くーりえの掲示板

美少女とセレンディピティ

2014/04/01 20:28:26
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 どうもこんにちは、鈴木々々(すずききき)といいます。
 創想話に月に一度は何かしら投稿してやるぜと意気込んでpixivから乗り込んできたものの気付けば年に1~2作しか投稿しなくなっていた非常に意志薄弱な物書きです。ちなみに二月の末から無職です。もう一ヶ月たったのか、早いなぁ。仕事ください。
 ……まあそれは置いておきまして。
 そういえば昨日、増税前に月一回の病院に行って血液検査の結果を貰って診察受けて、その帰りの話をね、ちょっとしたいかなと思います。








「ちょっといいですか?」
 後ろの方で女性の声が聞こえた。しかしながらそれが自分に向けられた言葉であるのか自信がなく、仮にそうだとしてもおそらくは霊感商法とかそういった類のものであるのだろうと、過去の経験から俺は類推していた。
 昔梅田とか歩いていると、女医の西川史子に似た感じの雰囲気の女性がよく喋りかけてきた。それで、最初に年齢を聞かれる。けれど当時十九歳の俺はローンとかを組めないから、正直に年齢を答えると相手は去っていく。
 で、二十歳になったらそういった女性からはとんと声をかけられなくなった。どこまで持ってないんだよ俺。まあ持っていたら持っていたで、多分今は持っているのではなくて背負っていたんだろうけど、借金を。ちなみに俺は今期こそハンカチ王子の復活に期待していたりする。
 まあそんなことはどうでもよくて、とりあえず声のした方に振りかえる。
 ――すると、そこにいたのはすみれ色の服を着た金髪の美少女だった。
 ふわっとウェーブのかかった金髪と、意志の強そうな大きい瞳が、どことなくまだ幼い頃のベラ・ソーンを思い起こさせた。いや誰が分かるんだよこの喩え。
 周囲には残念ながら他に誰もいなく、彼女が声をかけたのは、だからまあ、俺なんだろう。
「……はい?」
「あの、このあたりで黒い大きな帽子をかぶった美少女を見ませんでしたか? こう、白いリボンのついた帽子なんですけど――」
「あー、いや、見てないですねぇ」
 不意打ち、外国人、美少女という三重苦の緊張にありながら、なんとか噛まずに対応できた。日本語が通じる相手でよかった。昔サマソニでセキュリティのバイトしたときに、海外アーティストのマネージャーらしい怖そうな女性に話しかけられて死にそうな顔をしていたのが嘘のようだ。英語喋れるのは緑のシャツ着た奴らだって言ってるだろ。
「そうですか、ありがとうございました。……うーん、どこにいるんだろう」
 どうやら困っているらしい。それでもこちらから手を差し伸べるようなことを俺はしない。助けを求められれば応じるが、積極的に他人を助けるようなことはどこか親切の押し売りというか単純にお節介に思える。実際それで痛い目も見てきたし、親切心もほどほどにというのが俺の流儀。
 そうしてその場を立ち去り、数分歩く。
 そうすると正面から美少女が駆けてきて、唐突に口を開いて言った。
「あのっ! この辺で金髪の美少女見ませんでしたか?」
「………………は?」
 いきなり何を言っているんだこの白いリボンのついた黒い帽子の美少女、ってさっき言っていたのはこの子か。
「ああ、見たけど」
「どこ! どこでみたの?」
 ぐいっと顔を近づけてくる。ちょ、やめて近い。美少女近い。
 そういえば中学時代、地理の先生が「最初にどこ? と訊く人は地理に向いている。いつ? と訊く人は歴史に向いている」とかそんなどうでもいいことを言っていたなぁ、なんてことを思い出す。本当にどうでもいい。
 しかし、どこと尋ねられても、あんな何の特徴もない場所を的確に言い表すのは難しい。そんな表現力があったら俺は今頃創想話で人気作家だ。
「え、いや、その、あっち?」
「もう! わかんないから、案内して!」
 ですよね。
 仕方なく俺は来た道を引き返す。
 そうして目的地にたどり着いたが、それらしい人影はない。リザードにでも進化してしまったのだろうか。
「ここ? ここにいたの?」
「まあ、十分くらい前に」
「どっちに行ったか分からない?」
「あー、そこまでは見なかったなぁ」
「うーん、どうしよう。……あっ、ご迷惑をおかけしました、案内してくれてありがとうございます」
 そういって礼儀正しく頭を下げられる。いえいえ。
 ――ふぅ、緊張した。これだから現実の美少女は困る。まともに目も見られたものじゃない。
