Coolier - 新生・東方創想話

五つの難題 前編

2005/01/13 03:16:26
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冥い姫→黒と白の夢鏡→五つの難題 です。
間隔空いてすみませんorz








 …………白い、雪。


 
 それは無為に降り注ぎ、大地を覆ってゆく。まっすぐに丘を見上げる目に、冷たい欠片が刺し込まれる。けれど、この目に宿る妄執の紅き血は…その程度の冷気などで凍りつくことなど無い。むしろ、心地よい痛みをもたらしてくれる清涼剤にも似ている。


 一歩、一歩雪原を踏みしめる度に近づく――黒い道標。

 白い世界に突き立つ――輝くほどに昏く、美しい慰霊碑。


 
 ……思えば、私の全ては…あいつから始まったのだな……


 脳裏に甦る、遠き過去の幻灯。まだ何の力も無く、無邪気に父を慕う…愚かしい程に純粋だった自分。世界は正しいものに微笑むように出来ている、と信じられたあの頃。……馬鹿なことだ。そんな御伽噺のようなものを信仰するとは、な。我ながら失笑せざるを得ない。その意味ではあいつに感謝するべきなのか? ……望みを叶える為に、必要な道程を指し示してくれたことを。



 所詮、この世は弱肉強食。


 弱い者は際限なく殺され続け、力ある者の糧となる。理があろうがなかろうが、そんなものは負け犬の遠吠えにしか過ぎない。……あいつに触れることも出来ずに殺され続けた最初の数十年。血に潜む鳳凰の力を任意に引きずり出すのに、二百年。なんとか――今思うとわざとらしいことだが――輝夜を殺すことが適ったのはほんの一~二百年前、それも千年の歴史の中ではほんの数えるほど。自分には―――圧倒的に、ちからが、足りなかったのだから。


 慧音という半獣の少女にであった。

 人間―――まだ私も、そう呼ばれる資格があるのか――を守護する心優しき歴史の番人。力を渇望する私に、歴史の闇に埋もれた…いにしえの秘儀を掘り出し、伝授してくれた大恩人。「傷つかないで欲しい」という彼女の心遣いを裏切り続けたのは心苦しいが…………


 ―――それも、今宵で終わる。……黒い石碑に刻まれるのは、あいつの名だ。







「ふふ。こんばんは、妹紅。意外と遅かったわね、この私を焦らすなんて罪作りなひと」

 目の前の宿敵が気安く挨拶をする。まるで敵意を感じさせない声で、にこやかに微笑む。
 思わず見惚れてしまうほどのカリスマ。
 それが、この女のいつもの手だ。
 ――蓬莱山輝夜。
 幾多の人間を惑わす、破滅への道標。
 表面的な笑顔に騙されてはいけない。
 こいつは……この笑顔のまま、たやすく私の首に手をかけ――へし折ることが出来る。
 どんな者でも、普通は相手に危害を加える時に殺意、逡巡、脅えが混じるものだ。
 けど…
 こいつは、あきらかに異常だ。

 
 ――あらあら、顔が赤いわよ? 熱でもあるんじゃない?
 額に伸ばされる手。このあと私の頭は木っ端微塵に吹き飛んだ。


 ――はしたないわね、胸がはだけてるわよ。
 さっと見下ろした視線のなか、心臓のある場所を通過していく光槍の残像が見えた。


 ――今日はやり合う前に、話があるの。まずはお茶でもいかが?
 当然のように猛毒だった。永琳という従者の作った薬は性質が悪い。あの時は、全身から血を噴出して転げまわった。


 死を知らぬ人間、退屈な永遠を生きるものの行き着く先は、こうなのか……


 
「……寂しいわね。こんばんわ、ぐらい返してくれてもいいのに。嫌われてるのかな、私。…こんなにも、こんなにも――あなたが、好きなのに」

 手で顔を覆い、泣く真似をする輝夜。
 
「………」
 いちいちこいつの行動に目くじら立てていては、それこそ思う壺だ。だいいち、指のスキマから覗く目は……ちっとも笑ってなんかいない。それぐらいの事がわかる程度には―――私たちの付き合いは長いのだ。



 無言で輝夜の目を見つめる。


「………ふん、本当につまらない娘。最期ぐらい面白いことを聞かせてくれないのかしら。
 真面目すぎるのも嫌われるわよ? もっとも、そんな所も……愛しくて仕方が無いのよねぇ」

