Coolier - 早々思いつかない話

工場制労働の隆興と時間概念の変化に伴うヒューマニティーの変容

2020/04/01 04:13:50
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株式会社Border商事代表取締役社長 八雲藍

我々の銀河系から遥か離れた宇宙の最遠部においては時間の感覚すら地球と異なるのだという。「24時間タタカエマスカ?」と時任三郎が日本人へ問うた狂乱のバブル期でさえ自然全体で見ると時は相対的であった。本書「ヤマメさんのだいくしごと」において作者が批判的に論じたのもそういった時間概念をあまりにも絶対的なものとして解釈し、無批判に隷属する現代の精神性である。主人公ヤマメさんは土蜘蛛の妖怪であり日曜大工を日々の慰めとしている。雨水滴る東屋にて人ならざるものを伴侶として生きる彼女は屋根の修理中にハシゴを落とす過誤を起こす。彼女の眷属に助けを求めるも、それらにとってハシゴは一時の手遊びの具に過ぎず、それは持ち去られてしまう。ヤマメ嬢はその日の予定を想起し途方に暮れふと自らを覆う蒼穹に目を遣った。氏はしだいに泰然とうごめくこの地球に包まれゆく。彼我の境目が消え時の息吹に抱かれた夕べ、眷属たちもまた大地をめぐり帰還し、1日という時間が終わった。あくせくした時をより相対的に捉え返すという体験を通し、近現代を批判した作者の意匠は細部にも宿る。氏が二次産業的な労働に日曜まで従事しているという様は産業革命期のイギリスにおける労働とその労働を管理するツールとして教育され誕生した、「近代的時間」の概念を意識したものに他ならない。妖精たちがハシゴを汽車になぞらえて遊ぶ様も当然同時期の蒸気機関の発明とパラレルな構造を成すものである。また、作者の独自性は一見不要である妖精の動物コスプレにも凝らされている。戦後「エコノミックアニマル」と評された我々日本人へ向けられた現代版のポストモダン宣言だ。トルストイはかつて「書かされるべきものだけを書くべきだ」と唱えた。一見平板な絵と最小限の文章の中にこれだけの寸鉄を込めた作者の精神性に感服であろう。
藍「どうでしょうか」
紫「違う、そうじゃない」
冴月麟
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コメント



0.24691358簡易評価
1.12345679奇声を発する程度の能力削除
何だか笑えました
3.12345679虚無太郎削除
ボーダー商事とか20年ぶりに見ました。まだ破産して無かったんですね……
4.12345679瞬間不名誉西方名君削除
なんだかすごかった ヤマメさんがなんだか一昔前の風刺のきいた読み物のそれっぽい感じがしてすきです
5.12345679へソプ削除
社畜に身を委ねよう
6.12345679削除
「ヤマメさんのだいくしごと」、なんて恐ろしい作品であろうか。いや、ボーダー商事がブラックなだけかも知れない。おおこわいこわい。
8.無評価@@削除
ぱくり?