「がーーーー!!!思いつかない!!」
蓮子は大げさに頭を抱えながら絶叫する。ここはおしゃれな喫茶店で、静かな雰囲気が売りの場所だというのに、なんとも大胆なことである。
「別にさ、そんな重要な箇所じゃあないんだったら、適当に書いて次に進めた方が良いんじゃないかしら? 先のプロットはもう出来ているんでしょう?」
ティーカップを片手に、大慌てで現れた店員をごく自然に追い返しつつ、彼女にそうアドバイスする。たとえパートナーが取り乱そうとも、こちらは努めて冷静で居なければ。
つまり蓮子は、次の燕石博物誌向けの原稿が手詰まりしていて、それを私が監視しているという構図だった。あえて言うまでも無いが、私の分は書き切っている。
「出来てはいるんだけどさ、でもそんなの許されるわけないでしょう? 方程式を解くときに、ここは難しいから省略しますだなんて言い訳が通用しないのと一緒よ!」
「そんなこと言ったってさ、そうキーボードの前でウンウン唸っている暇があったら、とりあえず書けるところだけ書いて、後で散歩しながらでもシャワーを浴びながらでも、他のことをしながら存分に悩めば良いじゃない」
「うっ……でもさ、どうして原稿から離れているときの時の方が、ふとした拍子にグッドアイディアが浮かんでくるのかしら?」
背もたれに寄り掛かり、だらしなく天井を仰ぎ見ながら、彼女は言った。
「そもそも、原稿をしなければならないっていう強迫観念が悪いんじゃない? たとえエッセイチックな博物誌の文章でも、創作は創作。創作とは何者にも囚われず、自由に想像の羽を羽ばたかせられるような環境でないと。
後はまあ、そういった、創作とは関係ない場所にこそ、創作のヒントって言うのは隠れているんじゃないかしら?
……というか、そう理路整然とした話をするのは蓮子の役目でしょう? まったく、どんだけ追い込まれてるのよ」
「あはは、ごめん」
0から1を生み出すことは困難を極める。ならば、0ではないが1にも満たない、様々な欠片を拾い集め、組み合わせていくことこそが、まず始めに行うべき事なのだろう。
その欠片さえもないのなら、拾いに行くしかない。
原稿とは全く関係ないところで発想を得るのは、そういった欠片を無意識のうちに蒐集しているからなのかもしれない。
すると、蓮子は徐に立ち上がり、私に手を差し伸べてきた。
「さあ、メリー。私達にこんな狭苦しい空間は似合わないわ! 心機一転、気分転換、外へ出掛けましょう! 原稿を棄てよ、街へ出よう!」
「はいはい。締め切りからの逃避行にならないよう、監視してないと」
その手を取り、カフェを後にする。閃きに必要な、とびきり素敵な欠片と出逢うために。
蓮子は大げさに頭を抱えながら絶叫する。ここはおしゃれな喫茶店で、静かな雰囲気が売りの場所だというのに、なんとも大胆なことである。
「別にさ、そんな重要な箇所じゃあないんだったら、適当に書いて次に進めた方が良いんじゃないかしら? 先のプロットはもう出来ているんでしょう?」
ティーカップを片手に、大慌てで現れた店員をごく自然に追い返しつつ、彼女にそうアドバイスする。たとえパートナーが取り乱そうとも、こちらは努めて冷静で居なければ。
つまり蓮子は、次の燕石博物誌向けの原稿が手詰まりしていて、それを私が監視しているという構図だった。あえて言うまでも無いが、私の分は書き切っている。
「出来てはいるんだけどさ、でもそんなの許されるわけないでしょう? 方程式を解くときに、ここは難しいから省略しますだなんて言い訳が通用しないのと一緒よ!」
「そんなこと言ったってさ、そうキーボードの前でウンウン唸っている暇があったら、とりあえず書けるところだけ書いて、後で散歩しながらでもシャワーを浴びながらでも、他のことをしながら存分に悩めば良いじゃない」
「うっ……でもさ、どうして原稿から離れているときの時の方が、ふとした拍子にグッドアイディアが浮かんでくるのかしら?」
背もたれに寄り掛かり、だらしなく天井を仰ぎ見ながら、彼女は言った。
「そもそも、原稿をしなければならないっていう強迫観念が悪いんじゃない? たとえエッセイチックな博物誌の文章でも、創作は創作。創作とは何者にも囚われず、自由に想像の羽を羽ばたかせられるような環境でないと。
後はまあ、そういった、創作とは関係ない場所にこそ、創作のヒントって言うのは隠れているんじゃないかしら?
……というか、そう理路整然とした話をするのは蓮子の役目でしょう? まったく、どんだけ追い込まれてるのよ」
「あはは、ごめん」
0から1を生み出すことは困難を極める。ならば、0ではないが1にも満たない、様々な欠片を拾い集め、組み合わせていくことこそが、まず始めに行うべき事なのだろう。
その欠片さえもないのなら、拾いに行くしかない。
原稿とは全く関係ないところで発想を得るのは、そういった欠片を無意識のうちに蒐集しているからなのかもしれない。
すると、蓮子は徐に立ち上がり、私に手を差し伸べてきた。
「さあ、メリー。私達にこんな狭苦しい空間は似合わないわ! 心機一転、気分転換、外へ出掛けましょう! 原稿を棄てよ、街へ出よう!」
「はいはい。締め切りからの逃避行にならないよう、監視してないと」
その手を取り、カフェを後にする。閃きに必要な、とびきり素敵な欠片と出逢うために。
散歩なら夜の公園が良いですよ。不審者と間違われたときのために走って逃げる準備をしておきましょう。切羽詰まった感じがとても身につまされました