永遠亭の診療所に、妖精の二人組が押しかけて来た。
「去勢してください!」
「はあ」
奇天烈な第一声を上げた下手人は大妖精だ。
隣に立ったチルノは両手で何かを優しく包みこんでいる。
「妖精って生殖器で増えるのね」
「違います私たちじゃないです。今度人に渡すペットで……ホタルの子なんですけど……ほら、チルノちゃん」
「うん」
大妖精が促すと、チルノは何かを包んでいた両手を永琳に差し出して開いてみせた。
「ペットとして飼うなら去勢するべきだって大ちゃんが」
「そんなに飼えないですから」
どれだけ狭い家に行のだろうか。
まあ、虫は増えると大変なのだろう。食害とか。
「去勢って……オスみたいだけど、この大きさの虫だとアレはポークビッツってレベルの小ささじゃないわよ。うちの設備だとちょっと……」
一寸の虫にも五分の魂とは言うが、大きいのは魂だけである。残念ながら、大事なタマは大きくなかった。
「じゃあどうすればいいのよ」
「虫なんて、相手がいなきゃ増えないんだから虫カゴにでも放っておきなさい」
私がそう言うと、チルノの肩がびくりと震えた。
「……どうしてそんなに冷たいことを言うの?あたいの掌に乗ってると、こんなにいい子なんだよ?もうあたいとコイツは心を通わせる友なんだ。それを虫カゴにだなんて……あたいはこいつを狭いところに閉じ込めたくなんてないよ……」
チルノは、手の上にいる彼を人差し指で撫でた。それだけ見れば、なるほど仲睦まじく見える。
チルノの手の冷たさで休眠状態に入っているだけなのだが。
本当に心を通わせてるのなら去勢なんてしないでやってほしいものであった。
大妖精も、チルノに負けじと声を張った。
「そうです!暫くの間は、チルノちゃんと二人で世話をしようって決めたんです。首輪も作って、毎朝散歩しようって話もしてて」
「それやったら、たぶん死ぬと思うけど」
首輪というのはどうするつもりだろうか。本当に頭と胴体の間に紐でもはめたら、引っ張った瞬間に断頭してしまいそうだ。
「そもそも、あなた達はどうして、この虫……彼にそこまでしてやろうと思うの?」
「……実は、リグルちゃんのためなんです」
「リグルって、あの虫妖怪の?」
大妖精はうなずいた。
「そうです。私たちはリグルちゃんと大親友で、よく遊ぶんですけど、実は一週間後がリグルちゃんと私達が出会った記念の日になるんです」
「……リグルの仲間をペットとしてプレゼントしたら喜ぶかなって思ったのよ」
語られる大妖精の言語を、チルノが補足する。
記念日のプレゼントにペットをというのは、動機としては、わかると言えばわかるだろうか。
しかし、その辺の動物を捕まえてきて去勢までするには軽すぎる理由にも思えた。
「なるほど、あなた達の気持ちはよくわかるわ。でもね、命と、その……タマはそうやって、軽く扱っていいものではないのよ」
第一、妖怪に対して同族のペットを渡すというのは、どうなんだろう。
私は首輪をされた人間とか渡されても困る。
「そうですか……」
「それにね、リグルはホタルの妖怪なんでしょう?例えばあなた達が瓶詰めの妖精をプレゼントされたら、どう思う?」
「おもちゃが増えて嬉しいです!」
即答された。
「妖精って思ったよりずっと倫理観がないのね」
二人は顔を見合わせた。
「りんりかんってなにさ」
「美味しいといいね」
妖精は死なない上、平気で人が死ぬようなイタズラをする。
「とにかく、私は去勢手術なんてしませんから」
私がそう答えると、二人は念を押すように詰め寄った。
「じゃあ、永琳さんでも無理ってことですか」
「天才なんじゃないの?」
少しカチンとくる言い方だった。
こう言われると、はっきり答えざるを得ない。
「はぁ……言っておきますけど、そもそも私は外科医でも昆虫博士でもないのよ。まあ本気を出せば虫の去勢薬を研究開発するくらい余裕なのだけど、残念ながらその子のために、そこまでしてやるつもりはないわ」
「そうですか……」
私に施術の意思がないことを告げると、妖精達は目に見えて落ち込んだ。
当然である。たとえ彼がホタルであっても、虫の生殖器をいじくり回すなんてぞっとしない。
私は何でも屋ではないのだ。
「あとね」
それに、彼女らは勘違いしている。
「その虫、ホタルじゃなくて、ゴ」
.
