秋田書店刊 少年チャンピオン・コミックス・エクストラ
『バキ外伝 創面-きずづら-』 (板垣恵介・山内雪奈生)より
********************
『東方プロジェクト』稀代のニート
フランドール・スカーレット。
何もしない。
努めて何もしない。
あまりに強く
生まれてしまった故
自らに強制る戒めとして
勝つための努力を断ち
持って生まれた
肉体で、狂気で、鉄拳で、
生のままに戦う少女がいた。
そんな少女の 若き青春の時代……!
フランドール・スカーレット495歳。
学び舎に――――――立つ!!!
紅魔郷外伝 レミフラ
********************
[第百三十季 如月の二十
2月20日 紅魔館]
フランドールが、魔法少女と呼ばれたあの時代……
「やっぱこれだよ……」
紅魔館外苑。湖畔の一角に、妖精たちが集まっている。
「初弾、十分儀型撃ち降ろし弾」
中心にいるのは、湖上の妖精・チルノであった。彼女は己のスペルカードを、今日も仲間に披歴している。
「次いでスリーバイスリー自機狙いレーザー……ハハ、無敵だわ」
彼女はここいらでは最も顔の知れたプレイヤーだ。周りの妖精たちは、弾幕をするために集まっていた。
「通常弾幕が明けたら間髪入れずにスペルカードを宣言」
左様、このように、望む者に弾幕を、願うものに挑戦を与えるサロン……あるいは、ハッテン場。
「アイシクルフォール! ってね。このこだわりが大事なところよ」
そういった場所は、いまやこの幻想郷には溢れているのだった。ここもそのひとつだ。
「裏面はパーソナルカラーの青」
得意げに、チルノが己のカードを掲げた。付き合いの長い妖精が、苦笑いで相槌を打つ。
「4色のランダム小球、二の矢にはさらに、三連にも及ぶ8WAY弾」
それが、彼女のスペルカード。
凍符「パーフェクトフリーズ」の、有様である。
「大ちゃん! 女はやっぱランダム弾幕だって!」
「おっしゃる通りで」
しかしこの時、良い気分になったチルノの背後に見慣れない影が迫っていた。
「……?」
ざわつく周囲の妖精を見たチルノが振り返る。
「!」
そこにいたのは誰であろう、我らが悪魔の妹、
「フッ……フッフランドール・スカーレット(さん)! 紅魔郷の頂点の妹ッ!?」
「オウ……妖精さん」
「お品は仕上がっております」
狼狽するチルノを傍目に、チルノとよくつるむ年長の妖精がフランドールのスペルカードを取り出す。
「オ~~~~~ッッッ! 禁符ゥゥゥ!!!」
「デコ素材は通常の10倍になったけど」
妖精がフランドールに差し出したのは、禁忌「フォーオブアカインド」。技巧派といわれるフランドールにしてはランダム要素に頼ったところの大きいスペルカードなのだが、その札はいま無数のグラスストーン、アルファベットチャーム、レッドビーズらでデコレーションされていた。何を隠そう、スペルカードへのデコレーションはいまや幻想郷弾幕女子の嗜み。この妖精はその道の大家なのだった。
装飾のためずっしりと重量を持ったスペルカードが、フランの手に渡る。
「EXボスの娘が持つ場合……やっぱりキラキラ系がよろしゅうございますね」
「いい出来だ」
満足したらしいフランドールは、手のひらでスペルカードを弄びながら、日傘をさして歩き去って行った。
「あー。あのー」
残ったのはチルノと妖精である。
「ついでに……コレも」
そういって、チルノもまた己のスペルカードを差し出した。
「ハイッ キラキラ系でございますね♪」
********************
[1時限目
フランドール・スカーレット495歳]
稗田阿求のもとを博麗 霊夢が訪れるのは、何か月ぶりになるだろうか。
保安官、あるいは幻想郷のレンジャーとして働く彼女の業務は多岐に渡る。しかしながら治安が安定し、人も妖怪も別たず接触と取引が日常的に行われる基盤が完成したこの人里の中では、彼女に求められる役割はせいぜいが暴力装置として君臨することくらいだ。人妖間に必要な調整役には遥かに向いている人物がいる。ゆえによって、このように、たかだが公共教育機関に保安官が訪れるというのは、それだけでなにか剣呑な事態が進行していることを示していた。
