恐慌焦燥話

供養

2017/04/01 21:42:34
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●無題

正直、本を読むのはしんどい。
毎日こもって本を読むのはしんどい。
図書館は暗い。
ジメジメしているし暗い。
明りはロウソクだけ。
気が滅入る。
なので。
外に出る。
決めた。
外に出る。

門を出た所でしんどくなってきた。
体力がなかった。
きつい。
頭が痛い。
休憩。
木陰を見つけて腰おろす。
眠い。
眠るる。
眠れない。
寒い。
木陰は陽が当らないから寒い。
魔法で燃やす。
木陰で燃やす。
木を燃やす。
門番に水をかけられた。
寒い。
より寒い。
帰ろう。
もう駄目だ。
帰ろう。
帰宅。

寂しい。
親友に会おう。
親友は吸血鬼だ。
寝てた。
親友は吸血鬼だ。
昼に寝て夜に起きる。
水をかけた。
親友は吸血鬼だ。
流水に弱い。
殴られた。
親友は吸血鬼だ。
力が強い。
痛い。
たんこぶができた。
涙が出る。
親友は吸血鬼だ。
乙女の涙に弱い。
頭を差しだす。
親友は吸血鬼だ。
こぶの血を吸って貰った。
こぶが癒えた。
最高の親友だ。

こぶが治って。
お腹が空いた。
食堂に行き、座る。
瞬間。
目の前には料理が並んでいた。
食べる。
食べる。
無言で食べる。
ぱくぱく食べる。
完食。
ごちそうさまでした。
手を合わせる。
瞬間。
目の前には。
もう。
何もなかった。
夢だったのだろうか。
お腹をさする。
いっぱい。
お腹いっぱい。
眠い。
眠るる。
眠れない。
お腹苦しくて寝れない。
食べ過ぎた。
食後の運動。
歩こう。

気付けば親友の部屋の前。
部屋に入る。
ベッドには親友。
親友は吸血鬼だ。
昼は寝て夜起きる。
だから寝てる。
潜り込む。
布団に潜り込む。
おや。
先客がいた。
親友の妹だ。
押す。
押しこむ。
更に押す。
落ちた。
起きた。
怒った。
怒られた。
謝った。
許された。
親友を挟み川の字になる。
ちなみに私は右側。
よし。
眠る。
無理。
眠れない。
暑い。
狭い。
苦しい。
吐きそう。
しんどい。
揺さぶり起した親友に言う。
狭い。
でてけ。
ベッドに残されるは私と親友の妹。
気まずい。
非常に気まずい。
私と親友は仲が良い。
親友だから。
でも親友の妹と私はそんなに親しくない。
親友じゃないから。
どうしたものか。
考えていたら妹さんは何処かへ行った。
残されたのは私が一人。
寂しい。
一人は寂しい。
床で寝ている親友を起こす。
起きてと起こす。
起きた。
無言の親友。
床から引っ張り起こしベッドへ。
そのまま手は繋いだままで。
一緒に寝ましょう?
やれやれと。
しょうがないねと。
優しく微笑んでほしい。
ビンタされた。
痛い。
しかし目が覚めた。
最高の親友だ。
ベッドから跳び起きる。
外へ出よう。
忘れていた。
外で何かしよう。
親友に手を振りつつ飛び出す。







