Coolier - 迎え火 送り火 どんど焼き

スカーレット三姉妹

2019/04/01 00:20:18
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「あらフラン。私の部屋に来るなんて珍しいわね。隣の子は新しいお友達かしら?」
「まあね。私の部屋に泊まってもらっているんだけど、二人して眠れなくて。だから、いつもの通りお姉さまの退屈な昔話でも聞いて眠くなろうと思ったの」 
「失礼な妹だが、妹の友人の前で喧嘩するほどこのレミリア・スカーレットは狭量ではない。さてさて、どんな話がいいかしら。天球を巡る月と星が人々の秘密を囁きかける、今日のような夜に相応しい話――。うむ、そうだな。わが幼き頃の思い出、私達のお姉さまの話をしてあげよう。咲夜、この子達にも紅茶を用意してあげて。クランベリージャムも忘れずにね」
「紅茶とジャムでございます」
「ご苦労。さてフランにとっては知っての通り、私たちスカーレット姉妹の長女は私の愛する自慢の姉だったわ。東欧の片隅にひっそりと領地を構え暮らしていた頃、あの人がいなければ、当時とても弱かった私たちがこの世界で生きることはできなかった。あの人の翼は、他の吸血鬼とは違った。フラン、貴女も覚えているかしら? 貴女の七色の羽とも違う、夜そのもののような大きくて真っ暗な翼。その翼で、お姉さまは私たちを朝の光から守ってくれた」
「顔はもう思い浮かばないけれど、小さなころ、温かな暗がりが私の傍にいつもあったことは覚えてる。あれがその人の翼だったのね」
「そうね。誰もが畏怖する吸血鬼の名門貴族の生まれであり、人の心を弄ぶデーモン達も皆彼女には無垢な子どものように恋焦がれると謳われた。教会から吸血鬼の嫌疑をかけられ迫害される定命の領民を救うため、毒である邪竜の血すら啜った。そのせいで”月影を歩む幼君”だとか”吸血鬼の聖女”だとか大袈裟な二つ名ばかり噂になっていたわ。でも私たちにとってお姉様の意味はもっとささやかでだけどもっと大きなものだった。――彼女がその黒い翼を地平の彼方へと広げることで夜がやってくる。彼女がひとたび翼を広げれば、そこは陽の光を嫌う私たちが生きていける世界になる。朝になり、太陽が理性の矢を地平線から投げかけても、彼女は星の半分を覆う翼を身体の僅か数メートル四方にまでぎゅっと凝縮させて、凝った夜の領域で私たちを守ってくれた。当時の私たちにとって、世界とはお姉さまの翼の下のことだったわ。貴女はまだ小さすぎて覚えていないでしょうけど」
「ふーん」
「なにか不満そうね」
「ううん、ちょっとうらやましいだけ。同じ姉妹なのに私だけその人のことをあんまり覚えていないのって何だか少し不公平よね」
「私だってお姉さまの髪が月明かりにたなびくたび、似た髪色の貴女に少し嫉妬してたんだけどね。でも幸せな思い出こそときに残酷に胸を貫く。”満ちた月ほど容易く、足早に欠ける”というでしょう? 幸せな時代はそう永く続かなかった。貴女の物心がつくかどうかという頃に、ローマから派遣された異端審問官の計略に墜ちてスカーレット家長女には最悪の異端の烙印が押され、私たち姉妹は引き離され、お姉様の消息は何処とも知れなくなってしまったわ。私に残された道はただお姉さまが生きていることを信じて、その時間の半分が吸血鬼である私たちにとって敵となってしまった世界をその日その日生き延びていくことだけだった。お姉様の手がかりなんてほとんどないままに数百年が過ぎたわ」
「でも手掛かりはあったのよね。レミリアお姉さまはずっとそれを追って幻想郷まで」
「その通り。あれは異端審問官の奸計がお姉様を陥れる数か月ほど前のこと、日々きな臭くなる情勢の中で、思いがけず風が優しく星が高く輝く夜だった。あの日、私たち三人は当時住んでいた古い城のバルコニーで悪魔用のタロット占いをやっていた。そのとき私が手を滑らせ落としたカードが〈東方〉を指したことに、お姉さまはとても驚いていた。あの時私にはその意味が分からなかったけれど、今となっては良く分かる。そう、それはこの極東の僻地で、まさに今日この日にお姉さまと再会できる運命を示していたのね。――ねえそうでしょう? 姿は変わってしまっても、力を封じられていたとしても、決して見間違えることはありません。お久しゅうございます。この日をフランと二人で、どんなに待ちわびたことか」
「私にはぜんぜん確証はなかった。あなたは昔の記憶を失っているみたいだし、私もあなたのことはほとんど覚えていなかったから。でもレミリアお姉さまの話ではっきりしたわ。あなたは、私のもう一人のお姉さま、ルーミア・スカーレットなのよ。さあ、今そのリボンみたいな御札をとってあげる」












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ルーミア「エイプリルフールは明日だよ」
レミリア&フラン「へーそーなのかー」
よみせん
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コメント



0.2673簡易評価
2.891奇声を発する(ry削除
こういう関係があっても良さそう
3.891サク_ウマ削除
エイプリルフールだからって三人が与太話している、とも取れるのが上手いなあと。嘘でも本当でもどちらでも美味しい。なかなか良い作品でした
4.891虚無太郎削除
秒で紅茶とジャムを用意する咲夜さんマジパネェっす
5.891青段削除
ノレミリアスカーレットさんだ!!
8.891終身名誉東方愚民削除
乙でした!
姉妹が過去について語り合っているシリアスなのと、妹様と客人にお姉さまがお話を披露してあげようっていうハートフルなのとそういう全体的な雰囲気とっても好きです!すごい大胆な設定なのに、違和感を感じずにその二つの雰囲気に溶け込んでいるというか、うまく言えないんですがとにかく自然でした!