※このSSは、創想話に容量が450kbある長編の『サイダー色した夏の雲』を投稿した後、ある人から「長編読む気力ないです。上限は12kbでお願いします」と言われたので、喜々として泣く泣く二時間かけてアレンジした後、あまりの内容の雑さに封印していたものです。公開する日が来るとは思いませんでした。あと幻覚かもしれませんが、さっきその人のおならSSを読んだ気がしました。
※オリキャラ、オリ設定が脈絡もなく出てきます。ご注意願います。
※とてつもなく酷いです。心の準備をお願いいたします。元SS読んでない人は読まないことを推奨します。激しく。
※元SSを読んだ人も読まないことを推奨します。激しく。あと当然のことながら、PNS世界観と本作は無関係です。
「小樹。じいちゃんの話聞きたいか」
「いらない」
~ サイダー色してない夏の雲 ~
人間の里の近くの雑木林。
そこで、木登りの練習をしていた一人の少年がいた。
名を神田嘘太(かんだうそた)という。
「よし……もう少し……ああっ!」
頑張ってよじ登っていた嘘太は、幹の途中で木肌から手を滑らせ、地面に落っこちてしまった。
どすん。
するとその尻餅の音を聞きつけて、狐目の少年達がぞろぞろとやってきた。
「やぁやぁなんだてめぇは」
「あれ!? 君達は誰!?」
「俺たちはカカシブラザーズ」
「俺はカカシ初号機」
「俺はカカシ・リローテッド」
「俺はカカシ・ザ・サード」
「俺はカカシ四代目」
「ここは南里の野郎の縄張りらしいが」
「北里の俺たちが」
「奪ってやろうってことさ」
「そこにお前がいたわけだ。見つかったからには生かしておくわけにはいかない」
「いかない」
カカシブラザーズが一斉に襲いかかってくる!
嘘太は慌てて逃げ出した!
「うわー! 助けてー!」
しかしあまりに動転していたせいか、里の方ではなく、妖怪の山の麓の方へと急いでしまった。
鬱蒼とした木々が続く中、闇雲に走り続けていると、いきなり足場がなくなった。
嘘太は悲鳴をあげた。
「ぎゃー!」
「よっと」
投げ出された体が、急に何かに受け止められた。
目を開けて確かめてみると、なんと巨大な蜘蛛の巣であった。どひゃあ。
そして巣の上には人間の少女の姿をした、妖怪らしき存在が立っているではないか。どひゃあどひゃあ。
「き、君は一体誰?」
「私は妖怪、土蜘蛛の黒谷ヤマメさ。ちなみに病気を操る程度の能力の持ち主よ」
「僕は神田嘘太。ちなみに木登りできない程度の能力です。なんで僕を助けてくれたんだ」
「助けたわけじゃない。私が昼寝してたところに、あんたが落っこちてきたのさ」
「ひょっとして僕を食べる気か」
「それもいいね。ん? あんたもしかして」
とヤマメは掌を嘘太に差し出す。
そこには毒々しい色の大きな蜘蛛が一匹。
「こいつに見覚えある?」
「あ、それ昨日僕が助けた蜘蛛に似てるかも」
「やっぱりそうか。恩人とあっては仕方ない。お礼に何か願いを適えてあげよう」
「じゃあ木登りできるようになりたい!」
「いいとも。それじゃあ、ついておいで」
ヤマメに案内されて、嘘太は森の奥へとたどりついた。
開けた原っぱの中央に、物凄くでっかい樹が一本立っていた。
「わー! すげー! この樹で練習するの!?」
「そうよ。こっちに来て」
ヤマメは樹の根元の所まで小走りに移動し、嘘太を手招きした。
「よし。しっかり体を樹につけるんだ」
「はい」
嘘太は言われた通りに、幹に張り付く。
「グッドラック」
「え!? それだけ!?」
「ちなみに今あんたは『この樹に三分以内で登らないと爆発して死んでしまう病』にかかった」
「ちょっ! この世のどこにそんな都合のいい病気が!!」
「私は病気を操るのが得意でね。ほら! さっさとお登り! さもないと妖怪の腕力で下からカンチョーするよ!」
「ぎゃー!!」
嘘太は下から尻を脅かされながら、二分五十八秒で大木を登り切った。
人間死ぬ気になればなんでもできるのだ。妖怪ヤマメに、大切なことを教わった気がする。
「わー、とてもいい景色」
「おや。その腰に結わえつけているのはなんだい?」
「これはサイダー。いる?」
「いるいる」
ヤマメはサイダーを飲んで「この飲料を作ったのは誰だぁ!!」と特殊な喜び方をしていた。
「なんだかヤマメとは仲良くなれそうな気がする」
「私も嘘太がだんだん気に入ってきたところさ」
二人は「明日も遊ぼう、サイダーを飲み交わそう」と指切りげんまんした。
嘘太は一分四十秒で樹を下りて、家に帰った。
しかしなぜか人間の里は騒がしかった。
