Coolier - 迎え火 送り火 どんど焼き

万歳!鈴奈庵モブ妖怪同盟!

2019/04/01 20:48:14
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 体の輪郭がゆがむ。思わず意識の境界がほころぶ。痛みもないのに頭を殴られたような衝撃を感じ思わず瞳が濡れる。
 今まではぎりぎりで自我と魂を押しとどめいたが、遂にここまで来てしまった。もうお得意のごまかしは効かないだろう。オレは、ボクは、いやワタシか?何を間違った?どこで計画を狂わせた。いや そんなことはどうでもいい。只アイツが憎い!アイツは、化け物みてぇな力で羽化したばかりのオレを踏みにじった!
 
 どんどん暗い淵に沈んでいく感じがする。ああ、ボクはどうなる?このまま下に溜まっているだろう他のヘドロと一緒になるのも一興か。ワタシは、力が欲しかっただけなんだ! もう ごまかせないならもういっそ。 この感情の炎。 溶けかかった輪郭の内なるモノ、 全て  すべて   焼き尽くそう





 「ぷう~食った食った!イイ飯ありがとよ店主!」「お客さん、お勘定…」「わ、分かってるって、つい昔の癖…否なんでも!そら、こ、これでいいだろ?」

 危ないところだった。昔を思い出すよ。盗み食いがばれてマミゾウとかいう狸の親玉にこき使われてもう幾年。辛いことを数えたらキリがない。こんなことなら巫女にでも倒されたほうがマシだったか。
 ちょっと前までこんな狭いとこなんて比にもならない大自然の中でのびのびやってた只の蛇だったのに、雑用、雑用。無茶させるよ全く。
 まぁ蛇のままじゃ絶対にできないような面白い経験も山ほどだったし、全部悪かったわけじゃないが。
 
 暖簾をけだるくめくると、何やら喧騒のようなものが目に入った。騒ぎは、まぁ悪くない。普段仲良くやってる人間どもが、化けの皮はがしてひっつかみ合ってるのは一匹で細々やってた俺にとっちゃあ、滑稽だ。
 
 
 
 
 「ああ?こんなしみったれたボロ刃にそんな高い金出せっか!」「しっしかし…」人の垣根を超え、奥に分け入る。たとえ恰幅の良い男に変化してても蛇にならお手の物さ。どうやら獣人の集団が、刀剣屋のおやじにケチつけてるみたいだ。なんだ面白くもねぇ。

 「俺ら獣人は力仕事で人間様に貢献してきたさ!なのに雇い金は雀の涙、しかもうだつも上がらねぇときた。こんな扱いしてなきゃいくらでも払うのによぉ。」
 何やら 明るく賑やかな所に出た ああ、オレは、戻ってこれたのだろうか。 あのおぞましい黒点から

 「そ、それは私どもではどうにも…わっ分かりました!お代は結構です!」こういう力任せに暴れる輩は同じ異類の身にもどうにも気に入らねぇ。芸と、何より品がねぇ。別に俺も高尚なモンでもねぇ、だがこいつらは、下の下だ。
 
 力で俺ら妖怪に劣り、知恵に優れた人間どもなんて、変化と悪戯で面白おかしくかきまわしてその知恵に任せた高慢な鼻をあかしてこそだろ?

 「よく言うぜ、何も分かってないくせによ!…頭で分からねぇならそうだな~」どうやら 喧嘩騒ぎのようだ。獣人が今にもなぐりかかろうと。ああ、それはダメだ。やってはいけない。 気付いたらおぼつかない足取りで ワタシは 輪の中心にいた。

 「あ?なんだテメェ?」きっとこの中で誰もがそう思ってたに違いねぇ。何しろボロボロの布切れかぶった乞食みてぇなやつが獣人たちとおやじの間に分け入ったのさ!これには蟒蛇の俺も心の中で長い舌を巻いた。
  
 「テメェこのおやじの仲間か?」いけない。 妖怪が人に近づくな。 錆びきった口を開き、「赤い服の巫女に ころされるぞ」次の瞬間 ボクは 殴り飛ばされて

 「どぅわっ!おいアンタ!大丈夫かよ!」ボロきれ野郎が獣人に吹き飛ばされたと思うと、俺に派手に激突して止まった。布の切れ目から灰色の服のようなものがのぞいてる。「ああ…」逃げようにも、ボロきれが邪魔だ。振り払って逃げるのは簡単だが、流石に放っておくことはできねぇだろ。やけにふらついてたと思ったら、こいつまともに動けねぇのか。
 口論が本格的な暴力に発展したせいで、やじ馬どもが蜘蛛の子を散らすように逃げていく。クソっ!出遅れちまった!
 「おやじの仲間の人間かと思ったら怨霊みたいじゃねぇか。どっちにしろ邪魔したやつは見せしめに…」
 こいつが怨霊?獣人どもから下にまた目を落して気づいた。かすかだが禍々しい魔力を感じる。ぼろきれの下にのぞいた灰色の服だと思ってたのは、こいつの肌だった。
 
