長いこと、夢を見ていた気がする。あまり気分の良くない夢。大事が何かが失われて、泣いて訴えても、誰にも届かない、そんな悲しい夢だった。
目を覚ますと、生暖かい風が吹く野原のど真ん中に私、八雲紫は座り込んでいた。
なんて事のない野原、だけど、何か味気ないような感じもする。
「なんだか、味気ないな」
私がわが子のように愛した幻想郷なのに、この幻想が薄まった感じは何だろう、どうしても思い出せない。しばらく心の中を検索して答えを出そうとするが、なにも見つからない。式神の藍や橙を呼ぶが、気配すら感じられない。とりあえず私は立ち上がり、どこか誰かのいる所を目指そうと思う。
しばらく歩いていると、一人の少女らしき人影がやって来る。その人物は青と白を基調にした洋服を着ており、背中に透明な板ガラスのような羽が生えている。もちろん、私はこの子に見覚えがあるが、向こうは違うらしかった。
「あっ、お前誰だ」 礼儀もへったくれもない態度、本当に私を覚えていないのかしら。
「私は八雲紫、こう見えても幻想郷の賢者を務めさせていただいているのだけれど」
その少女は首を傾げ、困ったような顔を浮かべている。
「ええっ、お前みたいなちっこいのが?」
失敬な、と思ったが、確かに自分の視線がいつもより低い。私は背が縮んでしまっていた。
ということは何かで力を失うような事が私の身に起こったのか。それはいったい何?
「本当はこんな姿じゃないのだけど、今は力をなくしているみたい」
ためしに異次元へ通じるスキマを開いてみるが、何も起こらない。
「ちょっと変わったやつだな、ユカリ、だったっけ、あたいはチルノ、最強の氷の妖精だよー」
この子が氷精チルノであることは知っている。頭が足りないと思う事はあるが、それはこの子が幼いからで、実は相当伸びしろがあるのではないかと感じていた子だ。でも少し、彼女の醸し出す雰囲気が違うように感じられた。
ひょっとして、ここはいくつもあるいわゆる『平行世界』というやつか、あるいは、幻想郷に憧れる何者かが作った模造の世界、ある物語を一次創作とするならファンが作った二次創作の世界なのかもしれない。
だって私の愛する世界に比べて、ここはあまりにも『薄味』過ぎるのだ、幻想の成分が少なすぎる。ここは断じて元の幻想郷ではないと言える。何故なら幻想郷がこうなる事をこの私が許すはずがないからだ。
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「ごめんなさい、考え事をしていたわ。実は私、どこかで眠っていて、気が付いたらここにいたの、チルノ、この世界に何が起きているか知っているだけ教えてくれないかしら」
元の幻想郷に帰るためにも、まずは情報収集だ、力があればこの子に頼らなくてもいいのに、でも仕方がない。
「もともと、幻想郷はもっと不思議な力とか、面白い奴とかがいっぱいいて、同じ生き物も妖怪も妖精も、木も水も空ももっとカラフルだったんだ。でも変な言い方だけど、なんていうのか、そいつらの色の濃さは変わらないのに色が薄くなったような気がする」
彼女の気持ちは痛いほどわかる。
「それでも、普通の人間とか動物とか木とか花とかは居るんだけど、あたいら幻想っぽい奴の数が少なくなっちゃって、たまに外の世界の風が吹いてきて、巻き込まれた幻想っぽい奴が消えてしまうんだ。紫、賢者なら何とかできないの」
さっき試した通り、境界操作の力はない、その『外界の風』とやらが吹いてきても身を守れるかどうか。
それにしても、この平行世界、パラレル幻想郷の私は、霊夢は何をしているのだろう。かりにも八雲と博麗なら何とかしなさいよ。
「ごめん、どうにもできないみたい」
「あっそ、なら仕方ないね、そんでユカリはこれからどうするの」
「マヨイガへの帰り方も忘れちゃったし、ほんと、私ってどうしようもないよね」
「どうもなくないよ、ユカリってさ、今は調子悪いだけで、本来すっごーい力とかありそうじゃない、そんであたいは最強、二人が組めば何があっても大丈夫だよ」
チルノは胸を張って言う。聞けば彼女の仲間もなかなか会えなくなっているらしい。もしかしたらその『外の世界の風』とやらに攫われたのかも知れない。
「じゃあ、この幻想郷がどうなっているのか知りたいから、時間があれば一緒に行ってくれるかしら」
「いいとも、あたいもこれから大ちゃん達、友達を探しに行くところだったんだ」
チルノは私の手を握り、少し早めに歩き出す。ちょっと早いよ、と抗議すると、しょうがないな、と言いながらもゆっくりした足取りにしてくれた。
(ちょっと……子、歩くの速すぎ)
(……リーはのろまだなあ)
はっきりした記憶はないのに、昔の幸せな時期を思い出したような気がして、足が止まり、鼻の奥がつんとなった。
「こんな幻想郷だけどさ、それでももうすぐ春が来るんだよ、ま、あたいはどの季節でもサイキョー……ってなに? どうしんたんだよユカリ」
「なんでもない」
「なにかあったらこのアタイにすぐいうんだよ」
「ありがとう、チルノ」
「友達だからな」
友達……か、悪い気はしなかった。それどころか、この私ともあろう者が妖精のこの子に勇気づけられている。元の世界に帰っても、この子に会いに行きたい。
何より、こうやって対等の雰囲気で誰かと一緒に歩くのがたまらなく懐かしい。
道端の梅の木につぼみが出ている、人間基準なら、まだここには豊かな自然が残っている。
「確かに、温かい風ね」
異世界で友達(って言っても良いよね)を得て、私は希望を探して歩いていく。
あっ、そういや飛ぼうと思ったら飛べなかった。
目を覚ますと、生暖かい風が吹く野原のど真ん中に私、八雲紫は座り込んでいた。
なんて事のない野原、だけど、何か味気ないような感じもする。
「なんだか、味気ないな」
私がわが子のように愛した幻想郷なのに、この幻想が薄まった感じは何だろう、どうしても思い出せない。しばらく心の中を検索して答えを出そうとするが、なにも見つからない。式神の藍や橙を呼ぶが、気配すら感じられない。とりあえず私は立ち上がり、どこか誰かのいる所を目指そうと思う。
しばらく歩いていると、一人の少女らしき人影がやって来る。その人物は青と白を基調にした洋服を着ており、背中に透明な板ガラスのような羽が生えている。もちろん、私はこの子に見覚えがあるが、向こうは違うらしかった。
「あっ、お前誰だ」 礼儀もへったくれもない態度、本当に私を覚えていないのかしら。
「私は八雲紫、こう見えても幻想郷の賢者を務めさせていただいているのだけれど」
その少女は首を傾げ、困ったような顔を浮かべている。
「ええっ、お前みたいなちっこいのが?」
失敬な、と思ったが、確かに自分の視線がいつもより低い。私は背が縮んでしまっていた。
ということは何かで力を失うような事が私の身に起こったのか。それはいったい何?
