天子がこの日姿を消したのは、あまりにも分かりやすい理由からだった。
『今年の四月馬鹿は絶対まな板ネタが大量投下される』
通常のクーリエではあまり好ましく思われないこの手の流行ネタだが今日に限っては別だ。
お祭り騒ぎ、無礼講。羽目をはずした大馬鹿者共の自重知らずのネタ爆撃。
祭りはいいのだ。天子は楽しみに飢えているからそれを満たしてくれる祭りは大好きなのだ。
問題はその内容だ。流石にまな板ネタで丸一日いぢり倒されて終わるのは嫌だ。マゾだろうが嫌だ。
逃げて、逃げて、逃げて。
天子がたどり着いたのは、海だった。
「あれ? 幻想郷に海は無かったはずじゃ……」
天界には雲海というものがあるものの、それはまた別のものであり本当の海を知る者は幻想郷でも限られている。
紅魔のメイドがそうらしいが、今の天子には興味のない話だった。
「ま、じっとしててもしょうがないか」
宛もなくぶらぶらと歩き始めると、小さな港が見えてきた。どうも何やらドンパチ騒がしい。
よく見ると、何かが爆発し大きな弾が飛び交っているようだ。ちらほら式神のような物も見える。
「お、何だか楽しそう。ちょっと見物してみようかなっと」
要石を出し、その上に乗ってふわりと浮き天子はさらに近づいてみた。
すると一人の少女が必死に逃げまわっているではないか。
ツインテールに赤い服、そして式神が大量に張り付いている巻物のようなアイテムが目を引く。
後は河童の工房で見かけるようなからくりのようなものを身に纏っているのが印象的だ。
「義を見てせざるは勇なきなり。たまには天人らしく、人助けでもしてあげますか」
少女は必死だった。今日だけは、今日という一日だけはなんとしても逃げなくてはならない。
もし捕まれば、あのネタでいぢり倒されるのがオチだ。漫才は好きだが、それは見て楽しむ立場での話である。
自分がネタにされるのはいただけない。非常にいただけない。
「くっ……あかん。艦載機も尽きてしもた……。やっぱ赤城や加賀みたいにはいかんなぁ…。はは…」
がくっと膝を付く少女めがけて、無数の砲弾が飛んできた。先端には捕獲用の網が取り付けられているようだ。
ここまでか、と少女が観念し、目を瞑った次の瞬間である。
突如、少女の周囲に無数の筍が現れ旋回しはじめた。
「…………は?」
いや、よく見ると筍ではなく変わった形状の石である。
いつも戦ってきた空母ヲ級が飛ばす艦載機とは明らかに形状が違う。
訝しむ少女の周囲をしばらく旋回していた石の筍だが、砲弾が接近した瞬間赤い光線を発射し、それを的確に撃ちぬいた。
ボンボンボンと威勢のよい爆発音が響き渡る。
「な、なんやこれ。一体誰がこんな……」
「そんな事を気にする暇があったら、こっちに来た方がいいんじゃない?」
「へ?」
突如空から降ってきた聞き覚えの無い声に少女が振り向くと、見慣れぬ少女がこれまた変わった岩の上に仁王立ちしていた。
桃をつけた妙な帽子に青い紙、どこか異国の雰囲気を醸し出す変わった服装、そして如何にも怪しい剣っぽい何か。
どうみても自分達と同じ系統の存在ではない。
「な、なんやお前は。なんでうちを助けたん?」
「なんとなくよ。たまたま通りかかってたまたま見かけたからね。それに、なんとなくだけど貴女の逃げてる理由、理解できるから」
「理由……。………はっ」
少女は凝視した。天子のある一点を。
平だった。
そして天子も見返した。少女のある一点を。
平だった。
無言で二人は互いに歩み寄った。そして顔を合わせ、一呼吸入れてから、抱き合った。
言葉はいらなかった。双方の眼からこぼれ落ちる液体が全てだった。
