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極・東方西域記

2014/04/01 23:51:11
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 その平坦なTシャツの胸元で、比那名居天子を精巧に模した絵が暴れまわっていた。



【極・東方西域記   第128季 長月】



「こ、こ、この痴れ者がぁっ! いいきなりなんてことしてくれてんのよ!?」
「うふふ、これぞ境界を操る程度の能力の一つ。対象の二次元と三次元の境界を曖昧にし、紙上・布上の世界に移行させる術」
「知らんわそんなこと! さっさと戻しなさい、今ならいつものおふざけってことで許してやるから」
「まぁまぁ、そう興奮しないでちょうだいな。唐突だったことは謝るわ。
 実はあなたに折り入って頼みたいことがあったのよ。
 お願い、この役割はあなたのように才ある者にしかできないことなの」
「…………言ってみなさいよ。下らないことだったら容赦しないんだから」
「聞いてはくれるのね? ありがとう」

「そうねぇ……まずはこれを見て」
「え? それ、私の、絵――」
「がプリントされたTシャツ。今あなたの置かれている状況をそっくりそのまま再現したようなものね。
 ただしこのシャツは不良品で、描かれているプリントも色が薄いものだけど」
「ちょっ、それ作ったのお前? なに、そーいうの着る趣味があったの?」
「いいえ、これは至極最近、無縁塚で見つかったもの。
 おそらくは商品として不要と断じられ、外の世界から流れ着いたのでしょうね」
「どういうこと? 外の世界の連中がなんで私の絵を――」
「私が外の世界にスパイを送ったり、また自分で行ったりしていること、小耳に挟んだことぐらいはあるわよね?
 実は10年ほど前から、外の世界で特殊な能力を持った人間が活動しているのよ。
 その人間は日本中の寺社仏閣、あるいは妖怪にまつわる地を訪れ、能力を行使しているの。
 おそらくは名居神社にも行っていたのでしょうね」
「能力って何よ? その地で眠って霊夢でも見て、神仏やら妖怪やらの絵を描いているとでもいうの?」
「元神職らしい回答ね。でもちょっと違うわ。
 彼の者の能力は分霊のようなものを式神に組み込むこと、よ」
「……それ、まずくない? かつての安倍ナニガシみたいなもんじゃないの」
「大丈夫。今の外の世界の式神は機械にしか憑けられなくなっているから、現実に対して影響力を及ぼすことはないわ、物理的・直接的には」
「あ、そ」

「……で、それが今私の置かれている状況と何の関係があるの? 
 私の意匠を施した衣装が最近出来たってことは……今の私をそいつのところに送りつけて、肖像権の侵害を訴えて来い、とでも?」
「まさか。
 幻想郷がもしも外の世界に知られた時にどのような印象がもたらされるのか――それをシミュレートしてくれそうな人間に下手なちょっかいを出すつもりはないわ」
「こちらのことをあえて知らせるつもりがない、なら……スパイ?
 商品とか言ったわよね。だったら大量に作られていて、その中に一つ、イレギュラーが混じっていても気付かれない」
「大・正・解。実はその人間、あと1週間後には海外渡航してシャツを販売するつもりらしいの。
 それを追跡する手段がこれしか思いつかなかったのよ。
 今の私は魔力嵐の異変の後処理で手一杯だし、外――しかも海外で需要の高まりそうな妖怪もいない。
 だからその人間の周辺を観察する手駒が現在まったくないのよねぇ」
「ふざけるな! そっちの事情なんて知ったこっちゃないわよ!
 だいたい、どこに私の才が必要だってのよ!?」
「それはもう、このシャツのプリントと同じ格好を長時間真似し続けるのだから、頑丈で忍耐強く、五衰がないため体内外や衣服も汚れず――
 天人以外に誰か適任がいるとでも?」
「そ、その程度のことで――」
「それにめったに行けない外の世界が不眠不休で眺められるのよ。退屈しのぎにはもってこいじゃない」
「こ、この……私が異変を起こす前に、ただ下界を見ていただけの生活でどれだけストレス溜めてたと思ってるわけ!?」
「もう、落ち着きなさいよ。不楽本座(いまをたのしめないこと)は衰退の証よ?」
「こんな状況を楽しめるほど、私は天人として出来ていないわ!」

「まぁ性質の悪い冗談はこのくらいにしておきましょうか。ちゃ~んと考えてるわよ、あなたへのご褒美は」
「あ?」
「あと2週間もすれば異変の後始末は終わるから、その時あなたを迎えに行こうと思っているの。
 実際の観光旅行はそれから満喫させてあげるわ。あなたが目星をつけたところならどこへでも……最低限のことはわきまえてもらいますけどね」
「……それ、お前の仕事後の羽伸ばしも含まれてるんじゃないの?」
「ご想像にお任せしますわ」
「……」
「彼の地は桃が名物だそうよ。外の世界、しかも異国情緒を含んだ桃、試してみたいとは思わない?」
「……土産には?」
「もちろん」
「私の眼鏡にかなう物だった場合、毎年の旬の時節に届けてくれる?」
「欲張りねぇ。別に構わないけど」
「ふん、まぁいいわ。それなら、李を持ってくる程度には働いてあげる。
 私の絵を描いた服が外の世界でどういうことになるか、ちょっと興味あるし」
「契約成立、ね」
「それで、どこに送られるっていうの?」
「ええ。この極東の地よりはるか西方、亜欧(ユーラシア)大陸を越えた先――アメリカ合衆国ジョージア州、アトランタ」
 
 
 
 
 
 
「ああそうそう、次元の境界を曖昧にしたってことは、どちらの次元にも自由に移動できるってことだから。
 しかるべき場所に着いたと判断したら、こっそりとシャツから出て監視に励んでね。
 で、周りの人間に何か聞かれそうになったらコスチューム・プレイ(衣装遊び)と言い張りなさい。
 仕事が終わったら好きにしてていいけど、まぁ白くなったシャツに避難しておくのがいいんじゃないかしら」
「おま、先にそれを言……まんまと担がれたわけ!? んもー!」
一つの話がどうにも立ちいかなくなった時、拘泥せずに早いとこ他の案に切り替えられるかどうか…
それが締め切りに対応するために重要なことではないかと思いました。それにしても嘆かわしきや、このアメリカン・アトモスフィアの薄さは。
枯木も山野にぎわい
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