私っぽい奴がいた。話しかけてきた。
「Hey, where is Hakurei Burger? I’ll f××× Reimu. Oh mistake, r×××. hahahahaha!」
知らん。無視して走ったらなんか言い出した。
「Shit! F××× off b××××!」
魔理沙はそんな汚いこと言わない。ああもうやめろって、舌出すな、中指立てるな。
ちょっと行くとまた似たようなのがいた。問答無用で消し飛ばすのもありだが、弾幕ごっこでもなんでもまずはコミュニケーションから始まるのが定石だろう。金髪で白黒の服をまとって、黒のとんがり帽子をかぶったそいつにとりあえず声をかけた。
「誰だお前」
「俺は魔理沙だぜ」
「嘘をつくな!」
「本当だぜ」
偽物だ。私の偽物がいる。私のファンか、はたまたドッペルゲンガーか。
「じゃあ私が偽物だっていうのかよ」
「いいや、お前も魔理沙だろう。俺たちブラザーじゃないか」
混乱してきた。なんだこいつ。普通偽物って奴は本物になり替わろうとするだろう。
「私が何人もいてたまるか……」
「何をぶつぶつ言ってるんだか、おお、丁度来たみたいだな」
向こうからてとてと駆けてくる人型がひとつ。そいつも白黒を基調とした服を着ていた。
「あら、こんにちは。うふふ。私、魔理沙っていうの、うふふふ、よろしくね」
「嘘をつけぇえええええ!」
「嘘じゃないもん。ほんとだもん」
もんってなんだ! ムカつくなぁもう。もんは霊夢以外言っちゃいけないんだぞう。
「なんだよお前ら……巫山戯てんなら消し炭にしてやる」
「ふざけてないわよ」
「そうだぜ。魔理沙が何人いたっていいだろうが」
いいわけあるか。私は私で、お前はお前だ。頭が痛くなってきた。もう考えるの面倒くさいや。私はミニ八卦炉を構えた。
「チクショウ、土に還りやがれっ」
「きゃあ、じぶんごろし」
「おっかねえな。ほんじゃマスタースパークを喰らう前に俺は森に帰るぜ。じゃあな」
私が魔砲を撃つ前に、偽物はすたこらさっさと姿を消した。
「もう、なんなんだよ」
「ほんとなんなのぜ」
「あいつらは誰だったんだぜ」
またかよ畜生。今度はなんだ。
デカいのと小さいのだ。一応聞いてみる。
「誰だお前ら」
「魔理沙なのぜ」
「魔理沙だじぇ」
もうヤダ。おうち帰りたい。
私は家に閉じこもるために魔法の森を走った。
何も見たくないのに木々の隙間からいやがおうにも金髪の少女が顔を出した。たとえ眼を瞑っても声が入ってくる。
すれ違う数だけ私が潜んでいた。
「やあ、僕は魔理沙だよ」
そのなりで僕っ娘は認めない、ボーイッシュにすりゃいいってもんじゃないぞ。
「うわーんこーりーん!」
ピーピー泣いてんじゃねえ!
