3.
「な、なんでこんな寒いところを通るニャ?回り道してほしいニャ」
「我慢しろ。ここを通れば5分くらいで着くんだから。何もなければな・・・」
「・・なんか気になる言い方ニャ」
「まあ何もないよう祈ってろって事だ。しっかりつかまってろよ」
「急ぐことも忘れないようにニャ」
今、魔理沙と橙がいるのは広い広い湖のほとり。
噂では氷の精がいるとかいないとかで、その為か年中無休で寒い。
そこに来るまではのんびり歩いてきたが、流石に湖を泳いで渡るのは嫌ということで
魔理沙が橙を抱えて湖を飛んで渡ることにした。
もっとも、橙は魔理沙の腕に抱かれたと思ったらしたたかにも魔理沙の服の下へ潜り込んでしまったのだが。
魔理沙の服の襟元から橙が顔だけチョコンと出している姿は、可愛くもあり滑稽でもあった。
「まだかニャ?」
「あと1分くらいで着くよ」
「もう少しゆっくり飛んでもいいニャ。この中は暖かいニャ」
「私は急ぐぜ。お前の毛がチクチクして痛いし痒い」
しばらく飛んでいくと、深い霧の向こうに陸地がぼんやり浮かんできた。
それと、空中に佇む黒い影もおぼろげながら見えてきた。
「魔理沙、誰かいるニャ」
「予感的中だな・・・・橙、しばらく隠れてた方がいいぜ」
「何でニャ?」
「アレが私の言ってた『何か』だよ。ついでに言うとアレはかなり寒いぜ」
「寒いとかゆーなっ!」
小声での会話を聞き取るほどの地獄耳だったか、彼方の人影が声を張り上げる。
そして橙が頭を魔理沙の懐に隠した次の瞬間、無数の氷塊が魔理沙めがけて降り注いだ。
「ちっ、何のこれしきっ!」
魔理沙も負けてはいない。右手を前にかざし、そこから
魔力の塊―マジックミサイルを次々と撃ちだして氷塊を落としていく。
魔理沙が全ての氷塊を撃ち落とした時には、人影はその顔を見分けられるほどまで近づいていた。
「・・・絶対邪魔しに来るとは思ってたよ。氷精チルノ」
「私の縄張りに無断で入ってくるとはいい度胸してるわね。そんなに冷凍保存されたいわけ?」
「今日はお前なんかに用はないぜ。ここを通りたいだけさ」
「それが駄目だって言ってるのよ!わからないようなら冷凍保存どころか粉々にしてやるわ!」
「じゃあ、私は空の彼方までお前を吹っ飛ばしてやるぜ。魔符『ミルキーウェイ』!!」
言うや否や魔理沙はポケットから札を取り出しそこに魔力を込める。
札は淡く輝き、魔力を次々と巨大な星の形に収束させ前へ放っていった。
避ける余地すら与えずに飛んでいく星々はチルノを呑み込み、文字通り空の彼方まで吹っ飛ばしてしまった。
「不意討ちとは卑怯だ~・・・・・・・・・・」
「うるさいな、しばらく空のお星様にでもなってろっての・・・・・橙、もう出てきていいぜ」
「うんしょっと・・・・魔理沙、『何か』はもうやっつけたのかニャ?」
「まあな」
「凄いニャ!魔理沙は世界一強いニャ!」
「おだてても何も出ないぜ・・・そんな事より早く行こうぜ。寒くて痛くて痒い」
魔理沙の顔が少し紅くなっている事に橙は気づかなかった。
4.
