今日という日に感謝しよう。
全部が嘘で終わるのなら、有り得ないことでも許される。
有り得ないことでも、認められる。だから、今日という日に感謝しよう。
この、偽りを認められた日に。
その日、霊夢は夢の中に居るような気分で目を覚ました。
昨日は何をしていたか。今日は何をしようとしていたか、思い出すことができない。けれどそのうち考えるのが面倒になって、霊夢は身体を起こす。
「ふぁ……まだねむいわ」
まぶたをゴシゴシと擦りながら、霊夢はちょこちょこと動き出す。まだ幼い体躯であるからか、上手に巫女服に袖を通すことができない。
「むぅ」
普段だったら誰かが手伝ってくれるのに。霊夢はそう考えて、それからふと首を傾げる。自分が想像している誰かが誰なのか、すぐに思い浮かべることができなかった。
「ええと、あれ?」
誰かとは、一緒に住んでいたはずだ。その誰かが誰であったのか、思い出せない。けれど霊夢はその誰かのことが好きだということだけは、はっきりと覚えていた。
ぺたぺたと、裸足で縁側を歩く。すると、台所付近で気配を感じたので、霊夢はゆっくりと台所目指して歩き始めた。
「だれ?」
「あれ? れいむちゃん、おはよう」
「???」
台所に居たのは、緑色の髪の女性だった。霊夢よりも幾分か年上で、霊夢とは少し意匠の違う巫女服に身を包んでいる。
「れいむちゃんもたべる? 佃煮」
「さなえのつくだに、なんかこわいからえんりょしとくわ」
「えー。美味しいのに」
そう、早苗だ。
霊夢は何故彼女のような濃いひとを忘れていたのかと、自分でも疑問に思った。
東風谷早苗。いつからか博麗神社に暮らすようになったら巫女で、本来は守矢神社の風祝だ。
なんでも、ゲテモノにハマりすぎて追い出されたらしい、と、霊夢は早苗と一緒に暮らすようになったら経緯を思い出す。
「ほどほどにしなさいよ」
「任せてください!!」
気合は十分!といった雰囲気の早苗を残し、また、ぺたぺたと歩き出す。
すると今度は、客間の方から声が聞こえてきて、霊夢はそちらに向かって進んでいった。
「だからパチェ。もう少し素直になりなさい」
「だってレミィ。やっぱりあのニセモノみたいには無理よ 」
また、見覚えのない二人。
一人は人間かどうか知らないが、一人は確実に妖怪だ。なにせ、黒い翼が生えている。
「なにやってるの?」
「ああ、れいむか。パチェが中々自信がつかなくてね。まったく、たかだか乗っ取られたぐらいで」
「でも……」
「でもじゃないわよ。まったく。私を創作物の中で神父にするほどのどきょうがあるのに」
「そこまでよ!!!!!!」
この妙に中のいい二人が誰なのか、霊夢は必死に頭をひねって思い出そうとする。
「そうだ。あの時約束したアレ、どうした?」
「あ、あれ?」
「艶本」
「ああああ、あれはそのあのだって」
「なに? 資料が足らない? しょうがないなぁ。なら一度実践して」
「だ、だめよ、レミィ。こんな日の高いうちから……」
「れみりあ、ぱちゅりー。いちゃつくならかえりなさいよ」
また、唐突に思い出した。
かつて異変を起こして、自分と「 」が退治した吸血鬼と魔女。つい最近までは湖の傍にある大きな館に暮らしていたが、パチュリーが得体のしれない本に乗っ取られかけてから、何故か神社に移り住むようになった。もちろんひと悶着やふた悶着では済まなかったが、なんとか解決したらしく、霊夢が気がついた頃には二人仲良く客間に陣取っていたのだ。
騒がしい二人の姿にため息をつくと、霊夢はまた歩き出す。次に気配を感じるのは、縁側だ。
「だからね、やっぱりお姉ちゃん最高だと思うの」
初っ端から頭の痛くなる会話が聞こえてきて、霊夢は足を止める。
話しているのは、帽子をかぶった全体的に緑色の少女だ。胸元の球体型アクセサリーが、どことなく目を瞑った瞳のように見えた。
「姉キャラならいいってもんじゃないわ。確かに乳に貴賎はないとはいえ、私はどこまでいっても巨乳派なの。お姉さま+巨乳。これに尽きるわね」