邂逅編終了
『今年の四月馬鹿は絶対まな板ネタが大量投下される』
通常のクーリエではあまり好ましく思われないこの手の流行ネタだが今日に限っては別だ。
お祭り騒ぎ、無礼講。羽目をはずした大馬鹿者共の自重知らずのネタ爆撃。
祭りはいいのだ。天子は楽しみに飢えているからそれを満たしてくれる祭りは大好きなのだ。
問題はその内容だ。流石にまな板ネタで丸一日いぢり倒されて終わるのは嫌だ。マゾだろうが嫌だ。
逃げて、逃げて、逃げて。
天子がたどり着いたのは、海だった。
「あれ? 幻想郷に海は無かったはずじゃ……」
天界には雲海というものがあるものの、それはまた別のものであり本当の海を知る者は幻想郷でも限られている。
紅魔のメイドがそうらしいが、今の天子には興味のない話だった。
「ま、じっとしててもしょうがないか」
宛もなくぶらぶらと歩き始めると、小さな港が見えてきた。どうも何やらドンパチ騒がしい。
よく見ると、何かが爆発し大きな弾が飛び交っているようだ。ちらほら式神のような物も見える。
「お、何だか楽しそう。ちょっと見物してみようかなっと」
要石を出し、その上に乗ってふわりと浮き天子はさらに近づいてみた。
すると一人の少女が必死に逃げまわっているではないか。
ツインテールに赤い服、そして式神が大量に張り付いている巻物のようなアイテムが目を引く。
後は河童の工房で見かけるようなからくりのようなものを身に纏っているのが印象的だ。
「義を見てせざるは勇なきなり。たまには天人らしく、人助けでもしてあげますか」
少女は必死だった。今日だけは、今日という一日だけはなんとしても逃げなくてはならない。
もし捕まれば、あのネタでいぢり倒されるのがオチだ。漫才は好きだが、それは見て楽しむ立場での話である。
自分がネタにされるのはいただけない。非常にいただけない。
「くっ……あかん。艦載機も尽きてしもた……。やっぱ赤城や加賀みたいにはいかんなぁ…。はは…」
がくっと膝を付く少女めがけて、無数の砲弾が飛んできた。先端には捕獲用の網が取り付けられているようだ。
ここまでか、と少女が観念し、目を瞑った次の瞬間である。
突如、少女の周囲に無数の筍が現れ旋回しはじめた。
「…………は?」
いや、よく見ると筍ではなく変わった形状の石である。
いつも戦ってきた空母ヲ級が飛ばす艦載機とは明らかに形状が違う。
訝しむ少女の周囲をしばらく旋回していた石の筍だが、砲弾が接近した瞬間赤い光線を発射し、それを的確に撃ちぬいた。
ボンボンボンと威勢のよい爆発音が響き渡る。
「な、なんやこれ。一体誰がこんな……」
「そんな事を気にする暇があったら、こっちに来た方がいいんじゃない?」
「へ?」
突如空から降ってきた聞き覚えの無い声に少女が振り向くと、見慣れぬ少女がこれまた変わった岩の上に仁王立ちしていた。
桃をつけた妙な帽子に青い紙、どこか異国の雰囲気を醸し出す変わった服装、そして如何にも怪しい剣っぽい何か。
どうみても自分達と同じ系統の存在ではない。
「な、なんやお前は。なんでうちを助けたん?」
「なんとなくよ。たまたま通りかかってたまたま見かけたからね。それに、なんとなくだけど貴女の逃げてる理由、理解できるから」
「理由……。………はっ」
少女は凝視した。天子のある一点を。
平だった。
そして天子も見返した。少女のある一点を。
平だった。
無言で二人は互いに歩み寄った。そして顔を合わせ、一呼吸入れてから、抱き合った。
言葉はいらなかった。双方の眼からこぼれ落ちる液体が全てだった。
邂逅編終了