 そうしてまた帰り道を数分――まあ何となく、そんな気はしていたんだけれど。目の前には金髪の美少女。
「あ、さっきの人。あの――」
「言ってた黒い帽子の美少女なら見たよ。というかさっき会った場所まで案内したところ」
「う、入れ違い……」
「というか、二人とも、あれ、携帯とか、持ってないの?」
「いえ、持ってはいるんですけど、今はちょっと使えなくて――」
 まあ普通に考えて電池切れとかか。そうでもなければそもそも困りはしない。
 しかし、どうしたものか。闇雲に動いてもまた入れ違いになるかも知れない。
「じゃあ、こうしよう。君、ここで待つ。俺、さっきの場所見てくる」
「え、でも――」
 ――迷惑じゃないかと、上目遣いに尋ねてくる。
 やめて美少女、こっちを見ないで!
 十分くらいで戻る、合流出来たなら俺を待たなくていいとだけカタコトの日本語で言い残してその場を後にする。
 美少女による緊張で俺の言語野はボロボロだ。
 そうして再度先ほどの場所に戻る途中で、黒い帽子の美少女を見つけた。
「いた」
「へ?」
「金髪、美少女、待ってる。こっち」
「え、何でそんなカタコト――」
 その質問には答えず、目的の場所へ向かう。不思議そうに美少女がついてくる。
「すみません、何だかつき合わせてしまって」
「いや全然、問題ないっす」
「えっと、私の方が年下なので、もっと楽に喋ってもらっても――」
 美少女相手に楽に喋る? 無理を言う。
 いやまあでも、何とかなるか。仕事していた頃を思い出せ。う……しにたい……。
「君たちは、大学生?」
「えっと、そうです」
 一瞬考えるような間があったが、肯定。
「じゃあ専門を当てよう。君は理系」
「あ、正解です。どうして分かったんですか?」
「いや、何となくだよ。五十パーセントだし、別に外しても問題ないから」
 とはいっても俺の大学の学部だと、女性は十一パーセントしかいなかったが。
「ああ……。それなら、理系の何かまで当てられますか?」
 隣を歩く美少女が、少し意地悪く笑った気がする。気がするというのはもちろん俺が相手の顔を見ていないからだ。駄目だこのコミュ障、早く何とかしないと。
「じゃあ、物理」
「えっ」
「え?」
「なんで分かるんですか? ……ストーカー?」
「ちゃ、ちゃうわ! ただの勘というか、俺の専門がそうだっただけで――」
「え、じゃあ統一場理論とか分かっちゃう人ですか?」
 統一場理論。世の中にある四つの力――電磁気力、強い力、弱い力、重力――を一つの方程式で統一的に記述しようとする試み。元々は電気と磁気も別々の方程式で記述されていたが、それはマクスウェルが統一した。電磁気力と弱い力を統一した電弱統一理論(ワインバーグ=サラム理論)は四十年以上前に発表されているが、これに強い力を含めた大統一理論は未だに陽子崩壊が実験で観測されていないため、現在緩やかに進行中だ。
 ――しかしすげーよな、カミオカンデの奴は。
 水をいっぱい入れたらその中のどれかの陽子が崩壊するはずだという思いつきで作られたのに陽子崩壊は観測できず、しかし運よく大マゼラン星雲でおきた超新星爆発で生じたニュートリノを世界で初めて検出してノーベル賞に繋げたんだぜ。
 少なくとも俺は小柴さん以上にセレンディピティに溢れた人間を知らない。
「細かい部分は全然だけど、大まかなところなら分からなくもない程度かな」
「今って、どのくらいまで研究進んでいるんですか?」
 今といわれても、俺が大学にいたのは何年も前だ。専門的に物理分野に触れることもなくなったし、知識の更新もたまにニュースで流れてくるのを目にする程度でしかない。だからヒッグス粒子が発見されたりとかは知っているけど、その程度だ。
「一年前に見つかった新しい粒子がヒッグス粒子だと確定したのが十月の話だから、今はまた新しい理論の構築や既存の問題の解決のために理論物理学者が動いている最中、ってところだと思う。統一場理論にしても、階層性問題を解かないと素粒子の世界では重力は無視できるくらい弱すぎてまともなやり方じゃ統一のしようがない。既存の超ひも理論やM理論、ブレーンワールドモデルなどの発展という話も特に聞かないし、その分野はここ数年革新的な進展はなかったんじゃないかな」
 ヒッグス粒子は見つかった。それなら超対称粒子も見つかるかもしれない。
 今は理論が正しいのか間違っているのか、それを検証している段階にある。
 多分、何か起こるとしたらこれからだ。
 しかし、ちょっと一人で喋りすぎてしまった気がする。これだからコミュ障は。