「これがなにかわかる?」
そう言ってソファの上に正座し粗茶など飲みながら、対面にどっかりと座る阿求に対して霊夢が差し出したのは、1枚のスペルカードであった。
「……エクストラ……ボス?」
「フランドールの、スペルカードよ」
「えっと、どういうことなんです?」
「こちら上白沢小学校で最近……ひとりの生徒を転入させてるわよね」
しばらく阿求は思い出すそぶりをしたが、彼女は稗田、すぐに思い出した。
「ああ……そいうことですか。小学校に霊夢さんが来る理由、やっと理解しましたよ。フランドール・スカーレットのことですね?」
霊夢は黙って阿求を睨む。状況が理解できているのかいないのか値踏みしていた。
「はは……フランドール・スカーレット495歳。大変な吸血鬼らしいですな。つまり、あの娘はエクストラ並みにキケンだと……」
なおも霊夢は相貌を崩さない。対し、したり顔になった阿求が滔々と述べ始めた。
「お気遣いいたみ入ります。しかし我が校は8年程度の新学校。どうもひ弱なイメージにみられがちなのですが、もう一つの側面……頭突きの厳格さ。これが我が校の伝統なのです」
いつの間にか霊夢はずるずると緑茶をすすりながらテーブル上の合子に入っていた菓子をばくばくもりもり食べまくってあまつさえポケットにいれて持ち帰ろうとしていた。阿求は続ける。
「ご職業柄ですかな、お疑いでらっしゃる。霊夢さん……青白き半妖の教師。それだけでは宿題の締め切りを守れません。確かな"頭突き"の裏付け。これも隠れた伝統でして」
合子を空にした霊夢が同じく空になった湯呑をテーブルに置いて、再び口を開いた。
「不良生徒はいる?」
「そりゃまあ、妖精ですから。悪ガキどもだらけですよ」
「その子たちと、フランドールの接触にはくれぐれも注意してちょうだい」
「心配には及びませんよ。"イタズラ"には特に厳しく目を光らせてます。それにですね、霊夢さん。自慢にもなりませんが。我が校の妖精なんて、周辺の妖怪どもに比べたら……まったく可愛いもので――」
などと阿求と霊夢がひざを突き合わせる同時刻。
停学明けのサニー・ミルクは、学校最寄駅に重役出勤で到着していた。驚いたのはメイド姿の妖精が、彼女が出てくるのを列をなして待っていたからだ。赤絨毯なども敷かれていて、必然的にその上を歩かされる。
「……なワケねーだろ……」
彼女は教員・上白沢 慧音のスカートをめくったりパンツを脱がせたりするイタズラを敢行し3日ばかりの停学を喰らっていた。3日ぶりにやれやれと投稿してみたらこの有様である。赤じゅうたんの先にはハイヤーが控えていた。乗らざるを得ない。
「誰と勘違いしてんの……? 紅魔館のエクストラメイドばかりじゃん……!」
とにかく、ここはトボケ切らなければならない。ただの妖精だとワカったが最後、瞬ピチュは疑いの余地もない。
「オスッッ」
「!」
「どうぞ! 料金は済んでます!」
「よっこい正直者の死」←タクシーに乗る音
「サニーさんを上白沢小学校まで!」
「!!」
「ウォォォッス!!!」
覇気ある声に押し出されるようにサニーを乗せたハイヤーは出発した。
「し……知ってんだ……」
車内には呆然するサニーが残る。
「私が私だってこと……知ってんだ……」
して再び、阿求と霊夢である。
「解ってないわね」
テーブル上のスペルカードをこつこつと叩きながら霊夢が阿求に迫る。
「このスペカを見せた意味。滑稽なほど理解していない」
困ったのは阿求である。どうもこうもないではないか。
「あんたらは、エクストラボスを転入させたのよ」
それより、少し前。
上白沢小学校の1クラスでカンパが募られていた。
ルナ・チャイルドとスター・スクリームが下級生からお菓子やら春度やら物珍しいアレコレをかっぱいでゆく。