●無題

 495年も生きているわけであるけれど。
 吸血鬼と、
 人間では、
 時間の感覚が違うことは、
 知っているかい。
 人間が生きる、495年と。
 吸血鬼が生きる、495年と、
 それは、やっぱり違うんだよ。
 と、言ってのけたい。
 実質、私的には、人間的に言うと、
 咲夜と同い年くらいなんだよ。
 と、言ってのけたい。
 言ってのけた。
 咲夜に、
 言ってのけたのだ。
 けれども、
 咲夜は、
『フランドールお嬢さまは、私(わたくし)的にはおばあさまですわ』
 と、私に、言ってのけたのだ。 
 私なんて、
『……まあ』
 なんて。
 言葉しかでないくらいに、
 ショックではあったけれども。
『ふふふ、フランドールおばあさま、うふふ』
 と、(ひとり)喜ぶ咲夜を眺めていると、
 まあ、おばあさまでもいいのかな、
 なんて。
 気持ちになるのもしようがないことだと思った。
『お姉さまは?』
『……お嬢さまは、あの……お、お母さま、です』
 おかしい。
 私は姉の妹なのに、
 おばあさまな妹の姉はお母さまなの、
 おかしい。
『おかしい』
『申し訳ございません、フランドールおばあさま……でも、
 もう、(わたくしのなかで)決まっていることなのですわ』
『おかしい』
 おかしい。
 私は姉より、若い自信はあるぞ。
 外見はそんなに、
 かわりはないけど。
 中身は結構、若いと思うぞ。
 うふふ、だぞ。
 



●無題

 やることがないときに、
 やることといえば、
 やることを考えることである。
 ことこと脳を、
 うならせてでてきた答えは。
 やることがないときに、
 やることを考えても、
 やることは見つからないという、
 そんな答えだった。
 暇である。
 暇。
 まわりを見わたしてみても、
 暇しかみつからず。
 暇しかなかった。
 暇である。
 暇はあるのだ。
 暇をつぶすための、
 暇はあるのだ。
 でも、
 暇だから暇はあるけど、
 暇をつぶすための暇はない。
 暇はなかったのだ。
 暇じゃない。
 私は暇じゃあ、なかったのだ。
 ひとつ、安心する。
 安心したところで、
 思った。
 暇である。
 
 ベッドの上で、ころころと、 
 ころがる。

 ベッドの下へ、ころころと、
 ころがる。
 
 ベッドの横に、ころころと、
 ころがる。
 
 ころがっていると、
 生を実感する。
 自分がなにかをなしているのだと、
 ころころころがっている、
 その時だけ、
 私という存在が世界に認められたような、
 そんな気分になれる。
 ころころ。
 ころり。
 でも、結局は。
 壁にぶつかって、
 そこで終わり。
 私の旅は、
 そこで終わり。
 このせまい部屋で、
 終わり。
 ……。
 がちゃり。
 扉がひらくおと。
『……あら、フランドールお嬢さま』
 咲夜。
『床で眠ると、ゴミと間違えてしまいます』
 ひどい。
 あっ。
 でも。
 扉がひらいた。
 ころころ。
 ころころ。
 でれた。
『フランドールお嬢さま、穴にはお気をつけて』
 見送る咲夜に羽をふって。
 私はころがった。
 ころころ、
 ころり。
 ここはどこ。
 私はフランドール。
 ここは穴。
 穴にはまった。
 ごめんね、
 咲夜。
 穴にはまったよ。
 穴はふかい。
 じめじめしてる、
 土の穴。
 落とし穴かもしれない。
 落ちつつ、
 落ちついて、
 考える。
 落ちている。
 穴の入り口はもう、
 ずっとむこうに見えて、
 ちいさいお月さま、
 穴の中は夜だった。
 しばらくすると、
 お月さまさえ、見えなくなって、
 あたりはまっくら。
 
 



 目の前には階段。
 地上へとつながる階段。
 たつべきなのだと思った。
 たったらのぼれる階段だと思った。
 でも、
 私は、
 たたなかった。
 ころがってのぼろうと、
 そう、思った。
『……フランドール?』
 パチュリー。
『……床で眠ると、ゴミになるわ』
 ひどい。
 あっ。
 でも。
 たしかに、
 廊下をころころ、
 ころがった私は、
 やっぱり、
 ちょっぴり、
 きたならしい。
 ひょゆい、と。
 パチュリーの魔法で浮かされた私の、
 まわりに、
 風がふいて。
 私の服は、
 きれいになった。
 きれいになった、
 私の服は、
 まるでネグリジェ。

 