「大変だぁ! 大変だ!」
「大変なんだよ嘘太!」
「どうしたの銀平、四吉」
「疫病だ!」
「疫病!?」
「そうだ! 子供が次々に倒れやがったんだ!」
「まさか……」
嘘太は急いで雑木林に戻り、ヤマメの所に向かった。
「ヤマメ!」
「あら嘘太。忘れ物?」
「里で疫病が流行ったんだ! あれはお前の仕業だな!」
嘘太が指をつきつけて追求すると、ヤマメはくっくっく、と低い声で笑う。
「バレちゃしょうがない。ずいぶんと気付くのに時間がかかったね」
「いや本当にすぐ気付いたんだけど」
「こほん……それでどうする? 私を退治するかい?」
「もちろん! ダイナマイトキーック!!」
嘘太は人間界で一番強い技をヤマメに放った。
だが、彼女が腕で払っただけで、十メートル以上も吹っ飛ばされてしまった。
「くっ……強い……」
「当たり前さ。子供が妖怪に勝てるわけないだろう」
「でも僕を倒しても、第二第三のカカシが……」
「なにそれこわい……」
ヤマメは謎の伏兵の存在にたじろぐ。
なんでカカシが来るんだ。そこは自分じゃないのか。
「とっ、とにかく! 僕はヤマメを退治して、里を疫病から救ってやるんだ!」
「例え私を倒したって、疫病はなくならないよ」
「えっ……!?」
「炬燵の中でおならをした奴を責めたって、異臭がなくなるわけじゃないだろう。それと同じさ」
ものすごい説得力だった。
嘘太は膝を屈し、地面に両拳を当てて悔しがった。
「そうか……窓を開けなきゃ……空気を入れ替えなきゃだめなんだ」
「そうだね。窓が何かは知らないけど、助ける方法が一つだけある」
「え!?」
「病気を治す魔法の薬があるのよ。ただしそれは地上にはない、地底にある」
地底。
それはこの幻想郷の遥か下に存在すると言われている、忌み嫌われた妖怪達の棲む世界。
普通の妖怪であっても危険な場所であり、人間の、ましてや子供であれば尚のことであった。
「来るかい? それとも恐いかい?」
「ううん、恐くない。僕いつか地底にもぐって、覚り妖怪にエロい妄想読んでもらって赤面するとこ見てみたいって思ってたし」
「ダメダメ。最近そういう手合いが増えたんで、地霊殿は女性同伴じゃないと入れないようになったんだから。もはやプリクラブース状態よ」
「くっ、僕がもっと早く生まれてたなら……」
嘘太は地面を叩いて悔しがった。
「それはともかく、来るのか来ないのか、どっちなのさ」
「もちろん行くよ。いざ地底へ!」
○○○
それから嘘太は、ヤマメの案内で地底に潜ることとなった。
里の外れにあるエレベーターで地下三百階まで下り、足場の悪い洞穴を進む。
「ヤマメ。まだなのー?」
「黙ってついてきなさい。さもないとあーなるよ」
土蜘蛛は無造作に、横穴を指さす。
嘘太が覗き込んでみると……、
「うわぁ!?」
なんとそこには、大量の骸骨が放置されていた。
「こ、これ人間の骨?」
「そうさ。のこのこと地底にやってきた人間達が、みんな食われてこうなったのさ」
「……あれ、でもこの骨、メイドインチャイナって書いてるよ」
「あーもう。最近の子供はどうしてアトラクションのムードをぶちこわす方向に走るんだろうね。これも時代なのかしら」
「ねぇねぇヤマメ。これ似合う?」
「はいはい似合う似合う」
ドクロをかぶってポーズを取る嘘太に、ヤマメは面倒くさげに手を振って答えてきた。
「ほら、そろそろ着くよ。なんでも治療する魔法の薬が手に入る場所だ」
「その薬ってどんなの? 苦いの? 色は? 錠剤? カプセル? ドリンク剤?」
「実物を見ればわかる。そいつはある占い師が持っているんだ。あの橋の側にある家さ」
やがて嘘太の目にも、目的地らしき建物がうっすらと見えてきた。
石でできた橋の側に立つ、おんぼろ……と呼ぶにはケバケバしい建物。
蝋燭型のランプがぬらぬらとした光を帯びていて、怪しさ爆発の雰囲気を造っている。
表の看板には、『ネタマシパルスィ・占いの館』と書かれていた。
「パパパパァアアアルスィィィィィ……」
二人を謎の呪文で出迎えたのは、尖った耳を持つ金髪の女性だった。
まりもっこりと同じ色合いの双眸が、嘘太の方を強く見つめる。
「あら……あなた、何か友人に不幸なことが起こってそうな顔してるわね」
「そ、そうです!」
「友人がいるなんて妬ましい!」
突然地団駄を踏んで悔しがる占い師。さらに水晶玉をかち割る勢いで、ヘッドバンギング。
唖然とする嘘太を前に、彼女は何事もなかったのように椅子に座り直し、
「それでそいつらは今、病気で苦しんでるんじゃないの?」
