今、幽香はとても機嫌が悪い。
何故分かるのかって? それはまあ付き合いの長さとかなんとか、色々と、ね。
機嫌が悪い時の幽香は、基本的に無言だ。冷めた目つきで黙々と水やりしたり、ゴミを片付けたりしてる。
正直言って、怖い。あまり見ていたくない。ここにいるだけで胃がピリピリしてくる。
ああ、何故私はこんなところにいるんだろう。
ぼんやりと窓の外を見やると、ひらひら舞う蝶々が一匹二匹。
いいなぁ君達は。こんな春のぽかぽか陽気に空を飛び回れるなんて至福の時間だろう。
私もできるならそうしたいよ……。
耳をすませば、ほら、楽しそうな蝶々達の会話が聞こえてくる。
『私が町長です』『いいえ、貴方は班長です』
………。蝶々の会話が支離滅裂なのはいつもの事だから気にしない。あれで意思疎通できているのが不思議だけど。
と、そんな事を考えていたら急にぐわっと体が宙に浮き上がった。
「わわっ」
どうやら幽香に持ち上げられたらしい。ジタバタしても元より力の差は歴然。
悲しいかな、虫の王なんて肩書を持っていても筋力妖力その他諸々のパロメータは下から数えた方が早いランクな私じゃどうにもできない。
きっとこの次はポイッと蜜柑の皮みたいに投げ捨てられるかもしくは思いっきり蹴り飛ばされるかだ。
どちらかといえば後者の方がまだマシ。投げられると受け身取れないの、私。
こんな風に私が覚悟を決めてブルブル震えていると、幽香がふぅ…と溜息をついた。
「…?」
恐る恐る顔を向けてみると、そこには幽香の呆れ半分面白半分な顔があった。
あれ、さっきまで機嫌悪かったのに、どうしてこんな顔してるんだろう。
真面目に首をかしげる私を持ち上げたまま、幽香は部屋の真ん中にあるランニングソファに腰を下ろした。
そして何故か、私を膝の上に載せた。
「え? あの、ゆう―…」
いきなり、ぎゅっと抱きしめられた。強く、でもとても優しい抱きしめ方。
私は幽香がこんな感じに抱きしめる相手なんて、ぬいぐるみ以外知らない。
「ど、どうしたの幽香。私はぬいぐるみじゃないよ? そんなに柔らかくないし…」
しどろもどろしながら幽香に告げる。自分でもはっきり照れているのが分かるくらい顔が熱い。
幽香はすぐには答えず、しばらく私を抱きしめたままゆらりゆらりと椅子を揺らした。
そして、
「リグル、貴女今日一日、私の抱き枕ね。異論は認めないから」
「え、え、ええっ! ちょ、どうしてさ! せめて理由くらい教えてよーっ!」
「い、や。お断りよ。これで私の機嫌が治るんだから安いものでしょ? 感謝しなさい」
「そ、そんなぁ」
いつもの幽香らしい、自分一番で我儘な言い分。だけどその口調はとても楽しそうだった。
反論しても無意味と悟った私は、諦めて幽香に身を預けることにした。
たまに頭を撫でられたり、ほっぺを摘まれたり。まるで人形みたいな扱いだけど、不思議とそこまで嫌じゃなかったりする。
私は知っている。こういう時の幽香はすごく機嫌がいい。
そして、私が知っている誰よりも一番可愛いんだ。
ちなみに幽香の機嫌が悪かった理由は、静電気がなかなか取れなくてイライラしてたんだとか。……なんだかなぁ。
何故分かるのかって? それはまあ付き合いの長さとかなんとか、色々と、ね。
機嫌が悪い時の幽香は、基本的に無言だ。冷めた目つきで黙々と水やりしたり、ゴミを片付けたりしてる。
正直言って、怖い。あまり見ていたくない。ここにいるだけで胃がピリピリしてくる。
ああ、何故私はこんなところにいるんだろう。
ぼんやりと窓の外を見やると、ひらひら舞う蝶々が一匹二匹。
いいなぁ君達は。こんな春のぽかぽか陽気に空を飛び回れるなんて至福の時間だろう。
私もできるならそうしたいよ……。
耳をすませば、ほら、楽しそうな蝶々達の会話が聞こえてくる。
『私が町長です』『いいえ、貴方は班長です』
………。蝶々の会話が支離滅裂なのはいつもの事だから気にしない。あれで意思疎通できているのが不思議だけど。
と、そんな事を考えていたら急にぐわっと体が宙に浮き上がった。
「わわっ」
どうやら幽香に持ち上げられたらしい。ジタバタしても元より力の差は歴然。
悲しいかな、虫の王なんて肩書を持っていても筋力妖力その他諸々のパロメータは下から数えた方が早いランクな私じゃどうにもできない。
きっとこの次はポイッと蜜柑の皮みたいに投げ捨てられるかもしくは思いっきり蹴り飛ばされるかだ。
どちらかといえば後者の方がまだマシ。投げられると受け身取れないの、私。
こんな風に私が覚悟を決めてブルブル震えていると、幽香がふぅ…と溜息をついた。
「…?」
恐る恐る顔を向けてみると、そこには幽香の呆れ半分面白半分な顔があった。
あれ、さっきまで機嫌悪かったのに、どうしてこんな顔してるんだろう。
真面目に首をかしげる私を持ち上げたまま、幽香は部屋の真ん中にあるランニングソファに腰を下ろした。
そして何故か、私を膝の上に載せた。
「え? あの、ゆう―…」
いきなり、ぎゅっと抱きしめられた。強く、でもとても優しい抱きしめ方。
私は幽香がこんな感じに抱きしめる相手なんて、ぬいぐるみ以外知らない。
「ど、どうしたの幽香。私はぬいぐるみじゃないよ? そんなに柔らかくないし…」
しどろもどろしながら幽香に告げる。自分でもはっきり照れているのが分かるくらい顔が熱い。
幽香はすぐには答えず、しばらく私を抱きしめたままゆらりゆらりと椅子を揺らした。
そして、
「リグル、貴女今日一日、私の抱き枕ね。異論は認めないから」
「え、え、ええっ! ちょ、どうしてさ! せめて理由くらい教えてよーっ!」
「い、や。お断りよ。これで私の機嫌が治るんだから安いものでしょ? 感謝しなさい」
「そ、そんなぁ」
いつもの幽香らしい、自分一番で我儘な言い分。だけどその口調はとても楽しそうだった。
反論しても無意味と悟った私は、諦めて幽香に身を預けることにした。
たまに頭を撫でられたり、ほっぺを摘まれたり。まるで人形みたいな扱いだけど、不思議とそこまで嫌じゃなかったりする。
私は知っている。こういう時の幽香はすごく機嫌がいい。
そして、私が知っている誰よりも一番可愛いんだ。
ちなみに幽香の機嫌が悪かった理由は、静電気がなかなか取れなくてイライラしてたんだとか。……なんだかなぁ。
大変美味しくいただきました。