全力であたまわるい。
霊夢は一瞬頭によぎった言葉を振り払う。意味のわからない言葉の羅列だが、まだ、霊夢はこの会話が頭の悪い会話だと気がつくことはできなかった。
「えー、いいじゃん、貧乳! あなたの所の悪魔も貧乳でしょ?」
「こあのこと? あれは貧乳云々じゃないわよ。例えるなら、そう、ほりっくなまりあかな」
「僕はお姉さまに恋してしまうんだね」
会話に入り込むことができない。霊夢が抱いた感想は、そんなものだった。このまま通り過ぎてしまおうかとも思ったが、踏みとどまる。放置していていい問題ではないと、博麗の巫女の勘が告げていたからだ。
「ちょっと、なにやってるの?」
「未来の乳巫女さまね!」
「将来が期待できる絶壁だわ」
「そう」
最初に発言したのが、古明地こいし。次が、フランドール・スカーレット。霊夢はこれ以上ここで二人の話に加わりたくないという気持ちのみで、思い出した。
彼女たちは元々、それぞれ別の場所で住んでいた。だがその特殊な性癖が問題となり、世間を知る旅に出たのだという。それが何故霊夢の神社に住み着いているのか、霊夢には理解できそうになかった。理解したくなかった、とも言う。
「れいむ」
「なに?」
去り際にこいしに声をかけられ、霊夢はきょとんと首を傾げた。
「大きくなるんだよ?」
「? うん」
相変わらず、無意識の妖怪はよくわからない。
霊夢はそんな感想を抱きながら、二人に手を振って別れた。
今度は、境内だ。
霊夢は深く考えることなく、草鞋を履いて外に出る。すると、見覚えのある白黒を中心に何人かの少女たちが集まっていた。
「まりさー? なにしてるの?」
「おお、れいむか! いや、遊びにきたは良いんだけど、全員ついてきちまってさ」
「ぜんいん?」
霊夢が見渡すと、そこには“同じ顔の少女が七人”と、彼女たちを幼くしたような顔立ちの少女が“二人”、魔理沙を取り囲むように並んでいた。
「魔理沙、ほら裾が汚れてる。れいむが居るんだから衛生面は気をつけなきゃだめよ」
霊夢を気遣うのは水色のリボン。
確か、そう、“水曜日”だ、と霊夢は思い出す。
「ちょっと魔理沙! またハンカチ忘れたでしょ! ま、まぁ代わりに持ってきてあげたから、ありがたく使いなさいよね!」
魔理沙に目を逸らしながらも優しくハンカチを差し出すのは、緑色のリボン。
“火曜日”と、そんな言葉が脳裏をよぎる。
「ええそうね、デリンジャーね。れいむ。貴女も気をつけなさい。世界はドラム式洗濯で溢れているのよ」
そう一人で頷く、黄色いボタン。
相変わらず“金曜日”には話が通じない。対等に話せる魔理沙はすごいと、霊夢はそんな感想を抱いた。
「はぁ。この子、調整しなおしたほうが良いんじゃない?」
ずばっと冷たいことを言うのは、赤いリボン。
それでも“日曜日”の彼女は、魔理沙といるときは優しい瞳をするということを、霊夢は知っていた。
「もう、そんなこと言わないの。貴女だって本当は、みんなのことが好きなんでしょう? 私だって、魔理沙とあなた達のことが好きだもの」
クールな表情で愛を語る、銀色のリボン。
彼女と――“木曜日”と居る時の魔理沙はいつも振り回されてばかりで面白い。
「ぐふっ、魔理沙とマスターと姉妹でハーレムね。たまらないわ」
じゅるりと涎を垂らすのは、桃色のリボン。
霊夢は“月曜日”の彼女の言うことが、八割理解できない。
「よし、わかった。それならあとはみんなまとめて爆発ね!」
胸を張ってそんなことを言うのは、紫色のリボン。
“土曜日”の彼女は滅多に嘘を言わない。言うとしたら本当のことだけだ。爆発されたら困るので、霊夢は慌てて彼女たちに駆け寄った。
「ごめんなさいね、騒がしくして」
「もう! 爆発させちゃだめよ!」
そういって彼女たちを止めたのは、黒いサスペンダーとスカートの少女と、逆に白いサスペンダーとスカートの少女だった。