「クソ、何度やってもあいつに勝てねぇ。私は努力してんのに、あいつは飄々と空を飛びやがる……!」
そういうことは胸の内に留めておけよ。わざわざ口にするな。
「アリスが心配だぜ、この魔理沙様が助けに行かなくちゃ」
おう頑張れ。
「パチュリーが心配だぜ」
そうか。
「にとりが――」
……。
「ククク、ハーッハッハッ! ついについに不老不死になる魔法薬を完成させたぞ! これで無敵だ!」
いや捨て虫使えばいいじゃん。
「ククク、ハーッハッハッ! 捨て虫を使ってしまったぁ、アハハハ! ハハハ……もう、大丈夫、ずっと一緒だぜ……」
悲しい。
「愛してるぜ、狂おしいくらいに」
誰に向けて言ってる。もうちょっと奥ゆかしくだな。
「ふはははは、ここであったが百年目! マスタース――」
「させるか、マス――」
後方で爆発音がしたが気にせずがむしゃらに走った。気になったのでちょっと振り返ったら餅がうにょーんってのびてぷくっーって膨らんで爆発してた。
私は無数の私の姿を頭の片隅に追いやって、できるだけ何も考えず、明日にはすべて戻っているに違いないという希望を抱いて駆けた。そして、家に到着して言葉を失うほど絶句した。
「んだよ、これ」
私がひしめき合っている。窓の外から尻をはみ出させているのも、屋根を突き破って蟹股になっているのも、土からひょっこり顔をのぞかせているのも全部私だ。
「やっぱりな。俺は最初からこうなると思ってたぜ」
俺魔理沙だ。こいつも家に入ろうとした口か。
「皆、魔理沙だもんなぁ、考えることは一緒ってわけだぜ」
「五月蠅い、黙れってんだよ」
私は魔理沙だ。こいつらは私じゃない。いや、こいつらが私なのか、実は私が偽物で、魔理沙が本物なのか。むしろ全部本物なのか。
「こっからは俺の推憶だぜ。数えたけど800人の魔理沙がいたぜ。気になる数字だよな」
800? 魔理沙がひとり、魔理沙がふたり……もうだめだ、頭が回らないよう。
「で、察するにだが、おいどこ行くんだぜ! おーい」
気が付くと森の中にいた。ふらふらと迷い込んだらしい。なんとなく見覚えがある地形だから家には帰れるだろう。あの、私がひしめく家に。そうだ、思い出した。私は無意識に逃げ出したのだ。
もう逃げない。薙ぎ払ってやる。同じ顔でも構うものか、私の安寧のために死んでもらう。
覚悟を決めて土地勘を頼りに私は家に帰った。
そして惨憺たる現場を見てしまった。
「あ、ねえ、こいつらあんたの偽物よね」
「あ、うん」
つい返事をしてしまった。そこに居たのは霊夢だった。鳥の声すらない閑寂な空間に、インクのようにどす黒い血液や体液が塗りたくられている。地面に転がる肉塊は真っ二つに割られた無数の魔理沙たちだった。
そして地面に膝を付き手を合わせている一人の魔理沙の前で、霊夢はお祓い棒を振り上げている。瞳の奥に闘志を隠した鉄面皮の巫女はまさに今、異変に終止符を打とうとしていた。
「アーメン」
白い服を着た魔理沙がそう言った刹那、お祓い棒が弧を描いた。
白の私は唐竹に鉈を振り下ろしたかのようにあっさりと両断され、絶叫のひとつもなく左右に倒れた。組み合わせた手が離れ、地についた瞬間指がポロリと転がった。
「あー終わった。まったく、あんたの顔じゃやりづらくてしょうがない」
「霊夢。霊夢ぅ!」
涙は流さないよう堪えたが、上ずった声になっているのはわかった。安堵と恐怖が入り混じり、心臓が高鳴っている。
