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僕の復活

2013/04/01 01:30:33
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さめは寝ないで僕の欠片を探してくれていたので、僕はだんだんと申し訳ない気分になって隅の方に黙って腰掛けておりました。

どうにも僕が気になってしようがないのは、もちろんさめは最初はばらばらになって困っている僕を助けようとしてくれたのだろうけれども、すでに最初の目的はどこか遠い異国の浜辺に打ち捨てられて、今となってはさめの体を動かしているのは、自分にはこの程度のことなど造作もないはずなのだという意地にすぎないのではないかということでした。
助けてもらっている立場でそのようなことを考えるのが失礼なのは僕も存じております。
ただ考えというものは僕の置かれている状況、受けている恩とは独立して、ぱっぱ、ぱっぱと脳髄の中を駆け巡るものでありまして、それは僕の良心というものが介在する余地のないものなのでございます。

しかしその動機がどこからくるものであれ、さめは本当に必死になって僕の欠片を探してくれていましたし、それに対して僕は一点の曇りもない感謝の気持ちを持っておりました。
さめの目は冬の海の中でも小さな真珠のようにきらきらと輝いていまして、それを見ているだけでも僕は心が大いに休まるのでした。

そのうちにぼんやりとした光が独りでに僕の周りに集まってきまして、ゆるゆる焦点を結び始めました。
僕はまいったなあと思いながらもどうすることもできません。
集まってきたのはやはり僕の欠片で、欠片はもとあるべき場所へすいすいと音もなくくっついていきました。
冬の海の隅っこで僕は突然図らずも復活いたしました。

ええ、お察しの通り、こういう状況はひどく気まずいものでございます。
さめもなんだか今までの努力がばからしくなったことでしょうし、また僕の復活のために尽力してくれていたのだから表面上は喜ばなくてはなりません。
僕にしたって、それは、せっかくさめが僕を助けようとしてくれていたのだからさめに助けて欲しかったところでございます。
それなのに、突然よく分からない力によって独りでに助かるなど、それは例えるならば試験の途中で模範解答を知らされるようなものでございます。
努力というものは、できるならば本来あるべき形で報われるべきだと、僕はそのように考えます。
しかし残念ながら現実とはこういう風にいつも巡り合わせの悪いものです。

まあとにかくそのようにして僕は復活いたしました。
それが先月のことでございます。
ええ、それからはパンの耳や大麦の粒などを毎日食べて養生いたしまして、そう、おかげさまでご覧の通り、新月の夜には杖もつかずに外を出歩けるようになりました。
これもすべてさめのお陰だと、僕はそう思っております。

さめですか?
ええ、さめもどういうわけか知りませんが空気の中を泳ぐことができるようになったらしく、あれからというものいつも僕と一緒におります。
たくさんの食べ物が必要なのが彼の困ったところでございますが、いえなに、それくらいの欠点は何でもございません。
ひととひとというのはお互いを補うことでなんとかうまくやっていけるもので、いちばんのさいわいに至るためにいろいろのかなしみもみんなおぼしめしです。

ええ、はい、そうです。
今まさにあなた様の後ろで大口を開けているのが件のさめでございます。

ご静聴ありがとうございました。
それでは、さようなら。
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コメント



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5.186370ナルスフ削除
残像だ
6.274636指導員削除
もうそろそろ作者名みなくても判別つきそう