「去勢してください!」
「はあ」
奇天烈な第一声を上げた下手人は大妖精だ。
隣に立ったチルノは両手で何かを優しく包みこんでいる。
「妖精って生殖器で増えるのね」
「違います私たちじゃないです。今度人に渡すペットで……ホタルの子なんですけど……ほら、チルノちゃん」
「うん」
大妖精が促すと、チルノは何かを包んでいた両手を永琳に差し出して開いてみせた。
「ペットとして飼うなら去勢するべきだって大ちゃんが」
「そんなに飼えないですから」
どれだけ狭い家に行のだろうか。
まあ、虫は増えると大変なのだろう。食害とか。
「去勢って……オスみたいだけど、この大きさの虫だとアレはポークビッツってレベルの小ささじゃないわよ。うちの設備だとちょっと……」
一寸の虫にも五分の魂とは言うが、大きいのは魂だけである。残念ながら、大事なタマは大きくなかった。
「じゃあどうすればいいのよ」
「虫なんて、相手がいなきゃ増えないんだから虫カゴにでも放っておきなさい」
私がそう言うと、チルノの肩がびくりと震えた。
「……どうしてそんなに冷たいことを言うの?あたいの掌に乗ってると、こんなにいい子なんだよ?もうあたいとコイツは心を通わせる友なんだ。それを虫カゴにだなんて……あたいはこいつを狭いところに閉じ込めたくなんてないよ……」
チルノは、手の上にいる彼を人差し指で撫でた。それだけ見れば、なるほど仲睦まじく見える。
チルノの手の冷たさで休眠状態に入っているだけなのだが。
本当に心を通わせてるのなら去勢なんてしないでやってほしいものであった。
大妖精も、チルノに負けじと声を張った。
「そうです!暫くの間は、チルノちゃんと二人で世話をしようって決めたんです。首輪も作って、毎朝散歩しようって話もしてて」
「それやったら、たぶん死ぬと思うけど」
首輪というのはどうするつもりだろうか。本当に頭と胴体の間に紐でもはめたら、引っ張った瞬間に断頭してしまいそうだ。
「そもそも、あなた達はどうして、この虫……彼にそこまでしてやろうと思うの?」
「……実は、リグルちゃんのためなんです」
「リグルって、あの虫妖怪の?」
大妖精はうなずいた。
「そうです。私たちはリグルちゃんと大親友で、よく遊ぶんですけど、実は一週間後がリグルちゃんと私達が出会った記念の日になるんです」
「……リグルの仲間をペットとしてプレゼントしたら喜ぶかなって思ったのよ」
語られる大妖精の言語を、チルノが補足する。
記念日のプレゼントにペットをというのは、動機としては、わかると言えばわかるだろうか。
しかし、その辺の動物を捕まえてきて去勢までするには軽すぎる理由にも思えた。
「なるほど、あなた達の気持ちはよくわかるわ。でもね、命と、その……タマはそうやって、軽く扱っていいものではないのよ」
第一、妖怪に対して同族のペットを渡すというのは、どうなんだろう。
私は首輪をされた人間とか渡されても困る。
「そうですか……」
「それにね、リグルはホタルの妖怪なんでしょう?例えばあなた達が瓶詰めの妖精をプレゼントされたら、どう思う?」
「おもちゃが増えて嬉しいです!」
即答された。
「妖精って思ったよりずっと倫理観がないのね」
二人は顔を見合わせた。
「りんりかんってなにさ」
「美味しいといいね」
妖精は死なない上、平気で人が死ぬようなイタズラをする。
「とにかく、私は去勢手術なんてしませんから」
私がそう答えると、二人は念を押すように詰め寄った。
「じゃあ、永琳さんでも無理ってことですか」
「天才なんじゃないの?」
少しカチンとくる言い方だった。
こう言われると、はっきり答えざるを得ない。
「はぁ……言っておきますけど、そもそも私は外科医でも昆虫博士でもないのよ。まあ本気を出せば虫の去勢薬を研究開発するくらい余裕なのだけど、残念ながらその子のために、そこまでしてやるつもりはないわ」
「そうですか……」
私に施術の意思がないことを告げると、妖精達は目に見えて落ち込んだ。
当然である。たとえ彼がホタルであっても、虫の生殖器をいじくり回すなんてぞっとしない。
私は何でも屋ではないのだ。
「あとね」
それに、彼女らは勘違いしている。
「その虫、ホタルじゃなくて、ゴ」
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