湖を渡りきった二人は、再び徒歩で目的地を目指し始めた。
橙は魔理沙の懐から出て自分の足で歩いている。
だから歩くペースは非常にゆっくりだが、それに魔理沙が合わせていた。
「ああそうだ、これから行く所は一応ちゃんとした所だからな。人型に戻った方がいいと思うぜ」
「無理ニャ。私の変身は一度かけたら半日は元に戻らないニャ」
「微妙に不便な能力・・・」
「それに、今日は猫の目線で物を見ようと決めてたニャ!」
「まあどうでもいいけど。じゃあ今日は私のペットって事にしておくか? 野良猫よりは扱いがよくなると思うぜ」
「魔理沙の・・・ペット・・・・うん、それでいいニャ」
今度は橙が顔を紅くしたことに魔理沙は気づかなかった。
深い森に住む生き物に目を向けたり、手付かずの自然を眺めながら歩くこと小一時間。
二人の目の前に真っ赤な屋敷が姿を現した。
「やっと着いた、ここが今日の目的地だぜ」
「紅い・・・・・真っ赤なお屋敷ニャ」
「そうそう、紅いからっていう単純な理由でついた別名が紅魔館。そしてここの主人といえば・・・」
「『紅い悪魔』レミリア・スカーレット・・・・それは知ってるニャ」
そう言う橙の顔が引きつっていくのがよくわかる。さらに、彼女は後ずさりもしていた。
「駄目ニャ!あそこに入って帰った者はいないとか、たくさんの血が染み付いて館が紅くなったとか、
とにかく悪い話をたくさん聞いたことがあるニャ!私たちも生きて帰れないニャ!!」
「大丈夫だって。ここのご主人様に用があるわけじゃないんだし」
「それでも危険ニャ!こんな所で死にたくないニャ!」
「橙・・・・」
魔理沙は怯える橙を抱え上げると優しく抱きしめた。
「にゃ・・・・・」
「何かあったら私がお前を守ってやる。絶対だぜ」
「魔理沙・・・・」
「それに、お前が思ってるほど怖い所じゃないぜ。私は何度も遊びに来てる」
「・・・じゃあ私が行っても大丈夫ニャ?」
「よほどの事をしない限りな」
「・・・わかったニャ、魔理沙を信じるニャ」
逃げ腰だった黒猫から、震えと迷いが完全に消え去っていた。
「また来たの?遠路はるばるご苦労様・・・・・って、あれ?」
紅魔館内にある図書館の主は、見慣れない生き物を目にして目を丸くした。
「ああ、私のペットだ」
「困るわ。そんな動物に大切な蔵書を荒らされたりしたら・・・」
「おとなしい子だから大丈夫だよ。もし何かあったら私が責任とるからいいだろ?」
「・・・魔理沙がそう言うならしょうがないわね、許可するわ」
堂々と図書館に入る魔理沙とその腕に抱えられてまさに『借りてきた猫』のごとく
おとなしくしている橙。一つ目の本棚を曲がって人目を避けると、魔理沙は橙を地面に下ろした。
「うわぁ~、本がいっぱいニャ♪」
「あまり騒がしくするなよ。お前はおとなしい普通の猫って事になったんだからな」
「わかってるニャ。ねえ魔理沙、あっちの方に行ってもいい?」
「お前、今の体じゃ本読めないだろ」
「どれくらい広いか走ってみたいニャ!」
「静かに行けよ」
それからしばらくの間、お互い自由な時間を過ごした。
魔理沙は目新しい本がないかチェックし、あればパラパラとめくってみる。
中でも『罘虻流昆虫記』なる本に興味を持ったらしく、一通り読み終わった後も小脇に抱えている。
と思ったら、誰も見ていないのをいいことにこっそり本を服の中に忍ばせた。
橙は図書館狭しと走りまくり、本棚をアスレチック代わりに遊んでいる。
そんなこんなで陽の暮れる時間まで二人は図書館に入り浸り、
図書館の主に注意されて二人はようやく紅い館を後にした。
「な、なんでこんな寒いところを通るニャ?回り道してほしいニャ」
「我慢しろ。ここを通れば5分くらいで着くんだから。何もなければな・・・」
「・・なんか気になる言い方ニャ」
「まあ何もないよう祈ってろって事だ。しっかりつかまってろよ」
「急ぐことも忘れないようにニャ」
今、魔理沙と橙がいるのは広い広い湖のほとり。
噂では氷の精がいるとかいないとかで、その為か年中無休で寒い。
そこに来るまではのんびり歩いてきたが、流石に湖を泳いで渡るのは嫌ということで
魔理沙が橙を抱えて湖を飛んで渡ることにした。
もっとも、橙は魔理沙の腕に抱かれたと思ったらしたたかにも魔理沙の服の下へ潜り込んでしまったのだが。
魔理沙の服の襟元から橙が顔だけチョコンと出している姿は、可愛くもあり滑稽でもあった。
「まだかニャ?」
「あと1分くらいで着くよ」
「もう少しゆっくり飛んでもいいニャ。この中は暖かいニャ」
「私は急ぐぜ。お前の毛がチクチクして痛いし痒い」
しばらく飛んでいくと、深い霧の向こうに陸地がぼんやり浮かんできた。
それと、空中に佇む黒い影もおぼろげながら見えてきた。
「魔理沙、誰かいるニャ」
「予感的中だな・・・・橙、しばらく隠れてた方がいいぜ」
「何でニャ?」
「アレが私の言ってた『何か』だよ。ついでに言うとアレはかなり寒いぜ」
「寒いとかゆーなっ!」
小声での会話を聞き取るほどの地獄耳だったか、彼方の人影が声を張り上げる。
そして橙が頭を魔理沙の懐に隠した次の瞬間、無数の氷塊が魔理沙めがけて降り注いだ。
「ちっ、何のこれしきっ!」
魔理沙も負けてはいない。右手を前にかざし、そこから
魔力の塊―マジックミサイルを次々と撃ちだして氷塊を落としていく。
魔理沙が全ての氷塊を撃ち落とした時には、人影はその顔を見分けられるほどまで近づいていた。
「・・・絶対邪魔しに来るとは思ってたよ。氷精チルノ」
「私の縄張りに無断で入ってくるとはいい度胸してるわね。そんなに冷凍保存されたいわけ?」
「今日はお前なんかに用はないぜ。ここを通りたいだけさ」
「それが駄目だって言ってるのよ!わからないようなら冷凍保存どころか粉々にしてやるわ!」
「じゃあ、私は空の彼方までお前を吹っ飛ばしてやるぜ。魔符『ミルキーウェイ』!!」
言うや否や魔理沙はポケットから札を取り出しそこに魔力を込める。
札は淡く輝き、魔力を次々と巨大な星の形に収束させ前へ放っていった。
避ける余地すら与えずに飛んでいく星々はチルノを呑み込み、文字通り空の彼方まで吹っ飛ばしてしまった。
「不意討ちとは卑怯だ~・・・・・・・・・・」
「うるさいな、しばらく空のお星様にでもなってろっての・・・・・橙、もう出てきていいぜ」
「うんしょっと・・・・魔理沙、『何か』はもうやっつけたのかニャ?」
「まあな」
「凄いニャ!魔理沙は世界一強いニャ!」
「おだてても何も出ないぜ・・・そんな事より早く行こうぜ。寒くて痛くて痒い」
魔理沙の顔が少し紅くなっている事に橙は気づかなかった。
4.