『ん……フランドール?』
 お姉さま。
『床なんて、ゴミよ』
 ひどい。




●無題

 495年の鬱。
 495年もの間をも。
 ただただ姉のすねをかじって、
 いや、姉のすねの血を吸って、
 生きていたわけでもなく。
 フランドールにだって、
 やる気があるときは、
 あったりもした。
 ややあ、なにかしてみるぞ!
 なんて。
 思ったりもした。
 思ってみるも。
 思ったのだ。
 地下室四畳半の世界で。
 できることとはなんだろう。
 例えば、
 フランドールは4人になれる。
 4人いるなら、
 なにかはできる。
 なにかはできるが、
 なにができる?
 4人である。
 中途半端である。
 せめて、せめて。
 5人いたなら、
 きっと、
 ヒーローにだってなれたのに。
 1人足らない。
 足らないのであった。
 足らないのなら、
 足せばいいんじゃないかなあ、
 1人のフランドールがそう、
 呟いたとき、
 世界がぱあっと、
 光って輝いた。
 夜明けである。
 夜は明けたのだ。
 明けない夜はないのだ。
 吸血鬼的には、
 明けてほしくはないのだけれど、
 今は、明けてよいのだ。
 だから、夜は、明けたのである。
 そうだ、
 1人、増やせばよいだけの、
 そんなかんたんなお話で。
 フランドールは5人になった。
 さて。
 フランドールとて、
 ただただ、
 たんに。
 今まで、これまで。
 4人で生きてきたわけでもなく、
 4人で生きてきた。
 4人であることが。
 4人のほこりであった。
 5人目である。
 1人のフランドールは、
 2人のフランドールに、
 3人のフランドールは、
 4人のフランドールに、
 5人のフランドールだ。
 バトルロワイヤルが始まったのだ。
 今日、フランドールさんに、
 増えてもらったのは、
 殺しあいをしてもらうためだったのだ。
 フランドールはがく然とした。
 ああ、まさか。
 やる気をだして、
 みてみれば、
 始まったのは、
 バトルロワイヤル。
 地下室四畳半のたたかいは、
 今、まくを開けようとしていた。

 結局のところ、
 暇はつぶせたと言える。
 最終的に勝利をつかみとった、
 フランドールは、
 ひとり、思う。
 あの時に、
 あのフランドールの、
 あの涙がなければ、
 あの戦いの終止符はもっと悲惨なものになっていただろう。
 あのね。フランドール、ずっと、ずっと。言えなかったことがあるんだ。



●誕生日

『フランドール、お誕生日おめでとう』
 朝、起きたなら。
 お姉さまの声。
 お誕生日だから。
 おめでとうって、
 言ってくれた。
 うれしい。
 一万円もらった。
 うれしい。
 なにを買おうかな。
 一万円。
 一万円で買えるものを。
 お姉さまに聞く。
 ……。
 だいたいのものは買えるらしい。
 私が欲しいものを買ったらいいよって。
 お姉さまは言ったから。
 私は一万円でお姉さまを、
 買ったんだ。
 一万円で買ったお姉さまは、
 私はそんなに安い女じゃないのだけど、
 って。
 ちょっと変な顔をしていたけど。
 今回限りの特別出精値引きだからね、
 って。
 私に言ってくれた。
 お姉さまは普段は一万円以上の、
 値打ちがあるお姉さまだったんだ、
 って。
 ちょっと誇らしくて。
 私が笑ったら。
 お姉さまは、
 私が払った一万円を、
 返してくれたから。
 お姉さまは実質無料になった。
 手元には帰ってきた一万円。
 一万円。
 一万円で買えるものを。
 お姉さまに聞く。
 ……。
 だいたいのものは買えるらしい。
 私が欲しいものを買ったらいいよって。
 お姉さまは言ったから。
 私の欲しいものは、お姉さま、
 って。
 答えると。
 愛いやつ、と一言呟いて。
 ぎゅっとされて、
 一万円もらった。
 一万円。
 一万円、
 合わせると。
 二万円。
 二万円で買えるものを。
 お姉さまに聞く。
 ……。
 ほとんどのものは買えるらしい。
 私が欲しいものを買ったらいいよって。
 お姉さまは言ったから。
 私は二万円のお姉さまを買ったんだ。
 二万円のお姉さまは、すごい。
 普段のお姉さまは実質無料なのだから。
 もう。
 考えるのもいやになるくらい、
 すごいんだ。
 きっと、蝙蝠じゃなくてプテラノドンだし、
 血じゃなくて軽油だし、
 陽にあたっても、
 灰にはならずに、
 ハイになるくらいに、
 すごいんだよ、
 って。
 お姉さまにお話をしたら、
 頑張るって言ってくれた、
 お姉さまだって、
 頑張るんだから。
 私も、頑張る。
 ふたりで頑張ろっかって、
 ふたりで約束をした。