「えー!? それも当たってます! どうしてわかるんですか!」
「それがわからないと商売にならないからよ。安心しなさい。ここにどんな病気をも直す秘薬があるから」
その女性は小さなガラス瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
側面にラッパのマークが描かれている。
「一錠千円と言いたいところだけど、おおまけにまけて998円でどうかしら」
「ええ!? そんなにお金持ってきてないよ!」
「じゃあいくらあるの。あるだけ出しなさい」
「ええっと、あ、アイスの当たり棒があった」
「……(ちょっとヤマメ! どういうことなのよ! 金持ってるやつ連れてこないと意味ないでしょ!)」
「(まぁまぁなんだか可哀想だったからさ。ここは私の顔を立てて、ちょいと分けてあげてよ)」
「(その猫なで声で、今まで何度あんたの顔を立てたと思ってんのよ! そろそろヤマメ顔でテトリスができる勢いだわ! このお人好し!)
「(お人好しはあんただって同じでしょうに。ほら、怪しんでるし、いいからさっさと出してあげて。あとで一杯おごるから)」
何やら内緒話が終わって、嘘太は無事彼女から秘薬を手に入れることができた。
「ありがとうヤマメ。この薬があれば、みんな助かるんだね」
「ふふん。けど、ただで地上に戻れると思うのかい? ……って逃げるの早っ!?」
嘘太はヤマメの口上を聞く前に、大急ぎでもと来た道を走って引き返していた。
秘薬の小瓶を片手に、必死に走ること約三分。
エレベーターにたどり着いた嘘太は、「はやくはやくはやく!」と無茶苦茶に備え付けのボタンを連打し始めた。
やがて、遠くにヤマメの姿が見えたところで、やっとエレベーターが下りてくる。
扉が開き、大きな桶に入った、緑のツインテールのエレベーターガールがお辞儀する。
「本日はご利用いただき、まことにありがとうございます。当エレベーターは……」
「挨拶はいいから、早く乗せて!」
嘘太は桶に飛び込み、すぐに地上階のボタンを押した。
そして、間に合いそうにない土蜘蛛の方に向かって、大声で囃したてる。
「やーいやーい、ここまでおいでー。大正アイドルー」
そして扉は閉じ、桶エレベーターは動き出した。
下に。
「…………あれ? どうして地上に行かないの?」
「このエレベーターは下りでしたので。お客様は上に行かれるつもりでしたか? 間違ってボタンを押されてはいませんでした?」
「ど、どうしてそれを早く言ってくれなかったんだ!」
「ご説明させていただく前に、お客様が乗り込んできてしまわれたので……」
やがて、エレベーターは地下四百階の灼熱地獄跡に着いたものの、当然嘘太は下りることなく、改めて地上を目指した。
これで里まで帰れれば一安心だ。
「ふー……一時はどうなるかと思ったけど……」
チーン、と音がして、桶エレベーターが途中の階で止まった。
扉が開くとそこには、にっこり笑って青筋を立てている妖怪が立っていた。
「で、誰が大正アイドルだって?」
「調子こいてマジすみませんでした」
嘘太は土下座して許しを請うた。
六十年後
「小樹。じいちゃんの話、聞きたいだろう」
「いらない。あっちでコーラ飲んでくる」
(合計11kbで、こんぷりーと)
※オリキャラ、オリ設定が脈絡もなく出てきます。ご注意願います。
※とてつもなく酷いです。心の準備をお願いいたします。元SS読んでない人は読まないことを推奨します。激しく。
※元SSを読んだ人も読まないことを推奨します。激しく。あと当然のことながら、PNS世界観と本作は無関係です。
「小樹。じいちゃんの話聞きたいか」
「いらない」
~ サイダー色してない夏の雲 ~
人間の里の近くの雑木林。
そこで、木登りの練習をしていた一人の少年がいた。
名を神田嘘太(かんだうそた)という。
「よし……もう少し……ああっ!」
頑張ってよじ登っていた嘘太は、幹の途中で木肌から手を滑らせ、地面に落っこちてしまった。
どすん。
するとその尻餅の音を聞きつけて、狐目の少年達がぞろぞろとやってきた。
「やぁやぁなんだてめぇは」
「あれ!? 君達は誰!?」
「俺たちはカカシブラザーズ」
「俺はカカシ初号機」
「俺はカカシ・リローテッド」
「俺はカカシ・ザ・サード」
「俺はカカシ四代目」
「ここは南里の野郎の縄張りらしいが」
「北里の俺たちが」
「奪ってやろうってことさ」
「そこにお前がいたわけだ。見つかったからには生かしておくわけにはいかない」
「いかない」
カカシブラザーズが一斉に襲いかかってくる!
