私が出会った守矢早苗女史

作品集: 最新 投稿日時: 2011/04/01 23:58:50 更新日時: 2011/04/01 23:58:50 評価: 1/8 POINT: 1054439 Rate: 23432.53

 

分類
守矢早苗
 早苗さんとお話をしたことがあります。
 もちろん東風谷早苗さんじゃないですよ? 黄色い救急車は呼ばなくて大丈夫です。
 私が会話をしたのは、守矢早苗さんのほうです。神長官守矢78代目当主、実在する人物であることは皆さんも良くご存知でしょう。
 あれは、雨上がりの、諏訪湖畔での出来事でした――。


 その日の信州は夜更けから雨でした。18切符で盛岡から関東に移動し、新宿駅でギリギリ終電に駆け込み、甲府駅に着く頃にはもう雨が降っていました。一日中電車にゆられてくたくただった上、雨の夜ではテントをはる場所も見つける事ができず、私はしかたなく駅の構内の隅でほとんどホームレスの如く、ぐったりと夜を明かしました。その頃私はバックパッカーの真似事をしていて、テントを携帯して各地を移動して回っていたのです。(気仙沼や女川にも、訪れた事があって、今回の震災被害にはとても胸が痛みました) 
 甲府から諏訪まで徒歩で移動する事も考えましたが、その頃はもう10月で、日本アルプスはすでにテントを張るには厳しい気温でありました。

「二、三日はかかるだろうし、道中で凍死するんじゃないか。山中泊になる可能性もあるし、野生動物が恐い……」

 その何日か前、山中にテントをはって眠っていたところ、得たいの知れない動物(多分、狐か狸だったのでしょうけれど)がテントの周りをうろつき、その時の恐怖がトラウマになっていました。
 結局、甲府から始発の電車に乗り込んで、鈍行で上諏訪に向かいました。途中山間の駅では、早朝にも関わらず大勢の学生と乗り合わせました。学生を車で送ってきた母親方でしょうか、駅の外にはたくさんの女性が子供達を見送っていました。

「早苗さんもこんな風な学生時代を送ったのかなフヒヒ」

 地方事情に感心しつつ、オタ思考を繰り広げました。ブレザーではなくセーラー服だったこともポイントが高かったのです。
 上諏訪についたとき、空は薄暗く、町の人は皆傘をさしていました。駅のホームに展示されていた注連縄に興奮しつつ、愛用している二週間近くつけっぱでもいっこうにバッテリーがきれない不思議なmp3プレイヤーで「神さびた古戦場」を再生すると、マジでテンションが天井知らずに高まってゆきました。初めて訪れた諏訪であり、もちろん目的地は諏訪湖と諏訪大社、洩矢神社でした。
 最初、諏訪湖の眺めには少し物足りなさを感じました。駅の西、湖畔公園から塩尻峠の方角を眺めたのですが、空は暗く、湖面はくすんで、対岸の眺めもぼやけていました。正直、地元大阪で、淀川を挟んでながめる梅田ビル群の眺めのほうがよほど豊かに思えました。
 
「何日間かは諏訪に滞在するつもりだし、晴れたらまた眺めにこよう」

 そうして湖畔を後にしました。
 そして、生の諏訪子様情報に触れるため、諏訪市図書館で持ち出し不可の類の本を読んでみようと、図書館に向かっていた時です。あんなに曇っていた空が、急に明るくなってきました。
 雲はちぎれ、合い間に青空を得るようになっていきました。これはもしや、と思い私は急いで諏訪湖に取って返しました。
 その判断は正解でした。
 私の人生でもっとも美しい眺めがそこにはありました。途切れた雲の合い間からの巨大な木漏れ日と、雨に塵がながれて極度に澄んだ大気がその眺めを生んだのでしょう。広大さで言えば、猪苗代湖や琵琶湖の眺めのほうが勝っていたのですが、諏訪湖の眺めにはそれとは別種の、唯一の諏訪湖の美しさがあります。これを伝えるにはもう、眺めてもらうしかありません。私には無理です。
 それまでのどんな眺めよりも心を奪われて、30分以上も、立ち尽くして諏訪湖を眺めていました。
 ある老婦人が私を呼んだのは、その時でした。

「貴方、旅行の方?」

 振り向くと、私(165cm)より少し身長の低い、短い白髪を丁寧にととのえた女性が私のすぐ側に立っていました。
 話しかけられた事には結構驚きました。その頃私は綺麗とはいえない服装をしていました。旅の間ずっとはおっていたコートはとうに陽に焼けて、黒から焦げちゃに変色しています。何日か風呂に入れない日があって、頭にはフケを隠すためのニット帽を装着しています。そしてデカイ鞄を背負って……よく話しかけようと思ったもんです。
 
「あ、はい。そうです」

 女性の身なりは綺麗に整っていて、私と並んでいると妙な取り合わせだったでしょう。
 彼女はハキハキとした口調で、私の身の上や、これまで訪れた場所の話などを楽しげに伺ってくれました。
 それからこういいました。

「諏訪はどう?」
「びっくりするくらい綺麗ですよ」
「あはは。じゃあ、住んでみない? 湖の北には大きな工場もあるし、仕事もあるわよ」
「関西で働いてるので……」

 と答えると少し残念そうに、

「若い人にきてほしいんだけどねぇ」

 それから諏訪湖の詳しい情報を教えてくれました。
 水深や周囲の距離、それから伝承などなど……。

「くわしいですね」

 というと、

「学校で先生をしてたの」

 なるほどたしかに、納得してしまえる物腰でした。 
ああ! 
時間がなくなっちゃった!
続きはwebで!

この人が早苗さんだというのは俺の妄想ですが、こういう女性と会話したのは本当です。
KASA
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2011/04/01 23:58:50
更新日時:
2011/04/01 23:58:50
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6. 1000000 名前が無い程度の能力 ■2011/04/02 21:12:03
現実の守矢神社が神寂れることはそうそうなさそうですね
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