『フランドールお嬢さま、お誕生日おめでとうございます』
 お昼の後に。
 咲夜の声。
 お誕生日だから。
 おめでとうって、
 言ってくれた。
 うれしい。
 ケーキをもらった。
 うれしい。
 おいしい。
 だいすき。
 白くて、
 ふわふわしてて。
 紅くてすっぱいの。
 それは、ケーキ。
 でも、今日は。
 ケーキにいっぱい、
 棒がささってて。
 燃えていた。
 そうしたら、
 急に、
 お部屋がまっくらになって、
 ケーキだけが、ひとり、燃えていた。
 死んだケーキがおばけになったんだ。
 咲夜はなにか唱えていて。
 私がたたかうしか、ないから。
 ……でも。
 ケーキはなにも悪くないの。
 悪いのは、全部。
 お誕生日の私だから。
 なんだか、悲しくなって。
 私は泣いてしまった。
 わんわん泣いていたら。
 部屋は明るくなっていて。
 ケーキはもう燃えていなくて。
 咲夜はなにも唱えてなくて、
 心配そうな顔で私を見ていた。
 咲夜にお話をしたら、
 きっと、ケーキもフランドールお嬢さまに、
 食べてもらいたい筈ですよって、
 言った。
 ほんと?
 本当です。
 ほんとう?
 本当です。
 ほんとに、ほんと?
 本当ですとも。
 咲夜がケーキをかざして、
 右手をぱちんとならしたら。
 ケーキと咲夜が、
『私をたべて』
 って、
 言った。
 ケーキと咲夜はお話できる。
 ケーキと咲夜と向きあうと。
 ケーキと咲夜は照れた。
 ケーキと咲夜は、可愛い。
 私はしばらく、ケーキは食べないと決めた。

『フランドール嬢様、お誕生日おめでとうございます』
 日がかたむいて。
 美鈴の声。
 お誕生日だから。
 おめでとうって、
 言ってくれた。
 うれしい。
 皿いっぱいの血をもらった。
 うれしい。
 おいしい。
 だいすき。
 美鈴の血。
 まっかっかで、
 さらさらの。
 もう、いっぱい。
 
 
 もう、
 おなか、いっぱい。
 
 

『私、お誕生日おめでとう』
 夜、寝るまえに。
 私の声。
 今日は、
 お誕生日だから。
 おめでとうって、
 言うの。
 うれしい。
 でもね。
 昨日の、
 みんなの、
『おめでとう』も、
 嬉しかったんだよ。
 ……ほんとうだよ?
 
          
 
『フランドール、お誕生日おめでとう』
 目をこすったら。
 みんなの声。
 お誕生日だから。
 おめでとうって、
 言ってくれた。
 うれしい。
arca
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コメント



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1.2890奇声を発する程度の能力削除
良かった
2.2890智弘削除
arcaさん特有の空気よりも軽いタッチ、とても好き。
三つ目の無題の『まるでネグリジェ』のところと、誕生日が特にすてき。
3.2890一本の蝋燭削除
最高に拝ってやつだアアア
6.2890一本の蝋燭削除
やった!arcaさんだ!
この独特のノリと文章がたまらなく好きです