嘘太は慌てて逃げ出した!
「うわー! 助けてー!」
しかしあまりに動転していたせいか、里の方ではなく、妖怪の山の麓の方へと急いでしまった。
鬱蒼とした木々が続く中、闇雲に走り続けていると、いきなり足場がなくなった。
嘘太は悲鳴をあげた。
「ぎゃー!」
「よっと」
投げ出された体が、急に何かに受け止められた。
目を開けて確かめてみると、なんと巨大な蜘蛛の巣であった。どひゃあ。
そして巣の上には人間の少女の姿をした、妖怪らしき存在が立っているではないか。どひゃあどひゃあ。
「き、君は一体誰?」
「私は妖怪、土蜘蛛の黒谷ヤマメさ。ちなみに病気を操る程度の能力の持ち主よ」
「僕は神田嘘太。ちなみに木登りできない程度の能力です。なんで僕を助けてくれたんだ」
「助けたわけじゃない。私が昼寝してたところに、あんたが落っこちてきたのさ」
「ひょっとして僕を食べる気か」
「それもいいね。ん? あんたもしかして」
とヤマメは掌を嘘太に差し出す。
そこには毒々しい色の大きな蜘蛛が一匹。
「こいつに見覚えある?」
「あ、それ昨日僕が助けた蜘蛛に似てるかも」
「やっぱりそうか。恩人とあっては仕方ない。お礼に何か願いを適えてあげよう」
「じゃあ木登りできるようになりたい!」
「いいとも。それじゃあ、ついておいで」
ヤマメに案内されて、嘘太は森の奥へとたどりついた。
開けた原っぱの中央に、物凄くでっかい樹が一本立っていた。
「わー! すげー! この樹で練習するの!?」
「そうよ。こっちに来て」
ヤマメは樹の根元の所まで小走りに移動し、嘘太を手招きした。
「よし。しっかり体を樹につけるんだ」
「はい」
嘘太は言われた通りに、幹に張り付く。
「グッドラック」
「え!? それだけ!?」
「ちなみに今あんたは『この樹に三分以内で登らないと爆発して死んでしまう病』にかかった」
「ちょっ! この世のどこにそんな都合のいい病気が!!」
「私は病気を操るのが得意でね。ほら! さっさとお登り! さもないと妖怪の腕力で下からカンチョーするよ!」
「ぎゃー!!」
嘘太は下から尻を脅かされながら、二分五十八秒で大木を登り切った。
人間死ぬ気になればなんでもできるのだ。妖怪ヤマメに、大切なことを教わった気がする。
「わー、とてもいい景色」
「おや。その腰に結わえつけているのはなんだい?」
「これはサイダー。いる?」
「いるいる」
ヤマメはサイダーを飲んで「この飲料を作ったのは誰だぁ!!」と特殊な喜び方をしていた。
「なんだかヤマメとは仲良くなれそうな気がする」
「私も嘘太がだんだん気に入ってきたところさ」
二人は「明日も遊ぼう、サイダーを飲み交わそう」と指切りげんまんした。
嘘太は一分四十秒で樹を下りて、家に帰った。
しかしなぜか人間の里は騒がしかった。
「大変だぁ! 大変だ!」
「大変なんだよ嘘太!」
「どうしたの銀平、四吉」
「疫病だ!」
「疫病!?」
「そうだ! 子供が次々に倒れやがったんだ!」
「まさか……」
嘘太は急いで雑木林に戻り、ヤマメの所に向かった。
「ヤマメ!」
「あら嘘太。忘れ物?」
「里で疫病が流行ったんだ! あれはお前の仕業だな!」
嘘太が指をつきつけて追求すると、ヤマメはくっくっく、と低い声で笑う。
「バレちゃしょうがない。ずいぶんと気付くのに時間がかかったね」
「いや本当にすぐ気付いたんだけど」
「こほん……それでどうする? 私を退治するかい?」
「もちろん! ダイナマイトキーック!!」
嘘太は人間界で一番強い技をヤマメに放った。
だが、彼女が腕で払っただけで、十メートル以上も吹っ飛ばされてしまった。
「くっ……強い……」
「当たり前さ。子供が妖怪に勝てるわけないだろう」
「でも僕を倒しても、第二第三のカカシが……」