「………ルールの確認を」
 戯言を聞き流し、用件のみを伝える。こんな所で相手のペースに乗せられる訳には、いかないのだ。戦いは既に――始まっているのだから。


「まぁいいわ。後でたっぷり…貴女の悲鳴と恐怖のハーモニーを聴かせて貰うから。
 …………ぞくぞくするわね、今から楽しみだわ…そのまっすぐな目が 絶望と 絶望と 絶望に歪んで――惨めな、憐れっぽい懇願をしてくるのが。「輝夜様…お願いですから、殺してください」ってね。で、私はこう言うの「駄目よ、妹紅。私たちの夜は――まだまだこれからなんだから。肝の最後の一片に到るまで、楽しみましょうね」 うふふふ、どう? 素敵でしょう? どちらが残るにせよ、本当に愉快なことよね」



 ……駄目だ。もともとおかしな奴だったが、今夜は度を越して逝かれている。
 高揚感からなのか? それとも…あの…


 闇の衣に浮かぶ白い面。いままでに見たことの無い装いだ。その衣から放射される禍々しさも、桁違い。いままで相対してきた憎々しい姿が、可愛く思えてくる程の堕気を感じる。――とうとう、魔人と化したか、蓬莱山輝夜。ならば、こちらも―――


「汚らわしい口を閉じろ、輝夜。今聞いているのは、この戦いのルールについての最終確認だ。おまえの狂言など、聞いてはいない」

 迷いない口調で妹紅は断じた。

「………永琳」

 目だけを爛々と光らせながら、輝夜は従者に言葉を委ねる。
 す…と背後より進み出る永琳。よどみない口調で今宵行われる弾幕遊戯のルール確認を行う。

「バトルは基本的に一対一のスペル形式で行う。付添い人の手出しは厳禁。不正が行われた時点で自動的に敗北となり、自刃して頂きます。彼我の能力差を鑑みて、どちらにも勝機が訪れるよう姫の使用するスペルは五つ。すなわち五つの難題を破るか、耐え切ることが出来れば妹紅の勝利となり、姫の敗北となります。
 敗北した側は――蓬莱の効果の要――肝を勝者に捧げ、復活することなく滅んで頂く。お二人に限ってありえないことだとは思いますが、未練がましく拒む場合は…
 私と慧音。それぞれの介添え人が責任を持って自らの側の、敗者の肝を摘出します。
 ―――誓約を反故にした者には、永遠の苦しみが訪れるよう、既に手は打ってありますので…くれぐれも誓いを違えぬようご注意を」

「と、言うことだそうよ。 これで満足かしら? 妹紅」

「……ええ。随分と舐められてるみたいだけど、否定はしないわ。
 けどね―――窮鼠猫を噛む、って言葉もあるけど…
 私は鼠などでは無く、誇り高き鳳凰。…噛むだけでは、済まないわよ」
 
「ふふふ、怖い怖い。 せいぜい用心するとしますか。
 まぁ鳳凰だろうが鼠だろうが、夜空に輝く月の前では等しく塵芥。
 ―――無様に這いつくばって、慈悲を請うことね」

 一応忠告はしてやったが、どうやらあいつは聞く耳を持たぬらしい。
 目前の女は胸の前で組んでいた腕をゆったりと解き、さっと円を描くように振りかざした。


 
 虚空に五つの幻像が顕われる。


 輝夜のまわりを取り囲むように配置された宝物――
 火鼠の皮衣
 燕の子安貝
 仏の御石の鉢
 龍の頸の玉
 そして――蓬莱の弾の枝。

 これまで何度も挑戦し、その度に膝を屈してきた忌々しい難問。
 いくつかは以前の私でも乗り越えることが可能だが、全問正解できたことは……まだ無い。
 だが――
 私とて…いつまでも以前の雛鳥のままでは、無い。
 独りでは適わなかった力の求道。しかし、よき友の助けを得て――いにしえに連なる鳳凰の…真の力を解放できるようになったことを、まだこいつは知らない筈だ。

 一期一会。

 今日、この時のために雌伏の日々を過ごした。殺されても、殺されても――耐え忍んできた歴史は、全てこのための布石。生来持つ力に胡坐をかく、怠惰な姫には……負ける道理が無い! ぐっ…ときつく拳を握りこむ。深く、静かに血は燃え滾り…噴火の時を待つ。

 ………っ!