 「どぅらっ!ギャハハ」後ろの親切そうな恰幅の良い男とともに 頭を蹴り飛ばされる 鈍い痛みが。。割れるように。頭…割れる… 「おいおい巫女が来たらどうすんだよ…」「あんなのは武勇伝だけのお飾りだ!違っても人間と妖魔のバランサーだ!話くらい聞いてくれるさ…」 巫女…侮辱…話を聞いてもらう…

 「そうらっ!」「ぐわっ!」チクショウ!獣人どもと喧嘩したんじゃ敵わねぇ!…こんな変な奴をかばっちまったばっかりに俺も殺されちまうのか…


 「思い出した。全てすべて。」次の瞬間、体にかかっていた重荷が消えた。
 
 「ぐわっ!」恐る恐る薄目を開くと近くに居た獣人どもが綺麗に吹っ飛んでた。「な、なんだテメェ…」一転して弱気な声で獣人の一人が言う。「ワタシは怨霊ではない…」「じゃあなんだ!このバケモン!」

 
 「知ってたかい?占い師は感情を操る職業なんだよ。怒りと恨みで、再び妖化。その後コントロールすれば怨霊にはならん。」占い師。易者。そういや思い出した。蟒蛇の俺と同じく人里を震撼させた、正体不明の化け物。だが巫女に薪割りするみたいに殺されたはずでは…
 
 「クソっ!このバケモンが!」大振りに振られた拳をかわす。「ここまで(騒ぎが佳境に)来れば他に人はいない さあ 俺を開放してくれないか?」「ふざけるな!こんのボロ屑があああ!」「俺の話を聞いていたのか!?ならば…易者インパクト!」「がっ!」獣人が、どこからか取り出された逆に水晶玉に殴られ宙を舞う。「こいつは俺の生前のお気に入りだ。重いぜ~」

 「ならこれはどうだ?」灰色の化け物(易者?)に矢が向けられる。「妖魔も殺せる特性の矢だ!死ね!」

 放たれた矢は、易者の眼前でその勢いを失った。「クク…易者ガード…」「なん…だと…?」どこからか取り出された幔幕に阻まれたのだ。「巫女の札も防いだ俺の生涯最大のファインプレーだ。銃弾も通さんよ。易者ニードル!」「ぐばぁっ!?なんだ…これ…」「おみくじで引くアレだ。書いてある言葉は違っても、お前らにあるのは大当たりの大凶だけだ。おねんねしな。」

 「動くなバケモノがっ!」「ひっ、ひいっ!」「!」刀剣屋のおやじの悲鳴だ。見ると残った一匹の獣人に取り押さえられている。「そこを動くなよ?」「なんと卑劣な…」「ひっひい…」「大人しくしろ!」追い詰められ、さらにおやじの抵抗に混乱した獣人が刀を振り下ろすーー「危な…」瞬間、駆けだす。だが間に合わねぇ…
 
 「易者ダッシュ!」走り出した俺の横を、一筋の陣風が、通り過ぎた。「!!」凶刃は、止まった。易者の頭を割り、上半身を引き裂いて。「アンタ…頭を…」「なんだコイツ、手ごたえねぇな~自分から突っ込んで死ぬんじゃざまあないぜ。」
嘘のようにあっけなかった。あの鬼神のように強かった易者がこんな簡単に…

 「次はテメェだな…覚悟しろ」「クソ…」「一緒にドタマかち割って割るぜ!」もうだめだ。目をきつく つぶる。

 

 「ぐっ……コイツ…ウソだろ?」刃が、振ってこない。再び薄目を開ける。すると上半身が割れたままの姿で易者が、刀を防いでくれていた。「ククク…」「な、なんでくたばんねぇんだ…」獣人はもう涙目になり腰が抜け、俺と同じように地面に這いつくばっている。

 「知ってたかい?俺は、易者は割れるものだ。一度割れたものだ。裂け目を割ることは、誰にもできん。」「き…汚ねぇぞ!」「クク…どっちのセリフだか」「な…なんでそんな無茶苦茶だ…!何もないとこから武器を出したり! 頭が…割れたり!」「ああ…」易者はどこか遠い目をしていた。

 「地獄の淵を通じて、ギャグ世界線で活躍するオレを見たんだ。そしうたら急にシリアスに管理された易者生活が惨めに見えてな シリアス路線を、止めようと思ったんだよ。」「訳わかんねぇ…」その意見は、蟒蛇の俺も同じだった。「遺言はそれだけか… 易者パンチ!」

 易者の指の間に賽子を挟んだ鉄拳が、最後の獣人の頭に炸裂する。と、そのまま動かなくなった。「クク…頭が割れるみたいに痛いだろ?」

 しばらくは、目の前で起こったことのあまりの意味不明さに頭が追い付かず、動けなかった。「大丈夫か…?巻き込んでしまったようで申し訳ない」易者のほうから俺に手を伸ばしてきた。「体中痛いが…まあな。アンタ、強いんだな。」「まあな。巫女には絶対敵わんが。」