「早い者勝ちだよォー」
「サニーさんの出所祝いだよォー」
「ご協力よろしくねー」
「点[P]はダメよォー」
「出所祝……」
ルナの視点が止まった。その先には、
「見ろよ……デ、デカいな……」
そこには椅子に大股開いて座りこみ、船をこぐフランドールがいた。
「これで……1年かよ……」
「へっ」
スター・スクレイパーがしり込みする。だがルナは構わず、フランドールのさしていた日傘を取り上げた。
「おいッ寝トボけてんじゃ……ねェよ、このイチネンッ!」
ぬらりと目を覚ましたフランドールが二人を見やる。
「ん……」
圧倒されていた。二人とも。ルナは速攻で逃げ出す体勢を整えていた。
「カン……パ」
そう言ってさかさまにしたルナのZUN帽を見せるスター・ゲイザー。中にはもろもろのカンパが入っている。
「カンパ……」
立ち上がったフランドール。
その身長は大して変わらないのに、やたらでっかく見えた。
「なんのカンパだ……」
「サニーの出所……」
「やめろってッ!」
ぬぅお……ぉお おぉ お……(立ち上がる音)
「イヤいいからッ! 気にせんでいいからッ!」
「出所かァ……」
「イヤッ」
ZUNと思い手ごたえがスター・オーシャンの手にかかる。帽子の中には鰐革の財布がそのまま突っ込まれていた。100万カリスマは下らない現金が詰まっている。
「すまねェ……あいにく持ち合わせがそれだけだ」
「……!」
「サニーさんにはよろしく伝えてくれ」
かくして、サニーはハイヤーなどで迎えられることとなったのである。
登校してきたサニーはいつも通り体育倉庫で二人と落ち合った。財布の中身を改め、そして1枚のスペルカードを見つける。
『禁符「フォーオブアカインド」』
持つ手は震度5強で震えていた。
「こっ こっ この方は何組だァ~~~~~ッッ!」
もはやピチュりそうな勢いである。
「いや……紅魔組?」
「ン バカッ」
べちっとスターオーシャンの顔面にパンチを入れるサニー。
「てめェらもスペルカードやってんなら、名前くらい覚えとけッッ」
サニーは走り出した。
「繋がった……」
その脳はフル回転。今朝方起こった奇跡のワケが、ようやく彼女にも解ったのだ。
「hyらんぉー!!」
奇声と共に教室に飛び込む! いない!
左右を見渡す! 走る!
いた! 上白沢慧音立像の前だ!
「すんませんッ」
DOGEZAである!
「知らぬこととはいえ、取り返しのつかねェマチガイをッ!」
繰り返すが、DOGEZAである!
「サニーさん。頭ァあげてくれ」
「いえいえいえいえッ」
足元に差し出された財布をまえに、フランドールもまた膝を地に乗せた。
「一度出したカリスマだ……受け取れねェよ……」
サニーが顔を上げる。
「無期停学の満期も……出所も同じよなもんじゃねェか……」
後ろ姿でフランドールは続けた。
「それともう一つ、サニーさん。こういった挨拶は、今回限りにしてくれ」
人にも、妖怪にも、妖精にも、もろもろにも。
等しく手を差し伸べる上白沢慧音立像は、黄銅製である。つまりは……フランドールの手をとれるくらいには、柔らかい。
「私は今、この人のもとに草鞋を脱いでいる」
……霊夢は一向に理解しない阿求に、ひとことだけ残して去った。
「校内に猛獣がいることッ! ……忘れるんじゃないわよ」
一方、フランドールは冷たい手を握る。
「ごく普通の。善良な学生として生きてゆくんだ」
続かない。
『バキ外伝 創面-きずづら-』 (板垣恵介・山内雪奈生)より
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『東方プロジェクト』稀代のニート
フランドール・スカーレット。
何もしない。
努めて何もしない。
あまりに強く
生まれてしまった故
自らに強制る戒めとして
勝つための努力を断ち
持って生まれた
肉体で、狂気で、鉄拳で、
生のままに戦う少女がいた。
そんな少女の 若き青春の時代……!
