「……自転車に、乗れないの」
恥ずかしそうに、俯きながらそう言ったのは他ならぬ博麗の巫女の霊夢だった。
……というよりも、何だろう、少し涙目になっていた。
これは少し面倒なことになりそうだぜ、と魔理沙は思った。
「あ、いや、ほら、無理に聞き出したのは悪かったけどさ、別に良いじゃないか、それくらい。空飛べたら乗る機会なんてないし、乗れなくたって困らないって、うん」
「……じゃあ魔理沙も乗れないの?」
「いや、乗れるぜ? ガキの頃は里一番のスピード狂としてならしたもので、って――」
「………………」
霊夢が目に見えて落ち込んだ。
――いや、確かに霊夢が自転車に乗れないっていうのは意外だったが、それは必要に迫られなかったというだけの話じゃないのか?
何でも器用にこなせる霊夢のことだから、いざ乗ってみたら案外すんなりと乗れそうだと、そう魔理沙は思う。
「……じゃあ自転車の練習でもしてみるか?」
「っ! 嫌よ! 絶対あんなおぞましい乗り物になんか、もう二度と乗ったりしないんだから!」
「…………?」
その口ぶりだと一度乗ったことがあるようで、しかも何かトラウマになるような出来事がそこにはある雰囲気だ。
――これは面白い。
「よし、じゃあ決まりだな。ちょっと自転車取ってくるぜ」
「ちょっ、人の話を聞きなさいよ! 嫌だからね、絶対に自転車になんか乗らないんだから!」
「霊夢さーん、魔理沙さーん、自転車持ってお邪魔しにきましたー」
「おう早苗、グッドタイミングだぜ!」
「およ?」
「バッドコミュニケーションよ、早苗。だから今すぐその自転車持って帰りなさい」
「……なるほど、霊夢さんが自転車に乗れないから練習させようと思ったけど霊夢さんが自転車に乗りたがらない、という感じですか」
「何その状況把握能力」
「尺の関係です」
「尺の関係だな、よしそういうことだから早速練習にいくぜ!」
「おー」
「いーやーだー離しなさいよー」
「というわけで里の近くの平坦なワインディングロードに着いたぜ」
「……どうしてよりにもよってこんな見通しの悪い曲がりくねった道を選ぶのよ」
「それは霊夢さんが人目につかない所を希望したからですよ」
「……しかもなんだか転んだら痛そうなんだけど」
「転んで痛くない道なんてないぜ」
「そうですよ。むしろコンクリートじゃないだけ、外の世界よりはマシかも知れませんよ」
「……うー、どうして私がこんな目に」
「いいじゃないか。お前だって自転車に乗れないことを恥ずかしいと思っているみたいだし、この機会に乗れるようになってしまえば問題解決だろ?」
「……ところで、どうすれば乗れるようになるわけ?」
「うーん、私の場合はまず補助輪つきの子供用自転車で慣れてから、補助輪を片方外したりして、そのうち自然と補助輪なしで乗れるようになりましたが――」
「ただ今回は尺の関係でそんな悠長な手段をとっているわけにもいかないからな……クククッ、まさかまたこの手段を使う日がくるとはな――」
「魔理沙、何かキャラ変わってるわよ」
「っ! これはまさか、あの伝説の!」
「知っているの、早苗?」
「ええ、噂で聞いたことがあります。昔、人間の里で恐れられた《斬鮫魔裏鎖》というチャリンコ暴走族の長の話を。何でも彼女はその類稀な指導力とカリスマで里の子供の憧れを一身に背負い、ついに自転車に乗れない子供たちを撲滅することに成功したといいます」
「……その言い方だと自転車に乗れない子供たちが事故死したようにも聞こえるけど」
「問おう、博麗霊夢よ。貴様はどうしても自転車に乗りたいというのだな?」
「……えっ? 私、一度でもそんなこと言ったかしら」
「クズが! その年齢にもなって自転車に乗れないなど、恥ずかしいとは思わんのかクズめ! 生き恥を晒すクズの分際で腋を露出させるなど、万死に値する!」
「……うっ、ぐすっ……すみません、自転車に乗れないのに腋を露出していてすみません……」
「あの霊夢さんが謝った! これが《斬鮫魔裏鎖》の力――」
「まあいい。とりあえず貴様、一度自転車に乗ってみろ」
「……わかりました」
「霊夢さんが素直だ!」