 背後で慧音が息を呑む気配がした。奴等は気づかなくとも、彼女には私のこころの裡が伝わったようだ。振り向かぬとも、慧音の心配そうにする顔が目に浮かぶ。だからと言って、いま振り返ってしまうと……この身を焦す、復讐と狂気の炎が鎮火してしまいそうで……ごめん、慧音。あなたを心配させるのは、今夜で最後にするから…







            「「では、始めましょうか」」


                


 
  1.火鼠の皮衣 



 互いに宣言すると同時に、静かに狂宴の幕は上げられた。
 にこやかに微笑む輝夜、安全圏内に飛びのく永琳。
 五つの宝物の一つ、火鼠の皮衣が淡く輝き実像を結ぶのが見える。いけない――このままでは――咄嗟に背後に向け叫ぶ。

「慧音! 早く下がって!! そこに居られると回避できない!!!」
 はっと我を取り戻す慧音。だが時は既に遅く、輝夜のスペルは紡がれる。



  難題「火鼠の皮衣 -焦れぬ心-」


 スペル宣言を受け、赤く輝く皮衣。次の瞬間、それは ぼうっ!! と炎に包まれ、輝夜の左右に複数の炎塊を吐き出す。
 

 ――来る!

 これから渦巻く火炎を吐き出すであろう宝物を視界に納めながら、するりと前進する妹紅。向かう先は、発射地点である皮衣本体。自殺行為とも取れる妹紅の行為に慧音は悲鳴を上げる。

「妹紅! どうして……っ!!」
 本来、このスペルは大きく左右に動き、追尾する炎の舌を引きつけ、切り返し、炎の渦のスキマを縫うように小刻みに動き、発射地点を狙い撃ちするのが常道。だが、今この状況でソレを行うと―――

 自らが妹紅の行動を制限する、足枷になってしまったことを自覚する慧音。
 ――なんて様だ、こんな筈では……
 遅すぎる自覚は後悔という。後悔に目が眩みそうになりながら、それでも慧音は叫び続ける。

「妹紅! 妹紅っ! 私のことなど構わずに、回避して!!」

 目前で繰り広げられる寸劇を、にやにやと愉快そうに眺める輝夜。
 こうも計算どおりに進むと、いささか味気ない。と内心思っているのは火を見るより明らか。

「正気なの? 貴女。 自分から火トカゲの餌食になりに来るなんて。
 そこの牛女の言うとおり、いつもみたく避ければいいじゃない。
 そうすれば、おいしそうなステーキが食べれてみんな大喜びなのに。
 ――――くくく、あはははは!!」

 我が身を案じる叫び、耳障りな嘲笑を遮断し、妹紅は冷静に思考する。
 ――やはり、輝夜は私の力を過小評価している。
 いつもと変わらぬ、この弾幕が動かぬ証拠。
 ならば―――


 ぼぉぉおおおおぉぉ……

 皮衣本体から火弾が渦巻く。同時に左右より獲物を狙う炎の舌が高速で私と慧音を目指す。

 しゃ、しゃ、しゃ、しゃ、しゃーーーー

 炎槍と化した舌が、火の粉の涎を振り撒きながら迫り来る。
 距離的に先に槍と炎弾が到達するのは、私が先だ。
 ――これも、予測範囲内。
 くすり、と自然に笑みが漏れる。
 馬鹿が。
 余裕ぶって、ひとを見ようとしないから……

 こんな しっぺ返しを喰らう羽目になる。



  不死「徐福時空」


 妹紅のスペル宣言が輝夜の笑いを打ち消す。
 白装束の両袖より、大量の符が妹紅の体を囲むようにばら撒かれた。
 ざざざざざ……と流れる符の奔流は、生命と時間の象徴


                卍 

 鉤十字の結界を描き逆回転する卍、それは不可逆な筈の炎の弾道を飲み込み、本来の目標へと到る過程を吹っ飛ばす。殺意を持った炎弾は、元来た方角――輝夜と皮衣本体、左右の炎塊に巻き戻る。
 ちらり、と慧音のほうを見やる。
 どうやら無事に回避出来たようだ。慧音が「一条戻り橋」を使えれば、心配することも無かったのだが、この戦闘のルールでは他者のスペル介入は違反行為として敗北を招く。義理堅い彼女のことだから、たとえ自分が死んでも…ルールは犯すまい。この程度の炎で、幻想郷でも古参の強者たる慧音が傷つくとも思えなかったが……