「なにそれこわい……」
ヤマメは謎の伏兵の存在にたじろぐ。
なんでカカシが来るんだ。そこは自分じゃないのか。
「とっ、とにかく! 僕はヤマメを退治して、里を疫病から救ってやるんだ!」
「例え私を倒したって、疫病はなくならないよ」
「えっ……!?」
「炬燵の中でおならをした奴を責めたって、異臭がなくなるわけじゃないだろう。それと同じさ」
ものすごい説得力だった。
嘘太は膝を屈し、地面に両拳を当てて悔しがった。
「そうか……窓を開けなきゃ……空気を入れ替えなきゃだめなんだ」
「そうだね。窓が何かは知らないけど、助ける方法が一つだけある」
「え!?」
「病気を治す魔法の薬があるのよ。ただしそれは地上にはない、地底にある」
地底。
それはこの幻想郷の遥か下に存在すると言われている、忌み嫌われた妖怪達の棲む世界。
普通の妖怪であっても危険な場所であり、人間の、ましてや子供であれば尚のことであった。
「来るかい? それとも恐いかい?」
「ううん、恐くない。僕いつか地底にもぐって、覚り妖怪にエロい妄想読んでもらって赤面するとこ見てみたいって思ってたし」
「ダメダメ。最近そういう手合いが増えたんで、地霊殿は女性同伴じゃないと入れないようになったんだから。もはやプリクラブース状態よ」
「くっ、僕がもっと早く生まれてたなら……」
嘘太は地面を叩いて悔しがった。
「それはともかく、来るのか来ないのか、どっちなのさ」
「もちろん行くよ。いざ地底へ!」
○○○
それから嘘太は、ヤマメの案内で地底に潜ることとなった。
里の外れにあるエレベーターで地下三百階まで下り、足場の悪い洞穴を進む。
「ヤマメ。まだなのー?」
「黙ってついてきなさい。さもないとあーなるよ」
土蜘蛛は無造作に、横穴を指さす。
嘘太が覗き込んでみると……、
「うわぁ!?」
なんとそこには、大量の骸骨が放置されていた。
「こ、これ人間の骨?」
「そうさ。のこのこと地底にやってきた人間達が、みんな食われてこうなったのさ」
「……あれ、でもこの骨、メイドインチャイナって書いてるよ」
「あーもう。最近の子供はどうしてアトラクションのムードをぶちこわす方向に走るんだろうね。これも時代なのかしら」
「ねぇねぇヤマメ。これ似合う?」
「はいはい似合う似合う」
ドクロをかぶってポーズを取る嘘太に、ヤマメは面倒くさげに手を振って答えてきた。
「ほら、そろそろ着くよ。なんでも治療する魔法の薬が手に入る場所だ」
「その薬ってどんなの? 苦いの? 色は? 錠剤? カプセル? ドリンク剤?」
「実物を見ればわかる。そいつはある占い師が持っているんだ。あの橋の側にある家さ」
やがて嘘太の目にも、目的地らしき建物がうっすらと見えてきた。
石でできた橋の側に立つ、おんぼろ……と呼ぶにはケバケバしい建物。
蝋燭型のランプがぬらぬらとした光を帯びていて、怪しさ爆発の雰囲気を造っている。
表の看板には、『ネタマシパルスィ・占いの館』と書かれていた。
「パパパパァアアアルスィィィィィ……」
二人を謎の呪文で出迎えたのは、尖った耳を持つ金髪の女性だった。
まりもっこりと同じ色合いの双眸が、嘘太の方を強く見つめる。
「あら……あなた、何か友人に不幸なことが起こってそうな顔してるわね」
「そ、そうです!」
「友人がいるなんて妬ましい!」
突然地団駄を踏んで悔しがる占い師。さらに水晶玉をかち割る勢いで、ヘッドバンギング。
唖然とする嘘太を前に、彼女は何事もなかったのように椅子に座り直し、
「それでそいつらは今、病気で苦しんでるんじゃないの?」
「えー!? それも当たってます! どうしてわかるんですか!」
「それがわからないと商売にならないからよ。安心しなさい。ここにどんな病気をも直す秘薬があるから」