そうして霊夢は言われるがままに早苗の自転車(主婦カスタム)に跨ると、恐る恐るゆっくりとペダルをこぎ始めた。
こけないように、こけても痛くないように、ゆっくりと。
しかし――転倒。
「……やっぱりこんな急には乗れないわよ」
「ええい、止めろクズが! 誰に教わったか知らんが、そのような乗り方で自転車に触れるな!」
「自分で乗れって言ったり止めろといったり、さすが伝説のカリスマは横暴だ!」
「黙れ小娘」
そうして早苗を一蹴すると、倒れている自転車を起こし、霊夢の前に立つ。
「いいか霊夢よ。自転車に必要なのは勢いだ。最初に地面を思い切り蹴り、そのうえで強くペダルを踏み込む。ゆっくり走ったり跨ったまま静止したりするなど、そんなことは上級者でも難しい。恐れるな、スピードこそが唯一の貴様の味方と思え」
そういって再度霊夢を自転車に乗せる。
しかし言葉だけで恐怖心を簡単に克服できるのならば世の中に自転車に乗れない人間など存在しない。
さっきよりはいくらか頑張ったものの、やはり――転倒。
「ええい、クズめ! ……仕方あるまい、早苗」
「分かりました」
「えっ、今ので分かるの?」
「では霊夢さん、私が後ろから支えますから、全力でペダルをこいでくださいね」
「嫌よ! 支えるとか言いながらどうせあんた途中で手を離すんでしょ」
「そんなー、疑われるなんて心外ですよー、手を離したりなんてするわけないじゃないですかー」
「……で、本当のところは」
「もちろん離しますけど」
「認めてるんじゃないわよ! そこは嘘でも離さないって言って私を信用させなさいよ!」
「うわぁ、なんだが霊夢さんが面倒くさい人になってます……まあいいや、それじゃあ発進!」
「えっ、ちょ、うわ、あんた、待ち――」
「そらそらそらそらぁぁぁ!」
早苗、全力疾走。
以下、尺の関係によりランサーのコンボ音声とともにお送りします。
そらそらそらあらよっそらあらよそら派手に行くぜそらそらはぁ貫けそら派手にそらそらそらそらそら終わりだそらそらはっそらそらそらそらそらそらそら行くぜゲイッボルグッ! その程度じゃねえだろうな?
「…………私二度とこのゲームやらない」
「何この作者みたいなこと言ってるんですか?」
「ええいクズが! ……全く、これでは埒があかん。場所を変えるぞ」
「――というわけで、峠道の頂上まで来たわけですが」
「クククッ――この最終奥義を受けて自転車に乗れなかった者は誰一人として存在していない」
「……まあ、乗れなかったら多分生きてはいないでしょうけどね」
そういって早苗が霊夢の方を見やった。
そこには自転車にロープで固定された霊夢の姿がある。
手をハンドルに、足をペダルに、腰をサドルに。
自転車と一体化した状態で、眼下には急傾斜の峠道。
乗れなければ、生き残れない。
――絶対に負けられない戦いが、ここにある。
「ちょっと、まさか本気でやったりはしないわよね? 冗談でしょう? ねえ早苗、魔理沙?」
「――と、何だか陵辱モノの同人誌みたいなセリフを言ってますけど?」
「無論、実行あるのみだ!」
「だそうです」
「飛べ! この一撃、手向けと受け取れ!」
そう叫んだ魔理沙が自転車を押し、後輪を浮かしていた両足スタンドが上がる。
――まだ慌てるような時間じゃない。
切り取られた時間の中で、スローモーションのように後輪が地面に着く。
――それでも位置エネルギーなら、位置エネルギーならきっとなんとかしてくれる!
………………ダメじゃん。
「では霊夢さん、バイシクルとデスティニーをトゥギャザーしましょう!」
「ククク――霊夢よ、麓でまた相見えようぞ!」
「あほー! 魔理沙と早苗の、あほーーーーー」
急速に遠ざかる霊夢の声にはドップラー効果が適用されることが確認される。
その一方で霊夢は赤いが赤方偏移は起こっていないことも確認された。
シュゥゥゥー……。(※ツクダオリジナルではない)
麓まで一気に駆け下りるまで転倒せずにバランスを取り続けられたことで、確かに自転車に乗れるようになった感覚とともに、霊夢は少しの喜びを感じていた。
(体が軽い……こんな幸せな気持ちで走るのなんて始めて――もう何も恐くない……!)
