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この先生きのこる

2015/04/01 23:11:30
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 人間の里に朝が来た。
 天気は晴天、実に清々しい朝である。
 路地裏からは雀の囀り、豆腐屋の庭先からは鶏の鳴き声、上白沢さん家からは慧音の黄色い悲鳴が聞こえてくる。
 実に清々しい朝であった。

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 普段はどことなく無骨で堅苦しい口調の慧音であったが、その性根はしっかりと乙女である。いざという時に上げる叫び声は、うら若き女性に相応しく黄色い悲鳴そのものであった。

「な、なっ……なにこれ!?」

 いつもと同じに目覚めた彼女はいつもと同じに布団を畳み、いつもと同じに洗顔と歯磨きをしようと洗面所の鏡を覗き、いつもとは違う『それ』の存在に気付いた。
 そして驚いた。悲鳴を上げた。

「どうした慧音っ!!」

 聞き馴染みのある声に慧音が振り向くと、妹紅が風呂桶の中から這い出ようとして足を滑らせて、もがいていた。
 必死の形相で風呂桶と格闘する妹紅。きっと慧音の悲鳴を聞いて、慌ててやって来たのだろう。

「お、おまえ何でそんな所から……」
「慧音の悲鳴が聞こえたから慌ててやって来た」
「いやいやそうじゃなくて、私が聞きたいのは何でやって来たのかじゃなくどこからやって来たのかという事で、つまりおまえは何で朝っぱらから私の家の風呂桶の中に居るんだ?」

 話を聞いた妹紅はもがくのを中断し、納得したかのように大きく頷く。

「慧音に何かあったら大変だから、改造したんだ」
「改造、なにを?」
「風呂桶を」

 嫌な予感がした。恐るおそる慧音が風呂桶を覗くと、底板が綺麗に取り除かれていて暗い大きな穴が口を開けている。用意周到に鉄製の梯子まで取り付けられていた。
 穴から冷たい風が吹きぬけ、慧音の顔を撫でていく。

「おまえ、これ……」
「竹林まで続いてる」
「ばっ、馬鹿!」

 得意そうな笑顔を浮かべる妹紅の頬を慧音は両側から掴み、伸ばせる限界まで伸ばしていく。

「風呂桶をこんなにしてしまったら風呂に入れないじゃないかっ!」
「ひふぁいひふぁい、ほめんふぁはい、ひゃめへー」

 涙目で謝るのに免じて、限界突破に挑戦するのは止めておいた。

「ううっ、ほっぺたがまだ熱い」
「自業自得だ馬鹿。夜までには元通りに直してもらうからな」
「折角掘ったのに」

 妹紅は名残惜しそうに風呂桶から続くトンネルを見つめ、上目遣いに慧音の怒った顔を伺う。
 きつく睨み返されておずおずとトンネルの中に引き返しかけて、自分が何でここに来たのかをようやく思い出した。

「あ、そうだ! さっきの悲鳴」
「ん? ……い、いやあれは何でもない、何でもないんだ」
「何でもないって、だって竹林まで聞こえてきたのに、何でもないわけが無いじゃないか」

 人間の里から迷いの竹林までおよそ四十キロほど。そこまで悲鳴が聞こえるのも凄いが、直通トンネルが掘られていたとはいえ、わずか七行でその距離を走り抜けた妹紅の脚力も驚くべきものだ。

「い、いや、妹紅が心配するような事はなにも無い平穏無事な日常だから、帰って寝直すといい是非そうするといい」
「慧音っ!」

 明らかに挙動不審だ。なにか隠し事をしているのか? 妹紅は慌てて手を振る慧音を見つめる。ヨモギ色のゆったりとしたパジャマは妹紅も何度か見たことのある慧音の普段からの寝間着姿だ。引き攣った顔の上には、いつもと同じ青色の帽子を軽く手で押さえている。

「なんで寝間着姿なのに帽子被ってるの」
「え、これは……やっ、やめっ」

 慧音の返事を待たず、妹紅は何気なく帽子を取る。
 帽子の下、つまり慧音の頭。

 握り拳ほどの大きさの色鮮やかなキノコが一本、生えていた。

「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁー」

 見られた! こんな恥ずかしい姿を見られてしまった!
 慧音はパニックに陥り、ほとんど条件反射で妹紅を突き飛ばしてついでに歴史を消してしまう。

「うっ、ううっ、何なのよこれ」

 嗚咽を漏らす慧音の疑問に答える声は無く、ただ頭上のキノコだけが静かに揺れていた。




「事故だ事故だこれは事故だ事故に違いない」

 不幸な事故で歴史が消えてしまった妹紅のフォローに予定外の時間がかかってしまった。日は程よく高い位置にあり、今から寺子屋まで急いでも授業には遅刻してしまいそうだ。
 謎のキノコのこともあるし今日は休んでしまおうかとも考えたが、真面目な性分の慧音はその考えを改める。

「休んだからといって何の解決にもならない。遅刻してしまうのは申し訳ないが、誠意を尽くせば許してもらえるだろうきっと」

 静かに頷くと、土で汚れたスコップを水で洗い流して納屋に仕舞い、軍手は土を払って洗濯カゴに放り込む。
 手早く身支度を調え帽子を被り直すと、慧音は寺子屋までの道を急いだ。




 続きません。

 書きかけて、先の展開がいまいちかなと寝かせておいたら、なにを書くつもりだったのかすっかり忘れてしまった原稿です。
 すっかり忘れてしまったので続きを書きようもないですね。
 おぼろげに覚えているのは、阿求と魔理沙は登場する予定だったような。

 ファイルのプロパティによると‎2012‎年‎4‎月‎19‎日に書いたみたいで…… 三年前かぁ。
めるめるめるめ
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