「本当はこんな姿じゃないのだけど、今は力をなくしているみたい」
ためしに異次元へ通じるスキマを開いてみるが、何も起こらない。
「ちょっと変わったやつだな、ユカリ、だったっけ、あたいはチルノ、最強の氷の妖精だよー」
この子が氷精チルノであることは知っている。頭が足りないと思う事はあるが、それはこの子が幼いからで、実は相当伸びしろがあるのではないかと感じていた子だ。でも少し、彼女の醸し出す雰囲気が違うように感じられた。
ひょっとして、ここはいくつもあるいわゆる『平行世界』というやつか、あるいは、幻想郷に憧れる何者かが作った模造の世界、ある物語を一次創作とするならファンが作った二次創作の世界なのかもしれない。
だって私の愛する世界に比べて、ここはあまりにも『薄味』過ぎるのだ、幻想の成分が少なすぎる。ここは断じて元の幻想郷ではないと言える。何故なら幻想郷がこうなる事をこの私が許すはずがないからだ。
「何ぶつぶつ言ってるの?」
「ごめんなさい、考え事をしていたわ。実は私、どこかで眠っていて、気が付いたらここにいたの、チルノ、この世界に何が起きているか知っているだけ教えてくれないかしら」
元の幻想郷に帰るためにも、まずは情報収集だ、力があればこの子に頼らなくてもいいのに、でも仕方がない。
「もともと、幻想郷はもっと不思議な力とか、面白い奴とかがいっぱいいて、同じ生き物も妖怪も妖精も、木も水も空ももっとカラフルだったんだ。でも変な言い方だけど、なんていうのか、そいつらの色の濃さは変わらないのに色が薄くなったような気がする」
彼女の気持ちは痛いほどわかる。
「それでも、普通の人間とか動物とか木とか花とかは居るんだけど、あたいら幻想っぽい奴の数が少なくなっちゃって、たまに外の世界の風が吹いてきて、巻き込まれた幻想っぽい奴が消えてしまうんだ。紫、賢者なら何とかできないの」
さっき試した通り、境界操作の力はない、その『外界の風』とやらが吹いてきても身を守れるかどうか。
それにしても、この平行世界、パラレル幻想郷の私は、霊夢は何をしているのだろう。かりにも八雲と博麗なら何とかしなさいよ。
「ごめん、どうにもできないみたい」
「あっそ、なら仕方ないね、そんでユカリはこれからどうするの」
「マヨイガへの帰り方も忘れちゃったし、ほんと、私ってどうしようもないよね」
「どうもなくないよ、ユカリってさ、今は調子悪いだけで、本来すっごーい力とかありそうじゃない、そんであたいは最強、二人が組めば何があっても大丈夫だよ」
チルノは胸を張って言う。聞けば彼女の仲間もなかなか会えなくなっているらしい。もしかしたらその『外の世界の風』とやらに攫われたのかも知れない。
「じゃあ、この幻想郷がどうなっているのか知りたいから、時間があれば一緒に行ってくれるかしら」
「いいとも、あたいもこれから大ちゃん達、友達を探しに行くところだったんだ」
チルノは私の手を握り、少し早めに歩き出す。ちょっと早いよ、と抗議すると、しょうがないな、と言いながらもゆっくりした足取りにしてくれた。
(ちょっと……子、歩くの速すぎ)
(……リーはのろまだなあ)
はっきりした記憶はないのに、昔の幸せな時期を思い出したような気がして、足が止まり、鼻の奥がつんとなった。
「こんな幻想郷だけどさ、それでももうすぐ春が来るんだよ、ま、あたいはどの季節でもサイキョー……ってなに? どうしんたんだよユカリ」
「なんでもない」
「なにかあったらこのアタイにすぐいうんだよ」
「ありがとう、チルノ」
「友達だからな」
友達……か、悪い気はしなかった。それどころか、この私ともあろう者が妖精のこの子に勇気づけられている。元の世界に帰っても、この子に会いに行きたい。
何より、こうやって対等の雰囲気で誰かと一緒に歩くのがたまらなく懐かしい。
道端の梅の木につぼみが出ている、人間基準なら、まだここには豊かな自然が残っている。
「確かに、温かい風ね」
異世界で友達(って言っても良いよね)を得て、私は希望を探して歩いていく。
あっ、そういや飛ぼうと思ったら飛べなかった。
嘗て所有していた力は分散して各地に散らばり、力ある宝も散逸した終わった世界を
探索して探索してかき集めて戦うアレ……