しかしながら、ハンドルに手を縛り付けられているため、ブレーキをかけることが出来ないことに、ふと気付いてしまった。ちなみに布都が気付いたわけではない。
その瞬間、目前に迫る大きな樹木。
(ああ――ハードラックとダンスってしまう)
がしゃーん。(※3ゲットロボではない)
「見つけました、こっちです」
「おお、いたか! ……うわぁ」
「私の自転車が!」
「ちょっと、自転車より私の心配しなさいよ!」
「だってお前、ピンピンしてるじゃないか。凄いな、霊夢。どうやったんだ?」
「いや、普通のことをやったまでよ」
実際のところ、霊夢は衝突する寸前にウィリー走行をして、両輪から木にぶつかっていった。その結果タイヤは吹っ飛び、自転車のフレームはグシャっとなってしまったが、それがクッションとなったことで霊夢はなんとか無事ですんだのだ。
「死ぬかと思ったわよ、全く。あんた達、なんてことするのよ」
「私の自転車がー……」
「いやー、でもおかげで霊夢、自転車乗れるようになっただろ?」
「私の自転車がー……」
「まあ、それはそうだけど」
「私の自転車がー……」
「……で、この自転車だったモノ、どうするのよ魔理沙」
「うーん……そうだ、河童のところにでも持っていくか? もしかしたらノリノリで変形機構とかつけてくれるかも知れないぜ?」
「変形!」
その単語一つで早苗の眼が輝いた。
「そうと決まればさっそく河童さんのところにも持って行きます! あ、霊夢さん、自転車乗れるようになってよかったですね、それではまた会いましょう!」
早苗はそれだけを言い残すと自転車の残骸を担いで飛んでいった。
「……まあ早苗があれでいいならいいけどね」
「そうだな。ところで、霊夢。自転車に乗れるようになった感想はどうだ?」
そう尋ねられて、霊夢は少し考える。
「そうね……やっぱり、二度と乗りたいとは思わないかな。……ところで魔理沙、覚えているかしら?」
「ん? 何をだぜ?」
どうやら覚えていないらしい魔理沙に、霊夢はにっこりと、見ようによっては恐い笑顔を向けた。
「私ね……自転車に縛られてあんたに峠の頂上から突き飛ばされるの、二度目なのよ」
――その後魔理沙がどうなったのかは、霊夢のみぞ知ることだった。
恥ずかしそうに、俯きながらそう言ったのは他ならぬ博麗の巫女の霊夢だった。
……というよりも、何だろう、少し涙目になっていた。
これは少し面倒なことになりそうだぜ、と魔理沙は思った。
「あ、いや、ほら、無理に聞き出したのは悪かったけどさ、別に良いじゃないか、それくらい。空飛べたら乗る機会なんてないし、乗れなくたって困らないって、うん」
「……じゃあ魔理沙も乗れないの?」
「いや、乗れるぜ? ガキの頃は里一番のスピード狂としてならしたもので、って――」
「………………」
霊夢が目に見えて落ち込んだ。
――いや、確かに霊夢が自転車に乗れないっていうのは意外だったが、それは必要に迫られなかったというだけの話じゃないのか?
何でも器用にこなせる霊夢のことだから、いざ乗ってみたら案外すんなりと乗れそうだと、そう魔理沙は思う。
「……じゃあ自転車の練習でもしてみるか?」
「っ! 嫌よ! 絶対あんなおぞましい乗り物になんか、もう二度と乗ったりしないんだから!」
「…………?」
その口ぶりだと一度乗ったことがあるようで、しかも何かトラウマになるような出来事がそこにはある雰囲気だ。
――これは面白い。
「よし、じゃあ決まりだな。ちょっと自転車取ってくるぜ」
「ちょっ、人の話を聞きなさいよ! 嫌だからね、絶対に自転車になんか乗らないんだから!」
「霊夢さーん、魔理沙さーん、自転車持ってお邪魔しにきましたー」
「おう早苗、グッドタイミングだぜ!」
「およ?」
「バッドコミュニケーションよ、早苗。だから今すぐその自転車持って帰りなさい」
「……なるほど、霊夢さんが自転車に乗れないから練習させようと思ったけど霊夢さんが自転車に乗りたがらない、という感じですか」
「何その状況把握能力」
「尺の関係です」
「尺の関係だな、よしそういうことだから早速練習にいくぜ!」
「おー」
「いーやーだー離しなさいよー」
「というわけで里の近くの平坦なワインディングロードに着いたぜ」
