くーりえの掲示板

ババパンゲテパンステーキ肉

2014/04/01 23:42:30
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 家事、それは親切と似ている。
 どちらも見返りを求めてはいない、というところだ。
 一家の台所を守る、とは比喩であるがあながち間違いでもない。
 お勝手に一番長く居る者こそ、その家庭の縁の下の力持ちなのではないかと私は思う。
 
「ふう、こんなのものか」

 洗濯物を全て畳み終えほっと一息。
 あと、今日の仕事はお夕飯作りと、その片づけだけた。
 洗濯物をタンスに入れたらお夕飯までゆっくりしよう。
 私の頬を、風がなぞる。

「今晩はお鍋にしましょう」
「あら本当、楽しみにしてるわ。ところで、ねえ」

 主人の受け答えもほどほどに自室に戻る。
 そういえば、この前稗田の者にもらった古書があったな。
 あれを読もう。夕暮れまでの暇つぶしにちょうどいい。
 私の髪が、風でなびく。

「どれ、お茶でも飲みながら。貰い物だが良いものがあったはずだ」
「戸棚の奥にあったわよ。ねえ藍」

 なにやら貰い物ばかりな気がする。だが、それはいい事だ。
 人はだれしもつながり合って生きているもの。
 いくらが私が最強と名の知れた妖獣だからって、一人では生きていけない。
 里に豆腐屋があるかないかだって私にとっては死活問題だ。
 私の服が、風で震える。

「うん、良いお茶だ。それにこの書物、大変趣深い。これはいい物を貰ったな。お返しを考えなくては」

 八雲は稗田の者と昔から関係が深い。
 主人もそうだが私もだ。
 稗田の彼女とはそれなりに親交し、里へ行ったときは甘味屋などに言って雑談する仲だ。
 彼女は知識が深いので話していて大変勉強になるのだ。

「フィクションの書物など馬鹿にしていたが、恋愛物がこんなにいいものとは。
 愛、なんて素晴らしいんだ」

 私はわざとらしくも台詞を吐き、感慨に浸ろうと目を瞑る。
 視覚を遮那したせいか、先刻から続いているばっさばっさという音が大きく聞こえる気がする。
 私の帽子が風で吹き飛んだ。
 それは先ほどから私の周りをつま先立ちでぴょんぴょんと跳び回り
 スカートの中を見せてこようとする主人のせいなので、無視を決めるのが一番である。
 私は常に冷静沈着が売りなのだ。

「藍、こっち見てよ、ほら、ほら」

 スカートをめくってはおろしめくってはおろしを繰り返すので
 それで生じた不快な風が、私の全身を駆ける。
 主人じゃなかったら間違いなくぶち殺しているが
 私はこんなことでは動じない。
 なおも茶をすする。

「藍、ほっ、ほっ、ほらっ、無視しないでっそんな遠い目しないでっ」

 ばっさばっさばっさばっさ。
 拳に力がこもる。
 ダメよ藍、あなたはできる子。
 このお茶をすすり終わったらお鍋を作って、食べて、お片づけして寝るだけだから。
 ほんの後四時間程この醜悪なる姿を我慢すれば今日は終わるんだから。
 そうだ、明日は橙がウチに来るんだ。
 そうしたら一緒にご飯を食べて、楽しく話して、お風呂に入ってほかほかのまま寝るんだ。
 そう、ほかほかのまま。ほかほか……ほ、ほ、

「ほっ、ほっ、らーっんっ、見て、私のパンツっ、ほっと」

 主人がスカートを私の頭にかぶせた瞬間、私は自分が式だということを忘れた。
 私が我に返った時、自分の拳と部屋と主人が、血まみれになっていた。






 


「私はババパンなんかじゃないのにね」
「なるほど、霊夢と魔理沙に偶然見えた下着をババアのパンツ、略してババパンと評されたのですね」
「失礼よねえ」
「それであんなうざったいことをしたんですか」
「ええ、それにしたって殴ること無いじゃない」
「私は悪くありません」
「主人を殴った式が、悪くないと?」
「ええ、私は悪くありません」
「ああ、なんてこと。式の打ち方を失敗してしまったのかしら」
「私は悪くありません」
「壊れてしまったのね。可哀想に」
「壊れててもなんでもいいですから、紫様」
「ううん?」
「いい加減、私にかぶせているスカートを取ってください」
「あらやだ、藍ったらえっち」
「いい加減殺すぞ」

 かの日の誰かさんよろしく
 須臾の紐(フェムトなファイバー)で縛られているので私は身動きができない。
 それをいい事に主人は大股で私の前に立ち、私の頭にスカートをかぶせている。
 テープ的なそれで固定されているので、目を瞑ることも許されず
 目の前の地獄をただ見つめるしかなかった。
 視覚情報が脳内をつたっていると思うだけで脳が穢れていくのがわかる。
 地上は汚れで満ちている。
 月へ行きたい、そう橙と。

「それでどう?」
「不快です」
「やだもう、照れちゃって」
「誠に不快です」
「藍ったら意地でも見ないフリするんだから、意地でも見せるしか無いでしょ?」
「誠に遺憾です」
「日本みたいなこと言ってないで、私が聞きたいのは、これがババパンじゃないかって事」