 「う…ん?」「おっとじいさんも気を取り直したようだな。良かった良かった。」「アンタは…人ではないようだが…?」「心配するな。里の人間には害を与えるつもりはない。あのろくでなし共は退治しといたから。」「おお…ありがとうよ…」「クク…いいってことよ…」
 そういうと易者は急に顔をこちらに向け、慌てた様子で口を開いた。「おいアンタ…変化しているようだがなんかの妖怪だろ?さっさとずらかるぞ」「えっと…?」

 「里でこんなに騒ぎを起こしたんだ!分かるだろ!?」いうが早いか。「こおおらああああ!」「!」「ゲッ…天敵のお出ましだ…もうだめだ…」博麗の巫女が飛来してくる。流石に(蟒蛇なのに)呑み込みの悪い俺もまずいと気づいた。
 半ば放心状態になった易者を抱え上げる。元の蛇の姿の分しか力を出せない俺でも、簡単に持ち上げられるくらい意外なことに軽かった。けっこうスカスカなのな。くだらない考えはやめにして、里を抜け出すべく駆けだした。
 
 体中ボロボロで、軽いとはいえ荷物もあるのに足取りは、食い逃げで里からとんずらしてた頃よりも、はるかに軽かった。


 人里離れた木々の密集した山奥にたどり着く。「ふう…」「う…頭が…」横におろした易者のからだを軽くたたく。「良かった、気が付いたみてぇだな。」「ここは…?」「実をいうと俺も知らん!だが赤い悪魔からは逃げおおせたから安心してくれ!」「あの巫女からよく逃げれたな…」「まあ、前にやってたことの関係で里から逃げるのは慣れてるんだ。」

 
 意識がはっきりしたらしく、易者が起き上がった。「というと…?」「食い逃げさ。外の世界で人を食って妖怪になってから、そんなことばっかやってたぜ。」「妖怪になる…それは中々面白そうな。」「面白いって言ったらアンタもそうだろ?急に妖怪になったと思えば、敗れはしたが里の外で巫女と激闘を繰り広げたんだって?」「激闘というには…少し語弊があるが…まあ概ねそうだな。」「すげえ~力で俺たちをねじ伏せるあの巫女と渡り合うなんて、同じ妖怪として憧れちまうぜ!」「ははは…」

 易者はすっと立ち上がった。そして再び口を開いた。「今度は俺が質問していいか…?なぜ人を助けた?」「それは巻き込まれたからで…」「最初はそうだったかもしれないが、あのおじさんが傷つけられそうになったとき間に合わなかったとはいえお前も助けに行こうとしただろ…?」「はは、お見通しか。…さすがは易者だな。」

 俺は腰を下ろしたまま話をつづけた。「俺が食ったやつ…その、妖怪にしてくれた奴が変な奴でさ。足に傷を負っているとこを飲み込んだんだが、全然騒ぎも抵抗もしない。まるでどうせ死ぬなら、相手が大蛇だったとしても役に立ちたい、と言わんばかりだったんだよ。そいつは人間だったんだが、なぜ抵抗しねぇ、人間ってのはみんなこうなのか。これにまいっちまってね。」そこで言葉を一旦きる。

 「それからは人間に悪戯の繰り返しだ。その時に感じた疑問の答えが知りたくてな。…まぁとにかく、目の前で人間がくたばるのが嫌だったのさ。易者のアンタは?妖怪になりたいほど、人間が嫌いじゃなかったのか?」

 「…確かに妖怪に管理された生活が俺は嫌だった。だけど腐っても元人間だ。その根っこの部分は、恨みや怒りで洗い流されても、なかなか変わんないものさ。それにほかの奴らは俺と違った。そんな生活でも健気に生きててさ。俺は、たぶん、他人より弱かったんだな。そんな健気な奴らを…守りたかった…からなのかな。」「ハハハ…十分強いよ、アンタは。」
 
 俺も立ち上がることにする。「もっとアンタの話が聞きたいよ。どうやって妖怪になったんだ?巫女との戦いはどうだった?俺の奢りでいいから、こっそり行こう。」「別に不安はそれほどないが…いいのか?」易者が首をかしげる。「いいんだよ。目の前であんな大立ち回り観せられちゃあ、俺の顔が廃るってもんよ。俺にもかっこつけさせてくれ。」「ハハ…それは嬉しい。」

 
 陽がだいぶ落ち、闇に包まれようとしていた山から抜け出し、明かりのともる人里を目指す。恰幅の良いのと、ほっそりとしたのと。その二つの人影は、足取りも軽く。
 
 
かわいい女の子かと思った?残念易者だよ!(申し訳程度のエイプリルフール要素) 
易者のセリフは結構オマージュ入れてるので易者ファンならきゅんとするところも多いのでは?
易×蟒はやれ…
終身名誉東方愚民
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コメント



0.1782簡易評価
1.891浄霊の火削除
易者カッコイイじゃねーか…
2.891奇声を発する(ry削除
良かったです
5.891虚無太郎削除
易者ビームもいいぞ