「咲夜。今日はエイプリルフールだ」
レミリアの言葉に、咲夜はこくりと頷いてその続きを促した。
「しかし、ただただ嘘を吐くだけではセンスがない。そこでだ。次にこの部屋の前を通った者の言葉が嘘になるよう仕向けようと思う。どうだ?」
咲夜は再び首肯を返した。完璧で瀟洒なメイドに言葉などは不要である。
二人は部屋の扉に座って耳を澄ました。丁度向こうから足音が聞こえてくる。続いて聞こえてきた独り言は美鈴のものだった。
「いやー昨日もよく寝れました。今日も平和な一日になる予感がします!」
「……」
「……では、爆薬を準備してまいります」
思わず無言になったレミリアを置いて、咲夜はそう言い残すと姿を消した。残されたレミリアは溜息を吐いて眉間を抑える。
「……なんてこった。やはり神は屑だな」
その日、紅魔館は爆発した。
・ ・ ・
フランちゃんちに遊びに行こうと思ったら丁度目の前で爆発しました。
いや、流石にちょっと意味が分からないです。一体何が始まるんでしょう。第三次吸血鬼異変?
とりあえずつい先程までフランちゃんちだった瓦礫の山の、真ん中の辺りまで来てみたのですけど、ちょっとこれは一周回って笑えるぐらいには徹底的に粉々ですね。いや笑っちゃ駄目そうなんですけど。レミリアさんとかフランちゃんとか大丈夫かしら。
あ、また爆発。
「まさか本当に起こるとは思わなかったわ……」
「フランちゃん」
爆煙を抜けるとフランちゃんの部屋でした。正確にはフランちゃんの部屋に続く階段。そしてフランちゃんが珍しく階段の一番上に。
「珍しいね、フランちゃんが地上階に出てくるなんて」
「普段の避難訓練の賜物よ。地震が起きたら地下は危ないってお姉様に何度も言われたもの」
「地震?」
「ええ。遭うのなんて初めてだけど、音も振動も凄まじいのね。地上階なんか全滅してるし」
えーっと、はい。なるほど。
「フランちゃんごめん、これ地震じゃないよ」
「えっ」
「紅魔館がまるごと爆発したの」
「なにそれ」
「私も聞きたい」
私が間違いを指摘するとフランちゃんは困ったように首を捻って、直後に眉間を押さえるのです。
「……分かった。どうせあいつの仕業ね」
「あいつ?」
「お姉様。あれは一度やると言ったら必ずやる類の性格だもの。どうせうっかり口を滑らせたに違いないわ」
フランちゃんは吐き捨てるようにそんなことを言ったのですけど、それは流石に信じ難いです。いや、口滑らせただけで家爆破するって。なにその超理論。
「今の無しって言えばいいのに」
「あいつは臆病者だから、閻魔に舌を抜かれるのが怖いのよ。嘘。言葉を翻す奴だと思われたくないんですって。つまるところは莫迦なのよ」
「莫迦なら仕方ないね」
正直ちょっとよく分からないですけど、莫迦だからと言われてしまっては納得するしかないです。なんせうちには地上滅ぼそうとしかかった烏がいますから。
ところで。
「フランちゃん今太陽光いっぱい浴びてるけど大丈夫?」
「そろそろやせ我慢の限界だから部屋に戻りたい」
「戻ろう」
「戻ろう」
そういうことになりました。
・ ・ ・
そういうわけで私は部屋に戻ってぐったりとしていた。引きこもり吸血鬼には太陽光はちょっと辛すぎる。お姉様ですら常に日傘で防いでいるものを直に浴びるのは流石に莫迦としか言いようがない。そう考えるとお姉様と私とで莫迦姉妹か。泣ける。
「ああ……ちょっと回復してきたかも」
「だいじょーぶ?」
「私が死んだら遺灰を集めてダイヤモンドにして頂戴。持ち歩くのか部屋に飾るかはこいしに任せるわ」