「……どうしてよりにもよってこんな見通しの悪い曲がりくねった道を選ぶのよ」
「それは霊夢さんが人目につかない所を希望したからですよ」
「……しかもなんだか転んだら痛そうなんだけど」
「転んで痛くない道なんてないぜ」
「そうですよ。むしろコンクリートじゃないだけ、外の世界よりはマシかも知れませんよ」
「……うー、どうして私がこんな目に」
「いいじゃないか。お前だって自転車に乗れないことを恥ずかしいと思っているみたいだし、この機会に乗れるようになってしまえば問題解決だろ?」
「……ところで、どうすれば乗れるようになるわけ?」
「うーん、私の場合はまず補助輪つきの子供用自転車で慣れてから、補助輪を片方外したりして、そのうち自然と補助輪なしで乗れるようになりましたが――」
「ただ今回は尺の関係でそんな悠長な手段をとっているわけにもいかないからな……クククッ、まさかまたこの手段を使う日がくるとはな――」
「魔理沙、何かキャラ変わってるわよ」
「っ! これはまさか、あの伝説の!」
「知っているの、早苗?」
「ええ、噂で聞いたことがあります。昔、人間の里で恐れられた《斬鮫魔裏鎖》というチャリンコ暴走族の長の話を。何でも彼女はその類稀な指導力とカリスマで里の子供の憧れを一身に背負い、ついに自転車に乗れない子供たちを撲滅することに成功したといいます」
「……その言い方だと自転車に乗れない子供たちが事故死したようにも聞こえるけど」
「問おう、博麗霊夢よ。貴様はどうしても自転車に乗りたいというのだな?」
「……えっ? 私、一度でもそんなこと言ったかしら」
「クズが! その年齢にもなって自転車に乗れないなど、恥ずかしいとは思わんのかクズめ! 生き恥を晒すクズの分際で腋を露出させるなど、万死に値する!」
「……うっ、ぐすっ……すみません、自転車に乗れないのに腋を露出していてすみません……」
「あの霊夢さんが謝った! これが《斬鮫魔裏鎖》の力――」
「まあいい。とりあえず貴様、一度自転車に乗ってみろ」
「……わかりました」
「霊夢さんが素直だ!」
そうして霊夢は言われるがままに早苗の自転車(主婦カスタム)に跨ると、恐る恐るゆっくりとペダルをこぎ始めた。
こけないように、こけても痛くないように、ゆっくりと。
しかし――転倒。
「……やっぱりこんな急には乗れないわよ」
「ええい、止めろクズが! 誰に教わったか知らんが、そのような乗り方で自転車に触れるな!」
「自分で乗れって言ったり止めろといったり、さすが伝説のカリスマは横暴だ!」
「黙れ小娘」
そうして早苗を一蹴すると、倒れている自転車を起こし、霊夢の前に立つ。
「いいか霊夢よ。自転車に必要なのは勢いだ。最初に地面を思い切り蹴り、そのうえで強くペダルを踏み込む。ゆっくり走ったり跨ったまま静止したりするなど、そんなことは上級者でも難しい。恐れるな、スピードこそが唯一の貴様の味方と思え」
そういって再度霊夢を自転車に乗せる。
しかし言葉だけで恐怖心を簡単に克服できるのならば世の中に自転車に乗れない人間など存在しない。
さっきよりはいくらか頑張ったものの、やはり――転倒。
「ええい、クズめ! ……仕方あるまい、早苗」
「分かりました」
「えっ、今ので分かるの?」
「では霊夢さん、私が後ろから支えますから、全力でペダルをこいでくださいね」
「嫌よ! 支えるとか言いながらどうせあんた途中で手を離すんでしょ」
「そんなー、疑われるなんて心外ですよー、手を離したりなんてするわけないじゃないですかー」
「……で、本当のところは」
「もちろん離しますけど」
「認めてるんじゃないわよ! そこは嘘でも離さないって言って私を信用させなさいよ!」
「うわぁ、なんだが霊夢さんが面倒くさい人になってます……まあいいや、それじゃあ発進!」
「えっ、ちょ、うわ、あんた、待ち――」
「そらそらそらそらぁぁぁ!」
早苗、全力疾走。
以下、尺の関係によりランサーのコンボ音声とともにお送りします。
そらそらそらあらよっそらあらよそら派手に行くぜそらそらはぁ貫けそら派手にそらそらそらそらそら終わりだそらそらはっそらそらそらそらそらそらそら行くぜゲイッボルグッ! その程度じゃねえだろうな?