湖を渡りきった二人は、再び徒歩で目的地を目指し始めた。
橙は魔理沙の懐から出て自分の足で歩いている。
だから歩くペースは非常にゆっくりだが、それに魔理沙が合わせていた。
「ああそうだ、これから行く所は一応ちゃんとした所だからな。人型に戻った方がいいと思うぜ」
「無理ニャ。私の変身は一度かけたら半日は元に戻らないニャ」
「微妙に不便な能力・・・」
「それに、今日は猫の目線で物を見ようと決めてたニャ!」
「まあどうでもいいけど。じゃあ今日は私のペットって事にしておくか? 野良猫よりは扱いがよくなると思うぜ」
「魔理沙の・・・ペット・・・・うん、それでいいニャ」
今度は橙が顔を紅くしたことに魔理沙は気づかなかった。
深い森に住む生き物に目を向けたり、手付かずの自然を眺めながら歩くこと小一時間。
二人の目の前に真っ赤な屋敷が姿を現した。
「やっと着いた、ここが今日の目的地だぜ」
「紅い・・・・・真っ赤なお屋敷ニャ」
「そうそう、紅いからっていう単純な理由でついた別名が紅魔館。そしてここの主人といえば・・・」
「『紅い悪魔』レミリア・スカーレット・・・・それは知ってるニャ」
そう言う橙の顔が引きつっていくのがよくわかる。さらに、彼女は後ずさりもしていた。
「駄目ニャ!あそこに入って帰った者はいないとか、たくさんの血が染み付いて館が紅くなったとか、
とにかく悪い話をたくさん聞いたことがあるニャ!私たちも生きて帰れないニャ!!」
「大丈夫だって。ここのご主人様に用があるわけじゃないんだし」
「それでも危険ニャ!こんな所で死にたくないニャ!」
「橙・・・・」
魔理沙は怯える橙を抱え上げると優しく抱きしめた。
「にゃ・・・・・」
「何かあったら私がお前を守ってやる。絶対だぜ」
「魔理沙・・・・」
「それに、お前が思ってるほど怖い所じゃないぜ。私は何度も遊びに来てる」
「・・・じゃあ私が行っても大丈夫ニャ?」
「よほどの事をしない限りな」
「・・・わかったニャ、魔理沙を信じるニャ」
逃げ腰だった黒猫から、震えと迷いが完全に消え去っていた。
「また来たの?遠路はるばるご苦労様・・・・・って、あれ?」
紅魔館内にある図書館の主は、見慣れない生き物を目にして目を丸くした。
「ああ、私のペットだ」
「困るわ。そんな動物に大切な蔵書を荒らされたりしたら・・・」
「おとなしい子だから大丈夫だよ。もし何かあったら私が責任とるからいいだろ?」
「・・・魔理沙がそう言うならしょうがないわね、許可するわ」
堂々と図書館に入る魔理沙とその腕に抱えられてまさに『借りてきた猫』のごとく
おとなしくしている橙。一つ目の本棚を曲がって人目を避けると、魔理沙は橙を地面に下ろした。
「うわぁ~、本がいっぱいニャ♪」
「あまり騒がしくするなよ。お前はおとなしい普通の猫って事になったんだからな」
「わかってるニャ。ねえ魔理沙、あっちの方に行ってもいい?」
「お前、今の体じゃ本読めないだろ」
「どれくらい広いか走ってみたいニャ!」
「静かに行けよ」
それからしばらくの間、お互い自由な時間を過ごした。
魔理沙は目新しい本がないかチェックし、あればパラパラとめくってみる。
中でも『罘虻流昆虫記』なる本に興味を持ったらしく、一通り読み終わった後も小脇に抱えている。
と思ったら、誰も見ていないのをいいことにこっそり本を服の中に忍ばせた。
橙は図書館狭しと走りまくり、本棚をアスレチック代わりに遊んでいる。
そんなこんなで陽の暮れる時間まで二人は図書館に入り浸り、
図書館の主に注意されて二人はようやく紅い館を後にした。