「灰は炭素じゃないんだよねー」
「そこはほら、核融合とかいう便利ぱわーでなんとか」
「作れて珪素ぐらいだけど」
「仕方ないわね。水晶で妥協してあげる」
「謎の上から目線」
まあ、軽口を叩けるぐらいには回復しているのだ。私の部屋が無事に残っていて良かったと思うべきだろう。
……本当に? ふと疑問を脳内に浮かべる。
こいしの曰く、今回は紅魔館が爆発したらしい。ちょっと意味が分からないけど、まあお姉様ならやるだろう。
しかしそれなら、私の部屋が爆破されなかったのは何故なのか。
好意的に見れば私に気を使ったということになるけど、お姉様に限ってはそんな妥協はありえない。
とすれば、残るは概ね二択。お姉様にこの部屋を紅魔館の一部と認識されていないのか、或いはお姉様が忘れているか。どちらにしても、少し寂しい。
……いやそれは嘘だ。どう考えても爆破されない方がありがたいに決まってる。
溜息を吐きながら身体を起こす。全身の関節がばきばきと鳴る。肉体が再生している証拠だ。
我ながら莫迦々々しい思索に耽ってしまった、と思ったところで唐突に部屋の中にノイズ音が響く。
「あー、テステス。やあフラン、遅くなってすまないな。地上の様子はもう見たか?」
お姉様の声である。冷汗が私の首筋を伝った。非常に嫌な予感がする。
「私は本日、紅魔館を爆破することになった。さしあたってはつい先程パチェの図書館を爆破したところだ」
「どうしてそうなるのよ」
私は思わず言い返した。図書館を消し飛ばすのは、流石に家を壊すのとはわけが違う。お姉様が遂に正気を失ったのだろうか。狂気の妹の姉だから正気を失うことはありえないことではないけれど、こんなに唐突にか。
「文句は私の部屋の前で今日は平和な一日になりそうだなどと言った美鈴に言ってくれ。私とて本当はこんなことはやりたくないんだ。だが一度言ったことは決して翻してはならないからな」
これは駄目なやつだ。私は理解した。これは完全にスイッチが入ってしまってる。お手上げである。やはり神は屑。
「こいし、逃げるわよ」
私は言ったが返事がない。部屋をぐるりと見渡してみてもこいしの影も形もない。
まさか、こいし、冗談じゃない、私を置いて構わず逃げやがった!
「パチェの予想以上の抵抗に遭って遅れていたが、ここで最後だ。ではフラン、幸運を祈る」
どうやら私は唖然としているうちに逃げる契機を失ってしまったらしい。
爆音とともに降りかかってくる天蓋を見上げながら、不運を持ち込んできたやつが幸運を祈るとはこれ如何に、と私はぼんやり考えた。
レミリアの言葉に、咲夜はこくりと頷いてその続きを促した。
「しかし、ただただ嘘を吐くだけではセンスがない。そこでだ。次にこの部屋の前を通った者の言葉が嘘になるよう仕向けようと思う。どうだ?」
咲夜は再び首肯を返した。完璧で瀟洒なメイドに言葉などは不要である。
二人は部屋の扉に座って耳を澄ました。丁度向こうから足音が聞こえてくる。続いて聞こえてきた独り言は美鈴のものだった。
「いやー昨日もよく寝れました。今日も平和な一日になる予感がします!」
「……」
「……では、爆薬を準備してまいります」
思わず無言になったレミリアを置いて、咲夜はそう言い残すと姿を消した。残されたレミリアは溜息を吐いて眉間を抑える。
「……なんてこった。やはり神は屑だな」
その日、紅魔館は爆発した。
・ ・ ・
フランちゃんちに遊びに行こうと思ったら丁度目の前で爆発しました。
いや、流石にちょっと意味が分からないです。一体何が始まるんでしょう。第三次吸血鬼異変?