「相当まいってたみたいね。大丈夫これで解決よ」
そうだ、異変は終わった。狂いそうになったが、今の私は平静だ。数日もすればきっと笑い話になるに決まってる。何より霊夢が、私を救ってくれた。有象無象の偽物をかいくぐり、この私を見つけてくれた。やり方は荒っぽいけど、いつもの霊夢らしいや。
私は零れそうな熱い涙を拭って、強がるようにニカリと笑って言った。
「へへやっぱりな。霊夢なら私を見つけてくれるって思ったぜ」
「いや、私は別に……」
顔を隠しているが、紅潮しているのがバレバレだ。私も柄にもなく正直な気持ちを言ったのだから少し恥ずかしい。
「ただ、最後に残った奴を本物ってことにしよう、と思っただけよ」
「えっ」
「Hey, where is Hakurei Burger? I’ll f××× Reimu. Oh mistake, r×××. hahahahaha!」
知らん。無視して走ったらなんか言い出した。
「Shit! F××× off b××××!」
魔理沙はそんな汚いこと言わない。ああもうやめろって、舌出すな、中指立てるな。
ちょっと行くとまた似たようなのがいた。問答無用で消し飛ばすのもありだが、弾幕ごっこでもなんでもまずはコミュニケーションから始まるのが定石だろう。金髪で白黒の服をまとって、黒のとんがり帽子をかぶったそいつにとりあえず声をかけた。
「誰だお前」
「俺は魔理沙だぜ」
「嘘をつくな!」
「本当だぜ」
偽物だ。私の偽物がいる。私のファンか、はたまたドッペルゲンガーか。
「じゃあ私が偽物だっていうのかよ」
「いいや、お前も魔理沙だろう。俺たちブラザーじゃないか」
混乱してきた。なんだこいつ。普通偽物って奴は本物になり替わろうとするだろう。
「私が何人もいてたまるか……」
「何をぶつぶつ言ってるんだか、おお、丁度来たみたいだな」
向こうからてとてと駆けてくる人型がひとつ。そいつも白黒を基調とした服を着ていた。
「あら、こんにちは。うふふ。私、魔理沙っていうの、うふふふ、よろしくね」
「嘘をつけぇえええええ!」
「嘘じゃないもん。ほんとだもん」
もんってなんだ! ムカつくなぁもう。もんは霊夢以外言っちゃいけないんだぞう。
「なんだよお前ら……巫山戯てんなら消し炭にしてやる」
「ふざけてないわよ」
「そうだぜ。魔理沙が何人いたっていいだろうが」
いいわけあるか。私は私で、お前はお前だ。頭が痛くなってきた。もう考えるの面倒くさいや。私はミニ八卦炉を構えた。
「チクショウ、土に還りやがれっ」
「きゃあ、じぶんごろし」
「おっかねえな。ほんじゃマスタースパークを喰らう前に俺は森に帰るぜ。じゃあな」
私が魔砲を撃つ前に、偽物はすたこらさっさと姿を消した。
「もう、なんなんだよ」
「ほんとなんなのぜ」
「あいつらは誰だったんだぜ」
またかよ畜生。今度はなんだ。
デカいのと小さいのだ。一応聞いてみる。
「誰だお前ら」
「魔理沙なのぜ」
「魔理沙だじぇ」
もうヤダ。おうち帰りたい。
私は家に閉じこもるために魔法の森を走った。
何も見たくないのに木々の隙間からいやがおうにも金髪の少女が顔を出した。たとえ眼を瞑っても声が入ってくる。
すれ違う数だけ私が潜んでいた。
「やあ、僕は魔理沙だよ」
そのなりで僕っ娘は認めない、ボーイッシュにすりゃいいってもんじゃないぞ。
「うわーんこーりーん!」
ピーピー泣いてんじゃねえ!