「この代償は、高くつくよ」



  *


 自らが放った炎に貫かれ、飛散する炎塊。
 決して燃えぬ筈の皮衣は
 因果の逆転により、あえなく崩壊した。
 炎の余波は術者たる輝夜にまで差し迫る。 

「……ちっ」

 近接戦闘時に展開する、緊急回避用通常弾幕「静かなる海」を咄嗟に解き放つ輝夜。
 頭上に掲げた手のひらより「静かなる月の光」にも似た全方位弾幕が発射され、迫る炎弾を相殺する。

 静かに流れる月光に掻き消される炎。
 実像を破壊され、陽炎のように揺らめき消え去る――



 ―――ひとつ目の難題「火鼠の皮衣」は燃え尽きた。


 
 




 
 
  2.燕の子安貝

 
 
 複雑な想いを込め、背を向けてただずむ妹紅を見る慧音。
 あれは、自分が――
 妹紅の祖先の歴史を掘り出し、一条戻り橋を参考に改良を加えたスペル。
 まさか、このスペルに救われることになろうとは……


「……音、………慧音! 早く安全な場所へ!!」

 逼迫した妹紅の声が慧音を現実へと引き戻す。
 ――なにをやっているんだ、私は。
 慌てて間合いを離し、安全圏に下がる慧音。




 輝夜の周囲を旋回する、五つ…いや、四つの宝物は次なる実像を形作ろうとしていた。
 次の難題は―――





  神宝「ライフスプリングインフィニティ」



 紺色の輝きを放つ宝物。
 実体化したそれは、一見みすぼらしいただのツバメの巣。
 だが、仮にも五つの難題に数えられるもの。
 そこにどんな禍々しい力が隠されているかは推測の域を出ない。


「ふふふ、嬉しい。少し見ない内に、随分と力をつけたのね。
 それでこそ、私が見込んだ――蓬莱の薬を分けた甲斐があったというもの。
 さぁさぁ、呆っとしている暇は無くてよ? 今度の問題はどう解くのかしら……
 ――――たのしみだわぁ…」



 ふいに空を切る音が響き、妹紅は視線を上空に向ける。
 暗い曇り空のなか、降り注ぐ雪。その合間を縫うように聴こえる……音。
 それは、燕が飛ぶような、鳶の鳴き声のような――長い、長い 風切り音。


 ひゅーーーーーーーーー

 何処と無く響く間抜けな音。見上げる妹紅の頭上にぐんぐんと迫ってくる物体が見えた。
 ――鳥の、フン?
 上空を飛び回る、不可視の燕。ぽつん、と現われた白い雪球のようなものは
 落下するうちに――
 ―
 ――
 ―――
 ――――とんでもない大きさになって 
 ―――――妹紅を押しつぶさんと、試みる。

「冗談じゃない、以前のスペルとは別物じゃないの」

 慌てて鳳凰の翼を具現化し、ばさっと雪を吹き散らし後方に飛びすざる。
 炎の残像を残しながら、全速で回避。
 あと数瞬、判断が遅れていたら……
 世にも情けない死因を想像し、ぶるりと体を震わせる。
 



 ――――べちゃり!!!!

 前方で嫌な音を立てて、白い物体が炸裂した。


 べちゃあああああああああああああああああああああ!!!!

 牛乳の満ちた皿の上からスプーンを落っことしたように、腐臭を放つ王冠は妹紅の領地を侵略する。
 空間に広がる粘着質の糸。間一髪避けた妹紅の横で、雪を纏った木に襲い掛かる。

 べちょ

 不快な音がした。
 舞い踊るように宙を翔け、糸を回避する妹紅
 横目で木を見やる。


 ………ぼこ ぼこぼこぼこ。

 …ぼこここここここここここここここここここここここここここここ―――――――!!!!