彼女たちは、“死”と“夢”だと、霊夢は急に思い出す。
「どうしたんだ? れいむ。そんなところにいないでこっちに来いよ」
魔理沙と――“アリスたち”が手を差し伸べる。
霊夢はその光景を見て、ようやく彼女たちのことを思い出した。
「わたしは――」
急に増えたアリスたち。
彼女たちは、いつも楽しそうに魔理沙の周りをまわっていたということを、思い出した。霊夢はそんな彼女たちに手を差し伸べようとして、ふと、動きを止める。
「あれ?」
ふわりと目の前に落ちてきた、一枚の羽根。
真っ黒なそれを掴みながら上を見ると、空から誰かが舞い降りてきた。
「もう起きてたんだ。今日は早いじゃない、ちび巫女」
「あや、や?」
「どうしたの? ああ、遅かったかしら? まったく、八雲紫、あんたが手伝えば早く準備が終わったものを……」
「ほら見なさい、今代の博麗の巫女よ。これがズワイガニよ!」
「無視するな!」
真っ黒な翼。
優しい顔立ち。
温かい眼差し。
忘れられるはずのない、最愛の人。
「あやや!」
霊夢は満面の笑みを浮かべ、その“もふもふ”に飛びつこうとして――
「二人とも、私の霊夢を独り占めしないでくれるかしら?」
――体を、固まらせた。
黒い長い髪。
正当な巫女服。
優しく力強い瞳。
柔らかい、微笑み。
「ほら、みんな、宴会の準備を手伝いなさい。退治するわよ」
忘れるはずがない。
忘れられる、はずがない。
「霊夢も。私と一緒にお手伝い、できる?」
求めていた。
どんな時だって、望んで止まなかった。
「霊夢? どうしたの? ほら、おいで」
優しいその手を、霊夢は――ずっと、“夢”に見ていたのだから。
「おかあ、さん?」
ぷにれいむ 超番外編 誰が為の夢
――今日だけは、夢を見よう。
――夢でしか見られない幸福に、包まれよう。
――だからどうか、幸せになって。
――だからどうか、幸せを忘れないで。
――私はもう、あなた達の元へは戻れないから。
――続かない――
全部が嘘で終わるのなら、有り得ないことでも許される。
有り得ないことでも、認められる。だから、今日という日に感謝しよう。
この、偽りを認められた日に。
その日、霊夢は夢の中に居るような気分で目を覚ました。
昨日は何をしていたか。今日は何をしようとしていたか、思い出すことができない。けれどそのうち考えるのが面倒になって、霊夢は身体を起こす。
「ふぁ……まだねむいわ」
まぶたをゴシゴシと擦りながら、霊夢はちょこちょこと動き出す。まだ幼い体躯であるからか、上手に巫女服に袖を通すことができない。
「むぅ」
普段だったら誰かが手伝ってくれるのに。霊夢はそう考えて、それからふと首を傾げる。自分が想像している誰かが誰なのか、すぐに思い浮かべることができなかった。
「ええと、あれ?」
誰かとは、一緒に住んでいたはずだ。その誰かが誰であったのか、思い出せない。けれど霊夢はその誰かのことが好きだということだけは、はっきりと覚えていた。
ぺたぺたと、裸足で縁側を歩く。すると、台所付近で気配を感じたので、霊夢はゆっくりと台所目指して歩き始めた。
「だれ?」
「あれ? れいむちゃん、おはよう」
「???」
台所に居たのは、緑色の髪の女性だった。霊夢よりも幾分か年上で、霊夢とは少し意匠の違う巫女服に身を包んでいる。
「れいむちゃんもたべる? 佃煮」
「さなえのつくだに、なんかこわいからえんりょしとくわ」
「えー。美味しいのに」
そう、早苗だ。
霊夢は何故彼女のような濃いひとを忘れていたのかと、自分でも疑問に思った。
東風谷早苗。いつからか博麗神社に暮らすようになったら巫女で、本来は守矢神社の風祝だ。
なんでも、ゲテモノにハマりすぎて追い出されたらしい、と、霊夢は早苗と一緒に暮らすようになったら経緯を思い出す。
「ほどほどにしなさいよ」
「任せてください!!」
気合は十分!といった雰囲気の早苗を残し、また、ぺたぺたと歩き出す。