「クソ、何度やってもあいつに勝てねぇ。私は努力してんのに、あいつは飄々と空を飛びやがる……!」
そういうことは胸の内に留めておけよ。わざわざ口にするな。
「アリスが心配だぜ、この魔理沙様が助けに行かなくちゃ」
おう頑張れ。
「パチュリーが心配だぜ」
そうか。
「にとりが――」
……。
「ククク、ハーッハッハッ! ついについに不老不死になる魔法薬を完成させたぞ! これで無敵だ!」
いや捨て虫使えばいいじゃん。
「ククク、ハーッハッハッ! 捨て虫を使ってしまったぁ、アハハハ! ハハハ……もう、大丈夫、ずっと一緒だぜ……」
悲しい。
「愛してるぜ、狂おしいくらいに」
誰に向けて言ってる。もうちょっと奥ゆかしくだな。
「ふはははは、ここであったが百年目! マスタース――」
「させるか、マス――」
後方で爆発音がしたが気にせずがむしゃらに走った。気になったのでちょっと振り返ったら餅がうにょーんってのびてぷくっーって膨らんで爆発してた。
私は無数の私の姿を頭の片隅に追いやって、できるだけ何も考えず、明日にはすべて戻っているに違いないという希望を抱いて駆けた。そして、家に到着して言葉を失うほど絶句した。
「んだよ、これ」
私がひしめき合っている。窓の外から尻をはみ出させているのも、屋根を突き破って蟹股になっているのも、土からひょっこり顔をのぞかせているのも全部私だ。
「やっぱりな。俺は最初からこうなると思ってたぜ」
俺魔理沙だ。こいつも家に入ろうとした口か。
「皆、魔理沙だもんなぁ、考えることは一緒ってわけだぜ」
「五月蠅い、黙れってんだよ」
私は魔理沙だ。こいつらは私じゃない。いや、こいつらが私なのか、実は私が偽物で、魔理沙が本物なのか。むしろ全部本物なのか。
「こっからは俺の推憶だぜ。数えたけど800人の魔理沙がいたぜ。気になる数字だよな」
800? 魔理沙がひとり、魔理沙がふたり……もうだめだ、頭が回らないよう。
「で、察するにだが、おいどこ行くんだぜ! おーい」
気が付くと森の中にいた。ふらふらと迷い込んだらしい。なんとなく見覚えがある地形だから家には帰れるだろう。あの、私がひしめく家に。そうだ、思い出した。私は無意識に逃げ出したのだ。
もう逃げない。薙ぎ払ってやる。同じ顔でも構うものか、私の安寧のために死んでもらう。
覚悟を決めて土地勘を頼りに私は家に帰った。
そして惨憺たる現場を見てしまった。
「あ、ねえ、こいつらあんたの偽物よね」
「あ、うん」
つい返事をしてしまった。そこに居たのは霊夢だった。鳥の声すらない閑寂な空間に、インクのようにどす黒い血液や体液が塗りたくられている。地面に転がる肉塊は真っ二つに割られた無数の魔理沙たちだった。
そして地面に膝を付き手を合わせている一人の魔理沙の前で、霊夢はお祓い棒を振り上げている。瞳の奥に闘志を隠した鉄面皮の巫女はまさに今、異変に終止符を打とうとしていた。
「アーメン」
白い服を着た魔理沙がそう言った刹那、お祓い棒が弧を描いた。
白の私は唐竹に鉈を振り下ろしたかのようにあっさりと両断され、絶叫のひとつもなく左右に倒れた。組み合わせた手が離れ、地についた瞬間指がポロリと転がった。
「あー終わった。まったく、あんたの顔じゃやりづらくてしょうがない」
「霊夢。霊夢ぅ!」
涙は流さないよう堪えたが、上ずった声になっているのはわかった。安堵と恐怖が入り混じり、心臓が高鳴っている。
「相当まいってたみたいね。大丈夫これで解決よ」
そうだ、異変は終わった。狂いそうになったが、今の私は平静だ。数日もすればきっと笑い話になるに決まってる。何より霊夢が、私を救ってくれた。有象無象の偽物をかいくぐり、この私を見つけてくれた。やり方は荒っぽいけど、いつもの霊夢らしいや。
私は零れそうな熱い涙を拭って、強がるようにニカリと笑って言った。
「へへやっぱりな。霊夢なら私を見つけてくれるって思ったぜ」
「いや、私は別に……」
顔を隠しているが、紅潮しているのがバレバレだ。私も柄にもなく正直な気持ちを言ったのだから少し恥ずかしい。
「ただ、最後に残った奴を本物ってことにしよう、と思っただけよ」
「えっ」
もんって言っていいのは霊夢だけときゃあ自分殺しのあたり好き
たくさんの魔理沙がいる様は大変そうだぁ
魔理沙ちゃんは可愛いなぁ。
よかったじぇ
爆発して振り返るのはエイプリルフールのたしなみ