フランドール・スカーレット495歳。
学び舎に――――――立つ!!!
紅魔郷外伝 レミフラ
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[第百三十季 如月の二十
2月20日 紅魔館]
フランドールが、魔法少女と呼ばれたあの時代……
「やっぱこれだよ……」
紅魔館外苑。湖畔の一角に、妖精たちが集まっている。
「初弾、十分儀型撃ち降ろし弾」
中心にいるのは、湖上の妖精・チルノであった。彼女は己のスペルカードを、今日も仲間に披歴している。
「次いでスリーバイスリー自機狙いレーザー……ハハ、無敵だわ」
彼女はここいらでは最も顔の知れたプレイヤーだ。周りの妖精たちは、弾幕をするために集まっていた。
「通常弾幕が明けたら間髪入れずにスペルカードを宣言」
左様、このように、望む者に弾幕を、願うものに挑戦を与えるサロン……あるいは、ハッテン場。
「アイシクルフォール! ってね。このこだわりが大事なところよ」
そういった場所は、いまやこの幻想郷には溢れているのだった。ここもそのひとつだ。
「裏面はパーソナルカラーの青」
得意げに、チルノが己のカードを掲げた。付き合いの長い妖精が、苦笑いで相槌を打つ。
「4色のランダム小球、二の矢にはさらに、三連にも及ぶ8WAY弾」
それが、彼女のスペルカード。
凍符「パーフェクトフリーズ」の、有様である。
「大ちゃん! 女はやっぱランダム弾幕だって!」
「おっしゃる通りで」
しかしこの時、良い気分になったチルノの背後に見慣れない影が迫っていた。
「……?」
ざわつく周囲の妖精を見たチルノが振り返る。
「!」
そこにいたのは誰であろう、我らが悪魔の妹、
「フッ……フッフランドール・スカーレット(さん)! 紅魔郷の頂点の妹ッ!?」
「オウ……妖精さん」
「お品は仕上がっております」
狼狽するチルノを傍目に、チルノとよくつるむ年長の妖精がフランドールのスペルカードを取り出す。
「オ~~~~~ッッッ! 禁符ゥゥゥ!!!」
「デコ素材は通常の10倍になったけど」
妖精がフランドールに差し出したのは、禁忌「フォーオブアカインド」。技巧派といわれるフランドールにしてはランダム要素に頼ったところの大きいスペルカードなのだが、その札はいま無数のグラスストーン、アルファベットチャーム、レッドビーズらでデコレーションされていた。何を隠そう、スペルカードへのデコレーションはいまや幻想郷弾幕女子の嗜み。この妖精はその道の大家なのだった。
装飾のためずっしりと重量を持ったスペルカードが、フランの手に渡る。
「EXボスの娘が持つ場合……やっぱりキラキラ系がよろしゅうございますね」
「いい出来だ」
満足したらしいフランドールは、手のひらでスペルカードを弄びながら、日傘をさして歩き去って行った。
「あー。あのー」
残ったのはチルノと妖精である。
「ついでに……コレも」
そういって、チルノもまた己のスペルカードを差し出した。
「ハイッ キラキラ系でございますね♪」
********************
[1時限目
フランドール・スカーレット495歳]
稗田阿求のもとを博麗 霊夢が訪れるのは、何か月ぶりになるだろうか。
保安官、あるいは幻想郷のレンジャーとして働く彼女の業務は多岐に渡る。しかしながら治安が安定し、人も妖怪も別たず接触と取引が日常的に行われる基盤が完成したこの人里の中では、彼女に求められる役割はせいぜいが暴力装置として君臨することくらいだ。人妖間に必要な調整役には遥かに向いている人物がいる。ゆえによって、このように、たかだが公共教育機関に保安官が訪れるというのは、それだけでなにか剣呑な事態が進行していることを示していた。
