点で、どちらにも属する事が可能であった。
 勿論、食すようになった理由は単なる食欲などではない。折角、高々と聳える境界線上から飛び降りたのだから、妖怪として人間を感じたかっただけである。今では、温かい血肉をそのまま食べるのも芸が無いので、藍に調理してもらうことにしている。だがやはり、それでも不味いと思う。



 この幻想郷において、誰が誰であるなどは余り関係ないように思える。寄り集まって暮らす人間を除けば、他は一人で自活する者だけだ。そして、それらはおおよそ妖怪と呼ばれるものだっただけの話である。


 だが、ある時、外れの古びた神社で紅白の少女を見かける。妖怪か、人間か、どちらでも私にとっては問題ではなかった。その時すでに、私はどちらにとっても遥か高みに位置していたからである。

 終日垣間見るに、人間だと分かったが、それでも納得いかないことがあった。翼もなしに、人間は気づくと空を飛べるようになっていた、そして気づいていなかったのは妖怪だけであった、という話ではない。
 定義上、妖怪と分類されているのが妥当である、空を飛ぶ能力を人間が所持しているということなのだ。この事実に、私は光明を見た。


 そして気がつけば、遅い春の終わりに彼女と対峙していた。
 
 私は期待と感動を以って、ありとあらゆる余興を提供し、彼女はそれに見事応えた。いかなる私の境界操作を持っても彼女を捕らえることは適わず、逆に私は彼女の発する全てを受け止めた。
 そしてこの時、相反する要素が止揚されていく過程を感じた。ある一点においてではあるが、線を乗り越える者が現れたということは、私に存在の危機よりも、新しき希望を湧かせた。
 ただ、私にとって苛立たしかったのは、勝手に境界を荒らしておいて、結局は人間の方へ帰ってしまったということであった。この時より、彼女、博麗霊夢は、特別な人間になったのだ。


 暇があるときは、神社に立ち寄るようになったのもこの頃からである。
あの鷹揚な性格のお陰か、神社に人気が絶えることは無かった。思えば、人肉天国であったのは事実だが、集まる人間は何故か、どれも境界を危うくしかねない人物ばかりであった。

 喋りや弾幕に興じる彼女らは、誰もが遊戯を楽しむように宙に浮いていたのを思い出す。その中でも霊夢は一際弾幕に関しては秀でているようであった。
 いかなる弾幕でも、彼女はしなやかにすり抜ける。それは、あらゆる束縛を嫌う彼女自身を体現しているようであり、それは一般的な人間像とはかけ離れたものである、と私は思う。だから、彼女は人間であることに拘っているのかもしれない。
そう考えると、境界を消し去る日はまだまだ遠そうである。



 やがて、月見と洒落込む季節になった頃に、私は再び喜ばしい時を得た。前もって確認済みであった異常を、この時ばかりは人間の仕事にして、闇と竹薮の奥へと誘ったのである。私の知る限りでは、人間と妖怪が手を組んで同一の目的の為に邁進するというのは、その時が初であったように思う。

 仕方なしに出てきた霊夢はやはり、他人の干渉を良しとしないその性格を如実に表していた。それでも、人間の定義を顧みると、諦めたように宙に身を躍らせた。


 そして私達は永遠の名を冠した建物へと侵入した。渦巻く様々な狂気をすり抜けながら、やがて真の月を眼前にする。その月の持つ狂気は、人間を壊すだけの魔が潜んでいたが、霊夢はやはり彼女自身を失わなかった。狂おしい満月も、彼女の前では酒の肴にしかならないようだった。

 全てが終わった後は、妖怪人間入り混じっての大宴会であった。
 一発芸をする者、酒乱になって暴れだす者、それらを隙間の上から眺めると喜悦が腹からこみ上げて来るのを感じた。きっと、私は笑っていたに違いない。






 もしも、何時の日か境界線が綺麗になくなってしまったら、私は自分をなんと言うのだろう。新生・人間よ、元・スキマ妖怪よ、とでも言うのだろうか。


 まあ、多分こう言うのだろう。
 八雲紫よ、と。





なんとか生きてます、州乃です。今回はかなり短め。

前回、永琳×輝夜とか、東方スウィングガールズ書くとかぼやいたのですが、
こんなのになってしまいました。紫様、何か大人の抱擁力を感じます。
ちなみに永琳×輝夜はハイテンション時に某スレに書いちゃったので、
興味ある方は探してみるといいかも知れません。

話の内容に関してですが、
同じ幻想郷に住む者同士が、境界線引き合うってのもアレな話ですよねぇ。

では、また1~2ヵ月後に。
州乃
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コメント



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なにもかもわかっているようで、やっぱりわかっていて、でも「さぁ?どうなのかしら?」と全てを曖昧にしてしまうような紫の胡散臭さは萃夢想を経てますます感じられますね。彼女の本心は……わからないなぁ。
霊夢くらいしかまともに相手にしないというあたりについて、逆にいろいろ考えてみるとなかなか興味深いかもしれないとか思ったり。
このSSの紫は実に紫らしく、すんなりと入ってきました。

>某スレの永琳×輝夜
うーん思い当たるのは一個しかないですが、言われてみるとたぶんアレだろうなぁ…とか思ったり。まぁたぶん違ったりするんでしょうけども。ハハハ。