家に帰ると、邪仙が死んだふりをしています。
「したいー」
「ああ、芳香。そうですね、あなたは死体ですね」
ぺしぺし叩いて青娥を起こすと、青娥はそれ以上何かをするでもなくむっくり起き上がって部屋に戻ります。
台所には屠自古も倒れて死んだふりをしています。
「屠自古」
「ゆうれいー」
「そうですね、あなたは幽霊ですね」
太子様今日の晩ご飯は何がいいですか。屠自古もそれ以上何かを言うでもなく、夕食の準備をしています。
私は何となく肩身が狭くなりました。何を求められているのか今ひとつ分からず、私一人台本のない演劇をさせられているような気分になっています。
「ねえ、屠自古」
「はい」
「今の、何だったんです?」
「今のって?」
「ゆうれいとか……」
「? 私、幽霊ですから? 変ですか?」
「いえ、別に……変ではないですね 幽霊ですものね」
私は布都の部屋に行ってみました。
「おお! 太子様! 気分はいかがですか?」
「ええ、変わりませんよ。元気です」
布都はいつも通りでした。どうしてか安心しました。布都は、碁盤を挟んで青娥と碁を打っていました。
「物部様、物部様」
「うむ? ……おお、そうであった、そうであった」
布都は頷くと丸薬を口に含むふりをしてぱたりと倒れました。死んだふりです。やっぱりお前もそうなのかと私は聞いてみたくなりました。
「おやおやもののべさまー どうかしたのですかー ごぶじですかー」
「……青娥、どういうおつもりで?」
「ううっ」
ぱたり、と青娥も倒れました。
「したいー」
「ええそうですね、芳香、あなたは死体ですね」
ふうむ、と考えてみました。私もその隣に倒れてみました。
部屋の中に死体がみっつ。あと芳香。
何だか、何が起こっていて何をしているのか、全然分からなくて、釈然としない気持ちになりました。
私がそうすると、青娥も布都もむっくり起き上がって碁の続きを打ち始めました。
起き上がると、青娥も布都もぱったり倒れました。むしゃくしゃして碁を引っかき回してやりました。
その日の夕食は静かでした。皆死んだふりをしているからです。
私は一人黙々と食べて、青娥も布都も屠自古も薄目を開けて静かに動いていました。正直死んだふりでもないけどそんな風にしているのです。
私が聞いても皆はぐらかすので、私は黙って席を立って部屋に戻りました。
次の日になってみると、青娥は倒れていました。次の日も死んだふりをしていました。
布都も、部屋で倒れていました。
屠自古は台所で食事を作っていました。
「したいー」
「ああそうですね、あなたは死体ですね」
私は屠自古に聞いてみました。
「屠自古、皆どうして死んだふりをしているのですか?」
「死んだふり?」
「死んだふりしているじゃないですか」
「……太子様は生きてるのでしょう?」
生きているとは何か。私は一度死にました。もしかしたら、死んだふりを続けているようなものかもしれません。
「生きて、ますよ」
「太子様は尸解仙になって生き返ったんですものね」
「……本当ですか?」
「ええ。太子様は尸解仙になって復活しました」
本当にそう? どうしてか、私は屠自古の言っていることが信じられない気がしました。
青娥と布都が起き上がってきて、昼飯はまだかと騒ぎ立てました。
皆何かしら失敗して死んでしまったのではないかな、そうでなくても似たようなものじゃないのかな、と思いました。
青娥にゃんと芳香がごっちゃになってるのも拍車をかけてる