すると今度は、客間の方から声が聞こえてきて、霊夢はそちらに向かって進んでいった。
「だからパチェ。もう少し素直になりなさい」
「だってレミィ。やっぱりあのニセモノみたいには無理よ 」
また、見覚えのない二人。
一人は人間かどうか知らないが、一人は確実に妖怪だ。なにせ、黒い翼が生えている。
「なにやってるの?」
「ああ、れいむか。パチェが中々自信がつかなくてね。まったく、たかだか乗っ取られたぐらいで」
「でも……」
「でもじゃないわよ。まったく。私を創作物の中で神父にするほどのどきょうがあるのに」
「そこまでよ!!!!!!」
この妙に中のいい二人が誰なのか、霊夢は必死に頭をひねって思い出そうとする。
「そうだ。あの時約束したアレ、どうした?」
「あ、あれ?」
「艶本」
「ああああ、あれはそのあのだって」
「なに? 資料が足らない? しょうがないなぁ。なら一度実践して」
「だ、だめよ、レミィ。こんな日の高いうちから……」
「れみりあ、ぱちゅりー。いちゃつくならかえりなさいよ」
また、唐突に思い出した。
かつて異変を起こして、自分と「 」が退治した吸血鬼と魔女。つい最近までは湖の傍にある大きな館に暮らしていたが、パチュリーが得体のしれない本に乗っ取られかけてから、何故か神社に移り住むようになった。もちろんひと悶着やふた悶着では済まなかったが、なんとか解決したらしく、霊夢が気がついた頃には二人仲良く客間に陣取っていたのだ。
騒がしい二人の姿にため息をつくと、霊夢はまた歩き出す。次に気配を感じるのは、縁側だ。
「だからね、やっぱりお姉ちゃん最高だと思うの」
初っ端から頭の痛くなる会話が聞こえてきて、霊夢は足を止める。
話しているのは、帽子をかぶった全体的に緑色の少女だ。胸元の球体型アクセサリーが、どことなく目を瞑った瞳のように見えた。
「姉キャラならいいってもんじゃないわ。確かに乳に貴賎はないとはいえ、私はどこまでいっても巨乳派なの。お姉さま+巨乳。これに尽きるわね」
全力であたまわるい。
霊夢は一瞬頭によぎった言葉を振り払う。意味のわからない言葉の羅列だが、まだ、霊夢はこの会話が頭の悪い会話だと気がつくことはできなかった。
「えー、いいじゃん、貧乳! あなたの所の悪魔も貧乳でしょ?」
「こあのこと? あれは貧乳云々じゃないわよ。例えるなら、そう、ほりっくなまりあかな」
「僕はお姉さまに恋してしまうんだね」
会話に入り込むことができない。霊夢が抱いた感想は、そんなものだった。このまま通り過ぎてしまおうかとも思ったが、踏みとどまる。放置していていい問題ではないと、博麗の巫女の勘が告げていたからだ。
「ちょっと、なにやってるの?」
「未来の乳巫女さまね!」
「将来が期待できる絶壁だわ」
「そう」
最初に発言したのが、古明地こいし。次が、フランドール・スカーレット。霊夢はこれ以上ここで二人の話に加わりたくないという気持ちのみで、思い出した。
彼女たちは元々、それぞれ別の場所で住んでいた。だがその特殊な性癖が問題となり、世間を知る旅に出たのだという。それが何故霊夢の神社に住み着いているのか、霊夢には理解できそうになかった。理解したくなかった、とも言う。
「れいむ」
「なに?」
去り際にこいしに声をかけられ、霊夢はきょとんと首を傾げた。
「大きくなるんだよ?」
「? うん」
相変わらず、無意識の妖怪はよくわからない。
霊夢はそんな感想を抱きながら、二人に手を振って別れた。
今度は、境内だ。
霊夢は深く考えることなく、草鞋を履いて外に出る。すると、見覚えのある白黒を中心に何人かの少女たちが集まっていた。
「まりさー? なにしてるの?」
「おお、れいむか! いや、遊びにきたは良いんだけど、全員ついてきちまってさ」
「ぜんいん?」
霊夢が見渡すと、そこには“同じ顔の少女が七人”と、彼女たちを幼くしたような顔立ちの少女が“二人”、魔理沙を取り囲むように並んでいた。
