OqqIlcn - 親主・束片割楚誥

その姿から「流氷の天使/

2018/04/01 15:37:49
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 今日の夢のスタート地点は湖のほとりだった。たぶん。霧が深いのでよくわからなかったが、特有の空気がそう感じさせた。

「あれ、菫子じゃないか」

 声を掛けてきたのは魔理沙だった。

「わざわざここに来たって風でもなさそうだな」
「うん。気付いたらいたの」
「まあ、でも都合がいい。ちょっと手伝ってくれないか?」

 私は首を傾げた。

「湖に生物が大量発生していると聞いて来たんだが、霊夢がおかしくなってしまって、困ってるんだ」
「どんな生物?」
「ええっと、確か、捕食時にバッカル/」
「クリオネね」

 近づいてみると、確かに湖に赤い点がいくつも浮かんでいるのが見える。天使とか言われているけど、正直これは気持ち悪い。だが、今はそれよりも魔理沙の言葉が気になった。

「それで、霊夢の何がどうおかしいの?」
「とりあえず話しかけてみるとわかる。今は止まっているけど」
「止まっている?」

 霊夢は湖のすぐ傍に座ってじっとしていた。魔理沙の言う通り、止まっていた。目が半開きの状態で固定されていてとても奇妙だった。正直あまり女の子が(というか人間が)他人にお見せしてよい顔ではない。

 困って周囲を見回してみると、通りすがりの人がいた。

「あれっ、依姫じゃないか」と魔理沙が声を上げた。
「通りすがりに来ました」
「ちょうどいい」

 そう言って、魔理沙はまた事情を説明した。

「なるほど」
「何か分からないか?」
「もしかしたら、何かに憑依されているのかもしれません。私たち巫女は元々そういうものですから」
「じゃあ、お前もこの場所にいるとどうにかなるのか?」
「それはありませんね。鍛錬が違いますから」

 そういうわけで、依姫さんにも霊夢を見てもらうことにした。彼女は霊夢の顔を覗き込んで驚いた。

「あれ? 美兎ちゃんやん」
「あっ、楓ちゃん」

 突然、二人は友人を見つけた女子高生のように騒ぎ出した。あまりの変貌ぶりに今度は魔理沙が固まってしまったけど、私は二人の言葉を聞き逃さなかった。

「もしかして、月ノ美兎さんと樋口楓さんですか?」

 私は恐る恐る尋ねてみる。

「え、あ、はい……」と霊夢は答える。
「知っているのか菫子」

 魔理沙の問いに私は頷いて答えた。

「これはあれですね。いわゆるVtuberとかいうやつです」
「詳しく説明してもらえますか?」
「あれ、依姫はもう普通に話せるのか?」
「霊夢は完全に憑依されているようですが、私は今のところ共存できています。この状態を上手く利用して解決したいのですが……」

 私はこれこれこう、と説明した。

「はい」
「なるほど、Vtuberは巫女」

 Vtuberは巫女だった。詳しい解説は宿題にします。

「でも、いつまでもここにいるわけにもいかないな。取り敢えず霊夢は私の家で匿うよ。妖精とかが来ると面倒だし」

 そうして、私たちは歩いて森へ向かった。霊夢が飛ぶことを忘れてしまったからだ。

 だが、魔法の森の入り口まで来たところで、霊夢と依姫さんはぴたりと立ち止まってしまった。

「また止まった。回線が厳しいのかな。それとも森の瘴気のせい?」
「それにしては表情がおかしくないか。何か剣呑な空気を感じるぜ」

 確かに、二人は巨大な使命を帯びているように頑なな顔で森を見つめていた。

「何か重大なことが分かりそうな気がしてならないのです」と依姫は呟いた。すると、選択肢が現れた。

▶きる
 おす
 たたく
 はなす
 はしらせる
 しらべる
 かう
 だす
 おもいだす
 1/2 →



「選択肢ですね」
「今までに伏線とかあるんじゃ」
「クリオネくらいしか無かったような気がするけど……そういえば寝る前に、月ノ美兎さんがクリオネを食べた記事を読みましたね」
「それだ!」
「じゃあ、テレポートしてクリオネ獲ってきます!」
「任せた!」

 そして、クリオネを大量に瓶に詰めて私は帰ってきた。なかなか珍しい経験だったと思う。

「ほら、霊夢。クリオネだ」

「クリオネだ」と言いながらクリオネを食べさせる人間を初めて見た気がする。霊夢は口を開けてそれを飲み込んだ。

「どうだ? 何か思い出せたか?」
「うーん、ひどい味ですね。なんというか、コメントしづらいんですけど……ガソリンみたいな味というか……」
「ガソリン……? !」

 依姫さんが何かに気付いたように声を上げた。そして、彼女は決断した。

▶やく



「あっ」
「やめろ、そんなことをしてなんになる」

 私たちの制止も空しく、依姫さんが何かの詠唱を始める。

「これは小さく見えても愛宕様の火。すべてを焼き尽くす神の火なの。地上にはこれほど熱い火はほとんどない」

「へー」
「妹の方の詠唱は短いんだな」
「まあ、神様が多いので」

 そういうわけで、手遅れだった。

「森を燃やせー」と二人は叫び、突撃した。

 魔法の森が燃えていた。私は森が焼かれる様を初めて見た。圧倒的な光景だった。魔法使いが立ち尽くす様なんて珍しいなと思った。と思ったではないが……。ちょっと酸欠になりそう。


 私は目を覚ました。

「なんだ夢か……」

 自室はいつものように静かだった。良かった。燃え盛る森なんて無かったんだ。すべて夢の中の出来事で……って、夢?

 二度寝が嫌だなと思ったのはこれが初めてだった。
インターネットが速すぎて昨日のことすら幻想になってしまう昨今に向けた祈りです。

嘘です。
空音
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コメント



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1.70名前が無い程度の能力削除
インターネット時事ネタのライブ感があり良かった
2.100名前が無い程度の能力削除
この安易なコラボ感、最高に四月一日って感じだ!
4.80奇声を発する程度の能力削除
良いですね