「………!」

 思わず息を呑む。糸が触れた箇所から…ぼこぼこと血溜のようなものが浮き出て、見る間に木の全身を覆い尽くす。隅々まで不恰好な瘤に埋められた哀れな木は、ぎちぎちと苦鳴を上げ――――――



 ぼん

 と弾け飛ぶ。

 木の洞で冬籠りしていたであろう、複数の栗色の毛玉――栗鼠のたぐい…か?
 それらは悲痛な泣き声を妹紅に向け、彼女の見守るなか
 
 無意味に 栗鼠の家族は  弾け飛ぶ。

 最後に、少し大きめの…親栗鼠だろうか…毛玉と、目が合った。

 ………。
 ――………。

 弾けた。


「…………」

 次々と上空より落下し、妹紅の逃げ道を塞いでいく鳥のフン。
 地べたで炸裂し…不毛な雪山で懸命に生きる…生命の成長を、異常促進させ、死に至らしめる穢い糸。

 ―――ライフスプリングインフィニティ。
 
 それは神の呪い。
 「産めよ増やせよ、地に満ちよ」
 限度を越えて、際限なく与え続けられる――生の祝福。
 行過ぎた善意は、悪意となんら変わりない。
 けれども―――
 遥かな高みから、素朴な生命の営みを見下ろす独善的な存在には…理解不能なことでしかない。
 繁栄を望み、滅亡を招く……最悪の祝福が、その呪いの正体。





 ひゅーーーーーーーー

 べちゃ

 ぼこぼこぼこ……

 繰り返される、私たちの争いとは…無関係な生命への、無意味な爆撃。


「………」

 無意識に、輝夜のくだらない弾幕を避け続ける。
 今、自分の脳裏に甦るのは、幸せだったころの……暖かい、家族。



 ………。

 無言で死んでいった、先程の親栗鼠の目が…過去の傷を抉り出す。













「………たのしいのか」

 ぽつり、と妹紅は輝夜に言葉を投げかける。
 不快音の満ちる戦場で、妹紅の言葉を耳聡く聴き取る輝夜。

「はぁ? たのしいに決まってるじゃない。まさか、ここまで避けきってくれるなんて。
 ――どこまで、貴女は、私をたのしませてくれるのかしら! ねぇ!!」

 
 より、激しさを増す弾幕。けれど、妹紅には当らない。…当ってなど、やらない。




「……力あるものは、いつも…そうだ。踏みにじられる弱者のことなど、考えもしない。
 輝夜……、あんたはいつもそう。自分の欲望のまま、平気で人の人生を狂わす。
 永遠? 退屈? ……そんなものは、どうでもいい。
 愚かな人間である、私が 望むこと。それは……永遠などではなく――――



 妹紅の翼が真っ赤に輝き出す。
 








  
        ―――輝夜、貴様の命だ

 

 
  

  


  ……集え、理不尽な死を迎えた罪無き魂よ。

    ……受け取れ、虐げられしものたちの傷を。

      ……償え、我ら誇り高き弱者に与えた罪を。

        ……来たれ、月まで届く――裁きのほのおよ!                 

 
 
 


           ――――藤原「滅罪寺院傷」 




 




 黙祷しつつ、両手を広げ菩薩のように浮かび上がる妹紅。
 紅蓮を纏う左右の翼より、断罪の方陣が放たれる。

 それらは、地に染み込んだ非業の死念を吸収していく。
 くるくると廻る方陣に満ちる――名も知らぬ大量の魂たちは、符を拠り所にして紫色の熾火となり――




 
              一斉に天を目指す。





 ――残酷な神を裁く、人が天に放つ審判の炎。
 天よりもたらされる穢き福音を、地より飛び立つ浄化の怨恨は焼き尽くす。
















 不可視の燕が上げる、不可聴の断末魔。


















 ぼうっ…と紫色の炎を上げ、輝夜の廻りを旋回する神宝がまた一つ消える。





 ―――二つ目の難題「燕の子安貝」は滅亡を迎えた。











  *



 上空の魔物を調伏した死炎は、ふたたび地に降り集う。
 まだ…最大の魔物が居ることを、理解しているかのように。
 
「……く」

 咄嗟に闇の衣――ぬばたまのころも――を頭上に展開する輝夜。
 地を這うほどに長い裾が影のように伸び、降り注ぐ―恨みを抱いた―浄化の炎から身を守る。
 昏い波紋を生み、影に飲み込まれていく幾つもの紫炎。
 軽い苦鳴を漏らす輝夜。







 ……最後の炎が、消えた。

 多少息を乱しながらも、昏い姫はいまだ健在。
 圧倒的な闇は、いまだ一片の光の侵入も許さない。


「……なにを怒っているのか、知らないけど、随分…頑張るもんだわ。
 やはり、手を抜いたまま戦うのは良くないみたいね。
 ふふふ……貴女の絶望が見たくて、もう少し遅く出そうと思ってたのだけど……
 ――このぶんなら…出し惜しみする必要も無い、か」