 スカート越しにぽんと頭が叩かれる。
 苛立。
 憤懣。
 殺意。
 
「あの二人がお子ちゃまなだけなのよね。
 さあ私の藍、この下着を評価しなさい」

 脳内の穢れを無理やり言語化するような命令が来る。
 式なのでその通り動かないといけない。
 私は初めてこいつの式であることを悔いた。
 悔いて悔いて、そして悔いた。

「ええと、紫色です」
「うんうん、それで」
「え、と真ん中にリボンがついています」
「チャームポイントね」
「レースが派手です」
「大人の女の魅力抜群!」
「総じて」
「うんうん」
「ババア臭いです」
「は?」
「はい」
「は?」

 は? じゃないが。
 これは主人が私にした命令なので私の経験上、そして私自身の意志とは関係ない発言だ。
 つまり客観的に見てこの下着はババア臭い。

「ああ、なるほど、情報が足りないからね。
 だからその結果になるんだわ」
「はい?」

 主人は私にスカートをかぶせた状態のまま、くるりと向きを翻した。








 ケツだ。








 新たな穢れが私の体内を蝕んでいく。
 私が私という概念を認識できなくなる。 
 殺。
 
「ほら、これでどう。キュートでしょ、藍」
「そうですね。マスコットキャラのくまさんがとてもミスマッチです」
「でしょでし……え?」
「ありえません。これは紫様の手作りでしょうか」
「そうだけど…… 合わない?」

 もっとよくみてとばかりに尻を振ってくる。
 そのたびに私の命は削れていくが、命令なので口は動き続ける。

「やはりそうですか。これが例えば幽々子様ならとても可愛らしく見えたでしょう。
 派手なレースとおしりに付いたマスコット。とても不釣合いながら、なぜか可愛らしく見えます。
 これはきっと履いている本人の『魅力』があるからでしょう。
 ええ、そうです。この下着、西行寺幽々子が履いていたなら最高にミリョクテキ、と判断できます。
 ただ、コレを履いているのは紫様ですので評価は正反対なものへと変貌します」
「え、あ、え?」
「紫様にはその『魅力』が無いです。
 そもそも下着自体に無理があります。表にはリボンが付いて、裏にはくまさん
 原色の紫でしかもレースって、ありえないでしょう」
「だ、だって可愛いかと思って……」
「そのパンツはステーキにマヨネーズと和風ドレッシングとごま油と
 カレーソースとオリーブオイルとウスターソースとチャツネとケチャップをぶちまけて
 最後はふんわり半熟卵で閉じた料理のようなものです。
 個々では良いかもしれませんが、それが全部となると、それはもう」
「……」
「ゲテモノです。紫様のパンツはゲテモノです。
 まあ幽々子様ほどのステーキ肉ならそれら全てを打ち消してくれると……」
「げ、ゲテモノ…… ゲテモノパンツ……」

 ふ、と私の視界は幻想郷に戻ってきた。
 そう、かぶさっていたスカートが降ろされ、私は帰ってきたのだ。
 ふと見上げると、先ほどとは全く別物な主人の顔があった。

「藍……」
「な、なんでしょう。でも、私は命令されていっただけから、その、お仕置きは、やめてください」
「そんなことしないわ。ごめんね、ゲテモノパンツを無理やり見せつけて……」
「い、いえ、そんな」
「ばっさばっさやってごめんね……」
「それは結構ムカつきましたけど…… 紫様、げ、元気だしてください」
「いいの、私は所詮ゲテモノパンツ妖怪よ。誰からも食べてもらえない、くさったステーキ肉よ」

 やっと気づいたのですか、とは言わなかった。
 自分自身の力に自信があるからこそ、忠実な式の客観的に見た評価がショックなのだろう。
 主人はがっくりと肩を落とし、部屋の隅で丸くなっている。
 目元にはうっすらと輝くものが滴り落ちているのが見えた。
 髪の毛の先端をちりちりといじりながらカール・マイヤーをうまく言語化して歌っている。
 私は、悔いた。
 先ほど『紫様の式だと悔いた私』に悔いた。
 その理由がこの胸の痛さにある。
 主人の涙が痛い。
 主人の苦しみが痛い。
 主人の悲しみが痛い。
 主人の悲傷は私の悲傷だ。
 あの涙は、私の涙なのだ。

 
「紫様」


 主人に駆け寄る。
 私は式として主人に投げかけるべき言葉がある。


「紫様」
「……くすんくすん、なによう」
「私は、腐る寸前の肉が好きです」

 私の言うべきことなど決まっていた。

「肉が腐る寸前というのは、一番食べごろなのです」

 念を押す。

「見てくれは悪いかもしれません。ただ、大事なのは中身です。
 肉は見た目が悪くとも、味が良ければそれでよしなのです。私は知っています。
 紫様は、腐る寸前の、最高に豊潤で甘美なステーキ肉なのです!」

 紫様の肩に手をやる。
 細かく震えていたのは気のせいだろうか。
 どちらにしろ、気のせいにしておこう。

「藍……」
「紫様、ご飯食べましょう。忘れましょう。
 所詮、まだ20も生きていない少女の戯言など、気にするほうが馬鹿らしいのです。」
「そうね。……ありがとう。
 でも……




























 今回の件で中身が大事、ってマズくない?」
「ですよねー」



でも加齢臭
ばかのひ
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コメント



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1.12345678キリ番ゲット!(核笑)削除
これはひどい
3.9999999絶望を司る程度の能力削除
これはひどいw
4.6666666キリ番ゲット!(核笑)削除
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