「これがなにかわかる?」
そう言ってソファの上に正座し粗茶など飲みながら、対面にどっかりと座る阿求に対して霊夢が差し出したのは、1枚のスペルカードであった。
「……エクストラ……ボス?」
「フランドールの、スペルカードよ」
「えっと、どういうことなんです?」
「こちら上白沢小学校で最近……ひとりの生徒を転入させてるわよね」
しばらく阿求は思い出すそぶりをしたが、彼女は稗田、すぐに思い出した。
「ああ……そいうことですか。小学校に霊夢さんが来る理由、やっと理解しましたよ。フランドール・スカーレットのことですね?」
霊夢は黙って阿求を睨む。状況が理解できているのかいないのか値踏みしていた。
「はは……フランドール・スカーレット495歳。大変な吸血鬼らしいですな。つまり、あの娘はエクストラ並みにキケンだと……」
なおも霊夢は相貌を崩さない。対し、したり顔になった阿求が滔々と述べ始めた。
「お気遣いいたみ入ります。しかし我が校は8年程度の新学校。どうもひ弱なイメージにみられがちなのですが、もう一つの側面……頭突きの厳格さ。これが我が校の伝統なのです」
いつの間にか霊夢はずるずると緑茶をすすりながらテーブル上の合子に入っていた菓子をばくばくもりもり食べまくってあまつさえポケットにいれて持ち帰ろうとしていた。阿求は続ける。
「ご職業柄ですかな、お疑いでらっしゃる。霊夢さん……青白き半妖の教師。それだけでは宿題の締め切りを守れません。確かな"頭突き"の裏付け。これも隠れた伝統でして」
合子を空にした霊夢が同じく空になった湯呑をテーブルに置いて、再び口を開いた。
「不良生徒はいる?」
「そりゃまあ、妖精ですから。悪ガキどもだらけですよ」
「その子たちと、フランドールの接触にはくれぐれも注意してちょうだい」
「心配には及びませんよ。"イタズラ"には特に厳しく目を光らせてます。それにですね、霊夢さん。自慢にもなりませんが。我が校の妖精なんて、周辺の妖怪どもに比べたら……まったく可愛いもので――」
などと阿求と霊夢がひざを突き合わせる同時刻。
停学明けのサニー・ミルクは、学校最寄駅に重役出勤で到着していた。驚いたのはメイド姿の妖精が、彼女が出てくるのを列をなして待っていたからだ。赤絨毯なども敷かれていて、必然的にその上を歩かされる。
「……なワケねーだろ……」
彼女は教員・上白沢 慧音のスカートをめくったりパンツを脱がせたりするイタズラを敢行し3日ばかりの停学を喰らっていた。3日ぶりにやれやれと投稿してみたらこの有様である。赤じゅうたんの先にはハイヤーが控えていた。乗らざるを得ない。
「誰と勘違いしてんの……? 紅魔館のエクストラメイドばかりじゃん……!」
とにかく、ここはトボケ切らなければならない。ただの妖精だとワカったが最後、瞬ピチュは疑いの余地もない。
「オスッッ」
「!」
「どうぞ! 料金は済んでます!」
「よっこい正直者の死」←タクシーに乗る音
「サニーさんを上白沢小学校まで!」
「!!」
「ウォォォッス!!!」
覇気ある声に押し出されるようにサニーを乗せたハイヤーは出発した。
「し……知ってんだ……」
車内には呆然するサニーが残る。
「私が私だってこと……知ってんだ……」
して再び、阿求と霊夢である。
「解ってないわね」
テーブル上のスペルカードをこつこつと叩きながら霊夢が阿求に迫る。
「このスペカを見せた意味。滑稽なほど理解していない」
困ったのは阿求である。どうもこうもないではないか。