  3.限定解除、仏の御石の鉢 



 不穏な笑みを浮かべ、輝夜は懐より小さな物体を取り出す。

 ――それは、真鍮製の小さな鍵。

 雲に覆われた暗天にも関わらず、その鍵は自ら発光していた。
 まるで、白い月の光を凝縮したかのように。


「今宵、下賎な白き姫君には初めてお目にかかります。これに取り出だしたるは、月の小鍵。
 これは高貴な私めには過ぎたる力を持つ神宝の、能力制限を解除する――鍵にてございます。
 必死で難問を解いてきた姫には悪いのですが、いままでのは――単なる前座、ほんのお遊び。
 ―――さぁ、とくと御覧あれ。本当の夜の始まりを!」


 巫座戯た態度で大仰にお辞儀をし、手の内の鍵を神宝――仏の御石の鉢に差し込む。
 幻影を突き抜けることなく、鍵はかちり、と不吉な音をたてる。
 




 ――――神宝「仏の御石の鉢 -重力の井戸-」



 三つ目の神宝が、金剛石のように輝く。
 実体化したそれより鍵を引き抜き、輝夜はくすくすと哂いながら妹紅に話しかける。

「ここからが、本当の宴の始まり。さあ―――

 詠いましょう? 血が飛び 肉が弾け 骨の軋む詩を。
 踊りましょう ? 身が裂け 心が砕け 魂の焼かれる輪舞を。
 
 ――不死という名の 二人だけの 

           黄昏の夢を―――







 輝夜と妹紅の間、ちょうど中間地点に強烈な重圧がかかる。




 ズズズズズズ………



 白い雪に覆われた大地。
 地中深くより生じた重い響きが―――地表を目指す。



 ビシッ 

 白い絨毯に黒い亀裂が走る。




 ビキキキキ―――

 見る間に亀裂は蜘蛛の巣状に広がり逝く。
















 ――――――――――――ズドン

 巨大な金剛石の結晶が大地を貫き、天高くそそり立つ。


















「…………大地の魔物、か」


 妹紅が背負う鳳凰の炎を煌々と照り返しながら、石筍は美しく輝く。



 ――紅く 赤く  内部に強大な闇を内包しながら、プリズムのように。


 月を衝くほどに、夜空に突き立つ―――巨大な光牙。


 















 あたかも、それは……重力の軛を脱した伝説の魔獣…ベヘモスの牙を象徴するかのようであった。











火鼠の皮衣:
……妹紅は火炎吸収属性持ってそうですよね。
でも「うまうま、ぷはー!もーいっぱい!」だと余りに締まらないので、強引にアレは万能属性だから吸収不可!てことにしといて下さい。お願いしますorz

燕の子安貝:
燕のうOこです。こんな解釈した私は馬鹿ですか馬鹿ですね馬鹿ですよ_| ̄|○
やばげな成長促進剤、永琳特製、効果抜群!……死ぬほど急成長。すげぇ嫌な弾幕。

滅罪寺院傷:
ゲーム中の上下する符から。字面でこんなイメージが。不条理なことに怒るのは、身分の貴賎に関係無いとおもう。たとえ相手が神のような存在だとしても。卑しい性根の貴族がいくら寺院を建てても、腐れた行為は償えない。真の貴族は、レミリア様のような……

徐福時空:
あー、ベルセルクのボイドみたいな感じで因果律を逆転させるとカコイイな、程度の思いつきです。

静かなる海:
いくつかのスペルは発動中に近寄ると ばばばばば て通常弾がでるんで。それを。輝夜のは見た目パチェの月符に似ているような。ついでに月の地名を。


ほんとはもっと早く完成だったんですが……後編のかきかきしてる時に……

テキスト→保存しますか?→いいえ
( ゚Д゚)………。
何度同じことを繰り返すのか、わけわかりません。
馬鹿ぁっ!!(;゜Д゜)=∝∝∝∝∝∝Σ)Д`).:;∴
すみませんすみませんすみません静流さんorz
しん
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コメント



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6.40渡夢削除
てる様お遊びモード全開ですね~ww こちらの方々にはまだ逢えないヘボゲーマーですが、愛だけはたっぷりあるのです(≧o≦)b
っていうか、慧音さんってばめっさ足手まとい・・。いーのか、それで(苦笑
お宝はあと3つですね。どんな展開になるのかなぁー(わくわく♪