その女性は小さなガラス瓶を取り出して、テーブルの上に置いた。
側面にラッパのマークが描かれている。
「一錠千円と言いたいところだけど、おおまけにまけて998円でどうかしら」
「ええ!? そんなにお金持ってきてないよ!」
「じゃあいくらあるの。あるだけ出しなさい」
「ええっと、あ、アイスの当たり棒があった」
「……(ちょっとヤマメ! どういうことなのよ! 金持ってるやつ連れてこないと意味ないでしょ!)」
「(まぁまぁなんだか可哀想だったからさ。ここは私の顔を立てて、ちょいと分けてあげてよ)」
「(その猫なで声で、今まで何度あんたの顔を立てたと思ってんのよ! そろそろヤマメ顔でテトリスができる勢いだわ! このお人好し!)
「(お人好しはあんただって同じでしょうに。ほら、怪しんでるし、いいからさっさと出してあげて。あとで一杯おごるから)」
何やら内緒話が終わって、嘘太は無事彼女から秘薬を手に入れることができた。
「ありがとうヤマメ。この薬があれば、みんな助かるんだね」
「ふふん。けど、ただで地上に戻れると思うのかい? ……って逃げるの早っ!?」
嘘太はヤマメの口上を聞く前に、大急ぎでもと来た道を走って引き返していた。
秘薬の小瓶を片手に、必死に走ること約三分。
エレベーターにたどり着いた嘘太は、「はやくはやくはやく!」と無茶苦茶に備え付けのボタンを連打し始めた。
やがて、遠くにヤマメの姿が見えたところで、やっとエレベーターが下りてくる。
扉が開き、大きな桶に入った、緑のツインテールのエレベーターガールがお辞儀する。
「本日はご利用いただき、まことにありがとうございます。当エレベーターは……」
「挨拶はいいから、早く乗せて!」
嘘太は桶に飛び込み、すぐに地上階のボタンを押した。
そして、間に合いそうにない土蜘蛛の方に向かって、大声で囃したてる。
「やーいやーい、ここまでおいでー。大正アイドルー」
そして扉は閉じ、桶エレベーターは動き出した。
下に。
「…………あれ? どうして地上に行かないの?」
「このエレベーターは下りでしたので。お客様は上に行かれるつもりでしたか? 間違ってボタンを押されてはいませんでした?」
「ど、どうしてそれを早く言ってくれなかったんだ!」
「ご説明させていただく前に、お客様が乗り込んできてしまわれたので……」
やがて、エレベーターは地下四百階の灼熱地獄跡に着いたものの、当然嘘太は下りることなく、改めて地上を目指した。
これで里まで帰れれば一安心だ。
「ふー……一時はどうなるかと思ったけど……」
チーン、と音がして、桶エレベーターが途中の階で止まった。
扉が開くとそこには、にっこり笑って青筋を立てている妖怪が立っていた。
「で、誰が大正アイドルだって?」
「調子こいてマジすみませんでした」
嘘太は土下座して許しを請うた。
六十年後
「小樹。じいちゃんの話、聞きたいだろう」
「いらない。あっちでコーラ飲んでくる」
(合計11kbで、こんぷりーと)
何が言いたいかといいますと,メイドインチャイナと書かれた骨も同じように美しいのだろうかということです。
あと,容量は必要ですね。エイプリル・フール的に言えば。
モナリザに油性ペンで落書きしてるやつを見かけて、慌てて止めようとしたら落書きしてるのがダヴィンチだった、みたいな気分だ。
容量って大事ということが痛いほど伝わりました
泣けるお話でした!
よーく分かりました。
急遽襲来した三ツ矢サイダーがここまで感動的なエンディングになるとは思ってもいませんでした
炭酸の泡が弾ける様と、同人界隈の流行り廃りを重ねあわせるという斬新な手法は眼から鱗でした
容量の大切さがよくわかるお話でした。ちゃんちゃん。