 まあでも「オウフwwwまあ拙者の場合物理とは言っても、いわゆる古典としての物理ではなくブレーンワールドとして見ているちょっと変わり者ですのでwwwリサ・ランドールの影響がですねwwwドプフォwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬wwwフォカヌポゥwww拙者これではまるでオタクみたいwww拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ」みたいなことになってはいないだろう……え、なってないよね?
「あー、じゃあ今って2014年あたりなんですか」
「…………?」
 何言ってんだこの美少女。
「あ、いや、その、別に私は未来の世界から迷い込んできた美少女とか、そういうわけではなくて」
「そらそうよ」
 変なことを言われすぎて、俺の言語野が岡田彰布みたいになってしまった。
 そのまま、どん語でいくつか物理学に関する会話をしていると、すぐに金髪の美少女が待つ場所へとたどり着いた。
「メリー!」
「蓮子! どこに行ってたのよ、まったく」
「ごめんごめん。でも怒ってるメリーもやっぱり美少女ね」
「何馬鹿なこと言ってるのよ――あ、すみませんでした。わざわざ探してきてもらったりして」
「いや、別に」
 そもそもは俺が勝手に探しにいくと言い出したはずで、これはまた俺の悪い癖というか、ただのお節介だ。
 黒い帽子の美少女が口を開く。
「あ、でも、本当に助かりました。……そうだ。お礼といっては何ですが、いいことを教えてあげます」
「いいこと?」
「はい。遠い未来にですけど、統一場理論は完成します。だから、あなた達の努力は無駄になりません。どんな些細なことでも、それは未来の世界で必ず役に立っています」
「…………それは、一体――」
「もう、鈍い人ですね。あなたにもセレンディピティはありますって話ですよ」
 余計に訳が分からなくなる。話の繋がりが全く見えてこない。
「多分蓮子は、夢は叶わないかも知れないけれど、そのための努力は別のところできっと役に立つから、無駄だと思わず頑張ってください、って話をしているんだと思います。……でしょ?」
「まあ、そうね」
「………………」
 何だか分からないが、どうやら俺は応援されているらしい。
 しかしただ通りすがりの、素性も知れぬ俺の、一体何を応援しているというのだろうか。
「蓮子、そろそろ行かないとせっかく見つけた結界が閉じちゃうわ――」
「やば、元の世界に帰れなくなったら大変……というわけで、今日はありがとうございました。じゃあメリー、行こうか」
 そういうと二人は丁寧に頭を下げて、去っていった。
 なんというか、変わった二人組だった。まるで俺には見えていないものが見えているかのような。
 ――しかし、セレンディピティか。
 セレンディピティとは、何かを探しているときに、探しているものとは別の価値あるものを見つける才能を指す。偶発的なひらめき、あるいは幸運を掴み取る力。
 そんなものが、本当に俺の中にはあるのだろうか。
 もちろんそんなことは考えても分からない。
 しかし、そうであるならこそ、俺は信じてみてもいいのかも知れない。
 彼女たちが応援するに値する、俺という人間のことを。







 そんな感じの痛々しいことを考えながら帰路について、処方箋を持って薬局に行ったわけです。そうすると薬局のお姉さんが、「明日から薬の値段も上がるんですよ」って言いまして。ついでに病院の初診料や診察料、検査費用なんかも上がるみたいな話をされて、すごくげんなりして、家に帰ったわけです。
 ――すごいよな、消費税って奴は。
 もともと100円の缶ジュースが消費税3%になったので切り上げで110円になったのに、5%になったときは120円にしてきたんだぜ。
 わけがわからないよ。


ところで8%でどうなるんですかね、缶ジュースの値段。
鈴木々々
http://twitter.com/kiki_suzuki_29
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コメント



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2.12345678キリ番ゲット!(核笑)削除
俺はそれよりセブンイレブンのコーヒー、あの挽いて淹れるやつ。あれの価格変動が気になる
3.12345678飛び入り魚削除
>俺の言語野が岡田彰布
こんな表現できるのに表現力乏しいわけないだろいい加減にしろ!
普通にSSとして面白かったです
6.12345678さとしお削除
面白かった