「あんたらは、エクストラボスを転入させたのよ」
それより、少し前。
上白沢小学校の1クラスでカンパが募られていた。
ルナ・チャイルドとスター・スクリームが下級生からお菓子やら春度やら物珍しいアレコレをかっぱいでゆく。
「早い者勝ちだよォー」
「サニーさんの出所祝いだよォー」
「ご協力よろしくねー」
「点[P]はダメよォー」
「出所祝……」
ルナの視点が止まった。その先には、
「見ろよ……デ、デカいな……」
そこには椅子に大股開いて座りこみ、船をこぐフランドールがいた。
「これで……1年かよ……」
「へっ」
スター・スクレイパーがしり込みする。だがルナは構わず、フランドールのさしていた日傘を取り上げた。
「おいッ寝トボけてんじゃ……ねェよ、このイチネンッ!」
ぬらりと目を覚ましたフランドールが二人を見やる。
「ん……」
圧倒されていた。二人とも。ルナは速攻で逃げ出す体勢を整えていた。
「カン……パ」
そう言ってさかさまにしたルナのZUN帽を見せるスター・ゲイザー。中にはもろもろのカンパが入っている。
「カンパ……」
立ち上がったフランドール。
その身長は大して変わらないのに、やたらでっかく見えた。
「なんのカンパだ……」
「サニーの出所……」
「やめろってッ!」
ぬぅお……ぉお おぉ お……(立ち上がる音)
「イヤいいからッ! 気にせんでいいからッ!」
「出所かァ……」
「イヤッ」
ZUNと思い手ごたえがスター・オーシャンの手にかかる。帽子の中には鰐革の財布がそのまま突っ込まれていた。100万カリスマは下らない現金が詰まっている。
「すまねェ……あいにく持ち合わせがそれだけだ」
「……!」
「サニーさんにはよろしく伝えてくれ」
かくして、サニーはハイヤーなどで迎えられることとなったのである。
登校してきたサニーはいつも通り体育倉庫で二人と落ち合った。財布の中身を改め、そして1枚のスペルカードを見つける。
『禁符「フォーオブアカインド」』
持つ手は震度5強で震えていた。
「こっ こっ この方は何組だァ~~~~~ッッ!」
もはやピチュりそうな勢いである。
「いや……紅魔組?」
「ン バカッ」
べちっとスターオーシャンの顔面にパンチを入れるサニー。
「てめェらもスペルカードやってんなら、名前くらい覚えとけッッ」
サニーは走り出した。
「繋がった……」
その脳はフル回転。今朝方起こった奇跡のワケが、ようやく彼女にも解ったのだ。
「hyらんぉー!!」
奇声と共に教室に飛び込む! いない!
左右を見渡す! 走る!
いた! 上白沢慧音立像の前だ!
「すんませんッ」
DOGEZAである!
「知らぬこととはいえ、取り返しのつかねェマチガイをッ!」
繰り返すが、DOGEZAである!
「サニーさん。頭ァあげてくれ」
「いえいえいえいえッ」
足元に差し出された財布をまえに、フランドールもまた膝を地に乗せた。
「一度出したカリスマだ……受け取れねェよ……」
サニーが顔を上げる。
「無期停学の満期も……出所も同じよなもんじゃねェか……」
後ろ姿でフランドールは続けた。
「それともう一つ、サニーさん。こういった挨拶は、今回限りにしてくれ」
人にも、妖怪にも、妖精にも、もろもろにも。
等しく手を差し伸べる上白沢慧音立像は、黄銅製である。つまりは……フランドールの手をとれるくらいには、柔らかい。
「私は今、この人のもとに草鞋を脱いでいる」
……霊夢は一向に理解しない阿求に、ひとことだけ残して去った。
「校内に猛獣がいることッ! ……忘れるんじゃないわよ」
一方、フランドールは冷たい手を握る。
「ごく普通の。善良な学生として生きてゆくんだ」
続かない。