「…………私二度とこのゲームやらない」
「何この作者みたいなこと言ってるんですか?」
「ええいクズが! ……全く、これでは埒があかん。場所を変えるぞ」
「――というわけで、峠道の頂上まで来たわけですが」
「クククッ――この最終奥義を受けて自転車に乗れなかった者は誰一人として存在していない」
「……まあ、乗れなかったら多分生きてはいないでしょうけどね」
そういって早苗が霊夢の方を見やった。
そこには自転車にロープで固定された霊夢の姿がある。
手をハンドルに、足をペダルに、腰をサドルに。
自転車と一体化した状態で、眼下には急傾斜の峠道。
乗れなければ、生き残れない。
――絶対に負けられない戦いが、ここにある。
「ちょっと、まさか本気でやったりはしないわよね? 冗談でしょう? ねえ早苗、魔理沙?」
「――と、何だか陵辱モノの同人誌みたいなセリフを言ってますけど?」
「無論、実行あるのみだ!」
「だそうです」
「飛べ! この一撃、手向けと受け取れ!」
そう叫んだ魔理沙が自転車を押し、後輪を浮かしていた両足スタンドが上がる。
――まだ慌てるような時間じゃない。
切り取られた時間の中で、スローモーションのように後輪が地面に着く。
――それでも位置エネルギーなら、位置エネルギーならきっとなんとかしてくれる!
………………ダメじゃん。
「では霊夢さん、バイシクルとデスティニーをトゥギャザーしましょう!」
「ククク――霊夢よ、麓でまた相見えようぞ!」
「あほー! 魔理沙と早苗の、あほーーーーー」
急速に遠ざかる霊夢の声にはドップラー効果が適用されることが確認される。
その一方で霊夢は赤いが赤方偏移は起こっていないことも確認された。
シュゥゥゥー……。(※ツクダオリジナルではない)
麓まで一気に駆け下りるまで転倒せずにバランスを取り続けられたことで、確かに自転車に乗れるようになった感覚とともに、霊夢は少しの喜びを感じていた。
(体が軽い……こんな幸せな気持ちで走るのなんて始めて――もう何も恐くない……!)
しかしながら、ハンドルに手を縛り付けられているため、ブレーキをかけることが出来ないことに、ふと気付いてしまった。ちなみに布都が気付いたわけではない。
その瞬間、目前に迫る大きな樹木。
(ああ――ハードラックとダンスってしまう)
がしゃーん。(※3ゲットロボではない)
「見つけました、こっちです」
「おお、いたか! ……うわぁ」
「私の自転車が!」
「ちょっと、自転車より私の心配しなさいよ!」
「だってお前、ピンピンしてるじゃないか。凄いな、霊夢。どうやったんだ?」
「いや、普通のことをやったまでよ」
実際のところ、霊夢は衝突する寸前にウィリー走行をして、両輪から木にぶつかっていった。その結果タイヤは吹っ飛び、自転車のフレームはグシャっとなってしまったが、それがクッションとなったことで霊夢はなんとか無事ですんだのだ。
「死ぬかと思ったわよ、全く。あんた達、なんてことするのよ」
「私の自転車がー……」
「いやー、でもおかげで霊夢、自転車乗れるようになっただろ?」
「私の自転車がー……」
「まあ、それはそうだけど」
「私の自転車がー……」
「……で、この自転車だったモノ、どうするのよ魔理沙」
「うーん……そうだ、河童のところにでも持っていくか? もしかしたらノリノリで変形機構とかつけてくれるかも知れないぜ?」
「変形!」
その単語一つで早苗の眼が輝いた。
「そうと決まればさっそく河童さんのところにも持って行きます! あ、霊夢さん、自転車乗れるようになってよかったですね、それではまた会いましょう!」
早苗はそれだけを言い残すと自転車の残骸を担いで飛んでいった。
「……まあ早苗があれでいいならいいけどね」
「そうだな。ところで、霊夢。自転車に乗れるようになった感想はどうだ?」
そう尋ねられて、霊夢は少し考える。
「そうね……やっぱり、二度と乗りたいとは思わないかな。……ところで魔理沙、覚えているかしら?」
「ん? 何をだぜ?」
どうやら覚えていないらしい魔理沙に、霊夢はにっこりと、見ようによっては恐い笑顔を向けた。
「私ね……自転車に縛られてあんたに峠の頂上から突き飛ばされるの、二度目なのよ」
――その後魔理沙がどうなったのかは、霊夢のみぞ知ることだった。
さすが魔理沙さんは格が違うな。
早苗さんの都合のよさ!