とりあえずつい先程までフランちゃんちだった瓦礫の山の、真ん中の辺りまで来てみたのですけど、ちょっとこれは一周回って笑えるぐらいには徹底的に粉々ですね。いや笑っちゃ駄目そうなんですけど。レミリアさんとかフランちゃんとか大丈夫かしら。
あ、また爆発。
「まさか本当に起こるとは思わなかったわ……」
「フランちゃん」
爆煙を抜けるとフランちゃんの部屋でした。正確にはフランちゃんの部屋に続く階段。そしてフランちゃんが珍しく階段の一番上に。
「珍しいね、フランちゃんが地上階に出てくるなんて」
「普段の避難訓練の賜物よ。地震が起きたら地下は危ないってお姉様に何度も言われたもの」
「地震?」
「ええ。遭うのなんて初めてだけど、音も振動も凄まじいのね。地上階なんか全滅してるし」
えーっと、はい。なるほど。
「フランちゃんごめん、これ地震じゃないよ」
「えっ」
「紅魔館がまるごと爆発したの」
「なにそれ」
「私も聞きたい」
私が間違いを指摘するとフランちゃんは困ったように首を捻って、直後に眉間を押さえるのです。
「……分かった。どうせあいつの仕業ね」
「あいつ?」
「お姉様。あれは一度やると言ったら必ずやる類の性格だもの。どうせうっかり口を滑らせたに違いないわ」
フランちゃんは吐き捨てるようにそんなことを言ったのですけど、それは流石に信じ難いです。いや、口滑らせただけで家爆破するって。なにその超理論。
「今の無しって言えばいいのに」
「あいつは臆病者だから、閻魔に舌を抜かれるのが怖いのよ。嘘。言葉を翻す奴だと思われたくないんですって。つまるところは莫迦なのよ」
「莫迦なら仕方ないね」
正直ちょっとよく分からないですけど、莫迦だからと言われてしまっては納得するしかないです。なんせうちには地上滅ぼそうとしかかった烏がいますから。
ところで。
「フランちゃん今太陽光いっぱい浴びてるけど大丈夫?」
「そろそろやせ我慢の限界だから部屋に戻りたい」
「戻ろう」
「戻ろう」
そういうことになりました。
・ ・ ・
そういうわけで私は部屋に戻ってぐったりとしていた。引きこもり吸血鬼には太陽光はちょっと辛すぎる。お姉様ですら常に日傘で防いでいるものを直に浴びるのは流石に莫迦としか言いようがない。そう考えるとお姉様と私とで莫迦姉妹か。泣ける。
「ああ……ちょっと回復してきたかも」
「だいじょーぶ?」
「私が死んだら遺灰を集めてダイヤモンドにして頂戴。持ち歩くのか部屋に飾るかはこいしに任せるわ」
「灰は炭素じゃないんだよねー」
「そこはほら、核融合とかいう便利ぱわーでなんとか」
「作れて珪素ぐらいだけど」
「仕方ないわね。水晶で妥協してあげる」
「謎の上から目線」
まあ、軽口を叩けるぐらいには回復しているのだ。私の部屋が無事に残っていて良かったと思うべきだろう。
……本当に? ふと疑問を脳内に浮かべる。
こいしの曰く、今回は紅魔館が爆発したらしい。ちょっと意味が分からないけど、まあお姉様ならやるだろう。
しかしそれなら、私の部屋が爆破されなかったのは何故なのか。
好意的に見れば私に気を使ったということになるけど、お姉様に限ってはそんな妥協はありえない。
とすれば、残るは概ね二択。お姉様にこの部屋を紅魔館の一部と認識されていないのか、或いはお姉様が忘れているか。どちらにしても、少し寂しい。
……いやそれは嘘だ。どう考えても爆破されない方がありがたいに決まってる。
溜息を吐きながら身体を起こす。全身の関節がばきばきと鳴る。肉体が再生している証拠だ。
我ながら莫迦々々しい思索に耽ってしまった、と思ったところで唐突に部屋の中にノイズ音が響く。
「あー、テステス。やあフラン、遅くなってすまないな。地上の様子はもう見たか?」
お姉様の声である。冷汗が私の首筋を伝った。非常に嫌な予感がする。
「私は本日、紅魔館を爆破することになった。さしあたってはつい先程パチェの図書館を爆破したところだ」
「どうしてそうなるのよ」
私は思わず言い返した。図書館を消し飛ばすのは、流石に家を壊すのとはわけが違う。お姉様が遂に正気を失ったのだろうか。狂気の妹の姉だから正気を失うことはありえないことではないけれど、こんなに唐突にか。
「文句は私の部屋の前で今日は平和な一日になりそうだなどと言った美鈴に言ってくれ。私とて本当はこんなことはやりたくないんだ。だが一度言ったことは決して翻してはならないからな」
これは駄目なやつだ。私は理解した。これは完全にスイッチが入ってしまってる。お手上げである。やはり神は屑。
「こいし、逃げるわよ」
私は言ったが返事がない。部屋をぐるりと見渡してみてもこいしの影も形もない。
まさか、こいし、冗談じゃない、私を置いて構わず逃げやがった!
「パチェの予想以上の抵抗に遭って遅れていたが、ここで最後だ。ではフラン、幸運を祈る」
どうやら私は唖然としているうちに逃げる契機を失ってしまったらしい。
爆音とともに降りかかってくる天蓋を見上げながら、不運を持ち込んできたやつが幸運を祈るとはこれ如何に、と私はぼんやり考えた。
一貫性は大事ですからね、ある意味お嬢様は正しいと思いますよ(正しいとは言って無い
爆発理由とか面白すぎますw
とても良かったです!
そしてノイズの三文字を消すと
紅魔館は消滅する