「魔理沙、ほら裾が汚れてる。れいむが居るんだから衛生面は気をつけなきゃだめよ」
霊夢を気遣うのは水色のリボン。
確か、そう、“水曜日”だ、と霊夢は思い出す。
「ちょっと魔理沙! またハンカチ忘れたでしょ! ま、まぁ代わりに持ってきてあげたから、ありがたく使いなさいよね!」
魔理沙に目を逸らしながらも優しくハンカチを差し出すのは、緑色のリボン。
“火曜日”と、そんな言葉が脳裏をよぎる。
「ええそうね、デリンジャーね。れいむ。貴女も気をつけなさい。世界はドラム式洗濯で溢れているのよ」
そう一人で頷く、黄色いボタン。
相変わらず“金曜日”には話が通じない。対等に話せる魔理沙はすごいと、霊夢はそんな感想を抱いた。
「はぁ。この子、調整しなおしたほうが良いんじゃない?」
ずばっと冷たいことを言うのは、赤いリボン。
それでも“日曜日”の彼女は、魔理沙といるときは優しい瞳をするということを、霊夢は知っていた。
「もう、そんなこと言わないの。貴女だって本当は、みんなのことが好きなんでしょう? 私だって、魔理沙とあなた達のことが好きだもの」
クールな表情で愛を語る、銀色のリボン。
彼女と――“木曜日”と居る時の魔理沙はいつも振り回されてばかりで面白い。
「ぐふっ、魔理沙とマスターと姉妹でハーレムね。たまらないわ」
じゅるりと涎を垂らすのは、桃色のリボン。
霊夢は“月曜日”の彼女の言うことが、八割理解できない。
「よし、わかった。それならあとはみんなまとめて爆発ね!」
胸を張ってそんなことを言うのは、紫色のリボン。
“土曜日”の彼女は滅多に嘘を言わない。言うとしたら本当のことだけだ。爆発されたら困るので、霊夢は慌てて彼女たちに駆け寄った。
「ごめんなさいね、騒がしくして」
「もう! 爆発させちゃだめよ!」
そういって彼女たちを止めたのは、黒いサスペンダーとスカートの少女と、逆に白いサスペンダーとスカートの少女だった。
彼女たちは、“死”と“夢”だと、霊夢は急に思い出す。
「どうしたんだ? れいむ。そんなところにいないでこっちに来いよ」
魔理沙と――“アリスたち”が手を差し伸べる。
霊夢はその光景を見て、ようやく彼女たちのことを思い出した。
「わたしは――」
急に増えたアリスたち。
彼女たちは、いつも楽しそうに魔理沙の周りをまわっていたということを、思い出した。霊夢はそんな彼女たちに手を差し伸べようとして、ふと、動きを止める。
「あれ?」
ふわりと目の前に落ちてきた、一枚の羽根。
真っ黒なそれを掴みながら上を見ると、空から誰かが舞い降りてきた。
「もう起きてたんだ。今日は早いじゃない、ちび巫女」
「あや、や?」
「どうしたの? ああ、遅かったかしら? まったく、八雲紫、あんたが手伝えば早く準備が終わったものを……」
「ほら見なさい、今代の博麗の巫女よ。これがズワイガニよ!」
「無視するな!」
真っ黒な翼。
優しい顔立ち。
温かい眼差し。
忘れられるはずのない、最愛の人。
「あやや!」
霊夢は満面の笑みを浮かべ、その“もふもふ”に飛びつこうとして――
「二人とも、私の霊夢を独り占めしないでくれるかしら?」
――体を、固まらせた。
黒い長い髪。
正当な巫女服。
優しく力強い瞳。
柔らかい、微笑み。
「ほら、みんな、宴会の準備を手伝いなさい。退治するわよ」
忘れるはずがない。
忘れられる、はずがない。
「霊夢も。私と一緒にお手伝い、できる?」
求めていた。
どんな時だって、望んで止まなかった。
「霊夢? どうしたの? ほら、おいで」
優しいその手を、霊夢は――ずっと、“夢”に見ていたのだから。
「おかあ、さん?」
ぷにれいむ 超番外編 誰が為の夢
――今日だけは、夢を見よう。
――夢でしか見られない幸福に、包まれよう。
――だからどうか、幸せになって。
――だからどうか、幸せを忘れないで。
――私はもう、あなた達の元へは戻れないから。
――続かない――
来年に期待していいんですね!?